絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『おならばんざい』や『おつかいしんかんせん』などの作品でおなじみの絵本作家・福田岩緒さんです。子どもたち一人ひとりの表情を、とても生き生きと描かれる福田さん。子ども時代の思い出から絵本づくりのエピソード、読み聞かせや子育てにまつわるお話まで、たっぷりと伺いました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→)
1950年、岡山県生まれ。『がたたんたん』(文・やすいすえこ、ひさかたチャイルド)で第12回絵本にっぽん賞受賞。主な作品に『おならばんざい』(ポプラ社)、『おつかいしんかんせん』(そうえん社)、『ぼくだけのおにいちゃん』『あかいセミ』(文研出版)、『ぼくは一ねんせいだぞ!』(童心社)、『いただきまーす!』『にぎやかなさんぽ』(フレーベル館)、『ともだちやもんな、ぼくら』(文・くすのきしげのり、えほんの杜)などがある。
▲第3回ようちえん絵本大賞を受賞した、くすのきしげのりさんとの絵本『ともだちやもんな、ぼくら』(えほんの杜)。3人の男の子たちの表情に目が離せません!
子どもの頃の体験で、今の絵本作家としての活動に結びついていると思うのは、ガキ大将と一緒に遊んだこと。僕は岡山・倉敷の生まれなんですけど、山があって川があって海があって、自然いっぱいのいい環境だったんですね。そんな中で、ガキ大将に連れられてあっちこっちで冒険したことは、今もとてもよく覚えています。
高いところから飛んだり、鉄塔に登ったり、川や海を泳いだり……僕らだけだと怖くてできないことも、ガキ大将と一緒だとがんばって挑戦するんですよね。怖いんだけど、ガキ大将には気に入られたい。ガキ大将と一緒にいろんなところに行くのが、怖い反面、すごくうれしかったんですよ。だから一生懸命やるわけです。
当時の仲間たちのことは、お話をつくるときに思い返すことが多いですね。強がりの子もいれば、意気地なしの子もいて……そうそう、こんな子いたよなと思い出しながら、お話をつくっています。ちなみに僕自身は、すごく臆病な子だったんですよ(笑)
くすのきしげのりさんとの絵本『ともだちやもんな、ぼくら』も、その頃の雰囲気と近いものがありますね。この絵本に登場する“カミナリじいさん”のような、悪いことをしてると、よその子でも平気で怒ってくれるおじさんおばさんというのは、当時は結構いたんです。くすのきさんは、世代的には僕よりちょっと下なんですけど、感覚的に近いんですよね。だから『ともだちやもんな、ぼくら』の世界観もすごくよくわかって、すんなり描くことができました。
▲授業中に突然おならの音。おならをしたのはいったい誰!? 教室中が大騒ぎ!『おならばんざい』(ポプラ社)
『おならばんざい』は、絵本作家になって2冊目に出した絵本です。
最初に考えていたのは、いろんな動物がおならをするというナンセンスなお話だったんですが、なんだかまとまりがつかなくなってしまったんですね。それで、やっぱり主人公を決めて展開させていこうと思って、大胆に考え直したんです。それで、授業中に誰かがおならをしてしまって、教室中が大騒ぎに……というお話にしました。
苦労したのは、1クラス分の生徒たちを描かなくてはいけなかったこと。まだ絵本作家としてデビューしたばかりで今ほど余裕もなかったから、どういう風にしたらいいだろうと、かなり悩みましたね。ちょうどその頃、長女が小学1年生だったので、学校にお願いして教室を取材させてもらったりもしました。
『おならばんざい』以外にも、学校や幼稚園、保育園などが舞台の、子どもたちがたくさん登場する絵本を何冊か描いていますが、そのときに心がけているのは、 どの子でも主人公になれるようにという気持ちで、一人ひとり個性豊かに描くことです。
同じような雰囲気の子ばかりだと、やっぱり違和感がありますよね。描いている僕自身、同じような顔ばかり描くのはおもしろくない。だから、この子はさみしがりや、この子は強がり……など、それぞれの子の性格を設定するんですね。そうすると、そういう性格ならこんな顔かな、こんな髪型かなっていうのが想像できて、描きやすいんです。自分はこの子とちょっと似てるな、なんて思いながら見てもらえたらうれしいですね。
▲お兄ちゃんが大好きな弟のお話『ぼくだけのおにいちゃん』(文研出版)と、福田岩緒さんの赤ちゃん絵本『いただきまーす!』(フレーベル館)
僕の絵本づくりは、テーマを考えることから始まります。『ぼくだけのおにいちゃん』なら、まず兄弟の話にしよう、というところから考え始めるんです。
テーマがひとつ出てきたら、よりおもしろくするために、いろんな要素をどんどん盛り込んでいきます。要素が足りないまま形にしようとすると、どうしても無理矢理つくった感じのお話になってしまいますからね。ここで女の子を登場させようとか、こんな人と出会わせようとか、何度も絵本のダミーをつくりながら、描き足していきます。そうすると、お話がどんどんふくらんでいくんですね。
ただ、盛り込むだけ盛り込んだままだと、盛りだくさんすぎてわかりにくくなってしまいます。だから、削る作業も大事です。余分なところを削らないままだと、何が大事なのかわからないし、読む方も混乱してしまいますから。これは、赤ちゃん絵本をつくるようになって実感したことです。
赤ちゃん絵本は、削ぎ落とすことが肝心です。人気の赤ちゃん絵本を見ると、本当にシンプルに削ぎ落とされているんですね。よくこれをつくろうと思ったなと、感心します。一見すると手を抜いたように思えるかもしれませんが、それをいいと思って出すというのは、相当の勇気と自信が必要だと思います。
僕もそんな、勇気と自信を持って出せる赤ちゃん絵本を生み出していきたいですね。
……福田岩緒さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)