絵本作家インタビュー

vol.106 絵本作家 ユリア・ヴォリさん

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『ぶた』シリーズで人気のフィンランドの絵本作家ユリア・ヴォリさんです。来日は三度を数える親日家のユリアさん。作品に関するお話はもちろん、日本とフィンランドの絵本読み聞かせについて伺うため、現地フィンランドを訪問して実施した特別インタビューです!

絵本作家・ユリア・ヴォリさん

ユリア・ヴォリ (Julia Vuori)

1968年、フィンランド・ヘルシンキ生まれ。ヘルシンキ美術工芸大学で美術を学んだのち、絵描きのネズミを主人公にした『EERO』でデビュー。2001年ボローニャ国際児童図書賞特別賞を受賞。代表作『Sika』は、日本では邦題『ぶた』(文溪堂)として2001年に翻訳出版されて以降、『ぶた、ふたたび』『ぶた いろいろなきもち』とつづく人気シリーズ。「バムケロ」シリーズの作者・島田ゆかさんと親交が深く、来日も三度を数える。3人の男の子の母親。

『ぶた』シリーズ主人公のモデルは?

ぶた ぶた ふたたび

▲ユリア・ヴォリさんの人気作『ぶた』『ぶた ふたたび』(いずれも文溪堂)

―― 『Sika』の主人公のぶたのキャラクターは、どのようにしてつくりあげていかれたのでしょうか。

「ぶた」はもともと、フィンランドの全国紙の週刊情報誌で連載されていたものです。ぶたは当初は白黒でしたが、連載として登場させるにあたり、カラーになりました。

ぶたは好奇心旺盛でいろんなことに挑戦したり、いろんな場所に出かけたりします。キャラクターはある一面では私自身をモデルにしているところもあるのですが、一方では「こうだったらいいな」「こうしてみたいな」という私の願望だったりもします。

―― ユリアさんの作品は、キャラクターのかわいさもさることながら、色彩の美しさも非常に魅力的です。絵本を描く上で大切にしていること、意識していることについて教えてください。

色彩は絵本を描く上でとても大切です。ただそれ以外に、私の場合、絵本を通じて何か強いメッセージを伝えるというより、むしろ読者の皆さんにリラックスしてもらえること、難しいことを考えるよりは頭のなかをラクにしてもらえることを意識して絵本を描いています。

ただ、ネガティブな感情はひとりで抱え込んだりせず、誰かとシェアしたり助け合ってほしい、ということは伝えたいと考えています。

「バムケロ」シリーズの島田ゆかさんとの親交

ぶた いろいろなかず

▲「ぶた」シリーズの数の絵本『ぶた いろいろなかず』(文溪堂)。日本語訳は島田ゆかさん

―― 「Sika」シリーズで日本語版の文字を書かれているのは、『バムとケロ』の島田ゆかさんだそうですね。一部の作品では翻訳も担当されてらっしゃいます。先日は日本で二人展も開催されたとのことですが、島田さんとはいつからどんな風に交流されてらっしゃるのですか。

島田ゆかさんとは10年以上親交があります。きっかけは彼女がメールでコンタクトをとってきたのが始まりです。最初は私のアドレスがわからなかったため、直接ではなかったものの、そのメッセージを受け取ることができて、それに対して返信をしました。それ以来メールでコミュニケーションを取り始め、お互いの作品や新作を送り合ったりするようになりました。

その後何度かお会いしまして、まず最初はフィンランドで、そして日本では2008年に京都で開催した私の個展で再会しました。さらに今では一緒に二人展を行う仲になりました。彼女はとてもよい友人で、お互い尊敬しています。

―― 日本の絵本とフィンランドの絵本、違いを感じますか?

日本とフィンランドの絵本では、たしかに違いはあると感じます。日本はフィンランドに比べてたくさんの種類の絵本がありますし、子どものための本の歴史も古いと思います。表現でいえば、自然のありようは日本とフィンランドでは異なりますから、当然描き方は違いますよね。

ただ、私は島田ゆかさんの作品のほかにも、英語に翻訳された日本の絵本も何冊か持っているのですが、類似している点もたくさんあると思います。具体的にと言われるとなかなか簡単には答えにくいのですが……(笑)

母国フィンランドの「ムーミン」シリーズに親しんだ幼少時代

―― 小さい頃はどんなお子さんでしたか?

1歳の頃から絵を描き始めていました。自分でストーリーを作って絵本や雑誌を作ったりして、家族に見せていました。私の場合、父も絵本作家(ペッカ・ヴォリさん)なので、幼少の頃から本を作る過程を見ていたからでしょうね。

子どもの本もたくさん読みましたよ。フィンランドの作家、トーベ・ヤンソンさんの「ムーミン」シリーズはもちろん、「不思議の国のアリス」や「タンタンの冒険」も大好きですし、たくさんの種類の本を読んできました。

―― お父様の絵本作家、ペッカ・ヴォリさんから影響は受けましたか? お父様の作風とユリアさんの作風、似たところはありますか?

たしかに影響は受けていると思います。自分ではなかなかわからないのですが、人に指摘されるのは、色使いが似ているのではということ。ただ、父はフィンランドの自然やクリスマスの情景、そして「トントゥ(=こびと)」を描いたりなど、どちらかといえばカントリーサイドな作風です。でも私はヘルシンキ(=フィンランドの首都)の生まれですし、都会的な作風です(笑)

ユリアさんご家族が住む、北欧フィンランドの首都・ヘルシンキの街並み

▲ユリアさんご家族が住む、北欧フィンランドの首都・ヘルシンキの街並み

―― 3人のお子さんのママでもあるそうですが、お子さんにご自身の絵本を読まれることはありますか?

私には11歳、9歳、4歳と3人の男の子がいます。彼らは『Sika』は知っていますが、読んであげるのは彼らが望んだときだけですね。わが家に絵本はたくさんありますが、彼らの興味のおもむくままに選ばせてあげています。

―― 絵本と親子の関係についてはどのように思われますか?

子育てしている中で、絵本を読み聞かせることを日常的な習慣にしていれば、そうした環境はきっと子どもの成長にとってよい影響を与えると思います。

私も実際、自分の子どもたちに毎晩たくさんの読み聞かせをしていました。『ロード・オブ・ザ・リング』の原作なんかも読んであげましたね。もちろん読み聞かせ以外にも、一緒に遊んだり、公園やプールに出かけたりなど、親子で同じ時間を過ごすということが、きずなを深めることにつながるのではないでしょうか。

「いいな」と選んだ直感を親子で尊重してほしい

絵本作家・ユリア・ヴォリ

―― ユリアさんが子育ての中で大切にしていること、ポリシーなどあれば教えてください。

難しい質問ですね……。そうですね、あえてあげるなら「バランス」でしょうか。

たとえば、子どもの面倒を見てあげることは大切ですが、手をかけすぎてしまうと自立を妨げてしまいますよね。しつけも厳し過ぎてはいけないですし、スケジュールをつくってあげることは大切ですが詰め込み過ぎはよくないでしょう。それらの「バランス」加減を整えて示すことが、親のポリシーとして大事なところになると思います。

―― 絵本の選び方や楽しみ方について、何かアドバイスをいただけますか。

表紙の第一印象はとても大事だと思います。表紙のデザインや色使いだったり、タイトルであったり、ただ単に「いいな」と思った感情であるとか。でも、印象というものはそれぞれの人にとっての受け止め方ですから、具体的にどれがいいとかいうことではないと思います。

―― 今後の作品のご予定などをお聞かせいただけますか。

子どもたちのためのアートブックを作りたいと考えてます。もちろん『Sika』シリーズの続編も続けていきますよ。最近は児童文学の挿絵のお仕事も多いですね。一方では、ユニセフやフィンランド赤十字、小児がんの研究団体といった、子どもたちのためのプロジェクトで社会貢献活動にも関わっています。

―― 子育て真っ最中のミーテ会員のみなさんに向けてメッセージをお願いします。

いくつになっても、「子どもたちを信頼すること」が大切だと思います。個性を尊重し、子どもが選んだものをリスペクトすること。親が選ぶのと同じものでなくてもですね。ただ、自分の子どもに対してですら実践することは難しいのですが(笑)、理想として抱いていたいですね。


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