絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『ゆうたはともだち』をはじめとする「ゆうたくんちのいばりいぬ」シリーズで人気の絵本作家・きたやまようこさんです。昨年新装版として出版されたデビュー作の制作エピソードや、愛犬のためにとった一年間の育児休暇、絵本に込めた思いなどを伺いました。子育てのヒントも満載のインタビューですよ!
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→)
1949年、東京都生まれ。文化学院芸術科卒業。絵本作家、翻訳家。「ゆうたくんちのいばりいぬ」第1集(あかね書房)で第20回講談社出版文化賞絵本賞、『じんぺいの絵日記』(あかね書房)と『りっぱな犬になる方法』(理論社)で第16回路傍の石幼少年文学賞など、受賞多数。そのほか、主な作品に「おにのこあかたろうのほん」「こぶたのあかちゃん」シリーズ(偕成社)、『りっぱなうんち』(あすなろ書房)などがある。
きたやまようこオフィシャルサイト「うわさのホームページ」 http://kitayama-yoko.com/
物心ついた頃には絵を描き、文字を覚えた頃にはお話を書く……小さい頃の私はそんな子どもでした。お話に絵をつけたり、漫画を描いたり、歌や詩をつくったりするのが、好きだったんですよね。小学生のときには画用紙でつくった自作の本を月刊誌として出したりもしてたんですよ。
絵本作家を目指すようになったのは、大学に入ってから。大学で絵の勉強をするうちに自然と子どもの本を描きたいと思うようになって、児童文学の授業をとったり、同人誌を始めたりしたんです。その頃にたくさんの絵本と出会って……フェリクス・ホフマンとかマリー・ホール・エッツとかの作品を見て、絵本の世界ってすごいなと思うようになりました。
初めて子どもの本の仕事をしたのは、大学在学中の19歳のときのこと。先生の紹介で出版社に作品を持って行ったら、「母と子の世界名作絵本全集」でロシアの詩の絵を描いてみないか、と言われて。気に入ったら使ってあげるから、ということで描いたんですけど、なかなか気に入ってもらえなくて…… 何度も何度も描き直して、それでもだめで、「次のがだめなら他の人に頼むから」って言われてしまったんですね。
せっかくいただいた仕事なのに、これができないのなら絵本の仕事なんて一生できない…… そのとき私はそう思って、どうせだめならと、考えを切り替えたんです。それまでは、詩をいかに絵にするかということばかり考えていたんだけど、詩にない部分を絵に描いてみよう、と。
くまはどんな服を着ているのか、くまの家にはどんなものが置いてあるのか…… それまでずっとつらい思いで描いていたのに、詩にない部分を空想して描き始めたら、とっても楽しかったんですね。そして、それが初めて気に入られて、使ってもらえたんです。描いている自分自身が楽しくなければ、見る人も楽しいはずがないってことを、そのときに学びました。
▲きたやまようこさんのデビュー作『ただいまー』1975年版
絵本作家としてデビューしたのは、結婚して子どもも産んで、娘が3歳になった頃のことです。1975年に、『ただいまー』『いただきまーす』『またあしたね』という3冊の赤ちゃん絵本を出版しました。
ところが、それから何十年と経って、今ならもっとうまく描き直せるんじゃないかと思うようになったんですね。それで、いったん出版社から引き上げさせてもらったんです。ただ、そこからの道のりが長くて…… 私としては全部描き直すつもりだったんだけれど、編集者からは全部描き直す必要はないと言われて、どうしたらいいかわからないまま、あっという間に10年間、抱え込んでしまいました。
でも、あの絵本で育った世代が母親になる年齢になってきて、あの本は?という問い合わせもたくさんいただいて…… やっぱりあの絵本はちゃんとした形でもう一度出さなければって思ったんですね。それで改めて編集者と話し合いを重ねながら、新装版をつくりあげました。
▲昨年新装版として出版された『ただいまー』、『いただきまーす』、『またあしたね』(いずれも偕成社)。「みこちゃんのせいかつえほん」シリーズとして、『ただいまー』とともに3冊セットでも販売されています
新装版で変わったことは、アウトラインを入れたこと。あとは、顔色を自然な色に変えて、まゆげを描き足して、動物1匹とおひさまをなくしたくらい。ほかは全部そのままなんですよ。16年ほど前からパソコンを使って絵を描くようになったから、その間に身につけた技術を駆使して、違和感なく仕上げることができました。
新装版ができあがって思ったのは、絵がうまいということは、必ずしも必要の第一ではない、ということ。この絵本には、あのときの私にしか描けないエネルギーがあるから、描き直したところで当時よりいいものができるはずないんだと、とてもよくわかりました。この絵本の良さをよく理解してくれていた編集者にも、感謝しています。
私が絵本作家としてデビューした当時は、赤ちゃん絵本ってまだほとんどなかったんですね。だから、出版社から赤ちゃん絵本をつくってほしいと言われても、そもそも赤ちゃん絵本って何なんだろう?という感じで、最初は全然わからなかったんです。
そのときにふと思い出したのが、本屋さんで見た多田ヒロシさんの『おんなじおんなじ』(こぐま社)という絵本。それまで私が見てきた絵本とは全然違う不思議な感じがしたんですよね。大したストーリーがあるわけでもなく、とってもシンプルなんだけど、なぜか印象に残ってて。赤ちゃん絵本ってもしかしたらあれかなって思ったんです。それで、『ただいまー』をはじめとする3冊が生まれました。
▲きたやまようこさんの人気シリーズ「おにの子あかたろうのほん」。『あかたろうの1・2・3の3・4・5』、『へえーすごいんだね』、『つのはなんにもならないか』(いずれも偕成社)
そんな風にして、思いもよらず赤ちゃん絵本でデビューしたんですけど、自分で赤ちゃん絵本をつくってみて感じたのは、“赤ちゃん絵本”と言っても、別に赤ちゃんだけのものではないんだ、ということ。
あるとき読者の方から、こんな感想をいただいたんです。「『またあしたね』の「みこちゃんとねこちゃん、おんなじおうちでよかったね」というところを読んで、おばあちゃんが泣いたんです」って。それを読んで、絵本って別に何歳向けとか、何歳までっていうのはないんだなと、改めて思いました。そしてつくるからには、なるべく小さい子からおじいちゃんおばあちゃんまで、幅広く楽しんでいただける絵本にしたいなと思うようになったんです。
今でも赤ちゃん絵本は、私の原点であり、私の絵本づくりの基本です。幼年童話なども書いているけれど、何年かに一度はまた赤ちゃん絵本をつくりたくなるんですよね。これからもライフワークとしてつくり続けていきたいと思っています。
……きたやまようこさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)