絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、編集者歴45年、現在は絵本作家としても活動する後路好章さんです。編集者として1500冊を超える本の出版にかかわってきたという後路さんが、今一番力を入れている“赤ちゃん絵本”の魅力とは? 新作「こぶたちゃん」シリーズの制作エピソードやお孫さんとの楽しい時間についてもお話しいただきました!
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら)
1940年、北海道生まれ。編集者、絵本作家。北海道大学卒業後、学研の学年別学習誌の編集長をはじめ、あかね書房、アリス館の編集長を歴任。著書に『絵本から擬音語擬態語ぷちぷちぽーん』(アリス館)、絵本に『うまれるようまれるよ』(絵・かさいまり、アリス館)、『もうわらった』(絵・かさいまり、教育画劇)、『だあれだ だれだ?』(絵・長谷川義史、ポプラ社)、『あそぶのだいすき こぶたちゃん』(絵・とみながゆう、赤ちゃんとママ社)などがある。赤ちゃん絵本研究会代表。
娘が子どもを産んでからは、孫への読み聞かせも楽しみのひとつです。初めての読み聞かせは、生まれてからちょうど100日目に読んだ『ころころころ』(福音館書店)。声の高さを変えたり緩急をつけたりして読んであげると、それはもう興奮して、もっともっとって顔をするわけです。こちらもとてもうれしくなって、それはもうたくさん読みました。
「おおきくなあれ こぶたちゃん」シリーズは、孫とのコミュニケーションの中で生まれた絵本です。『あそぶのだいすき こぶたちゃん』には、ティッシュを箱からしゅっしゅっしゅっしゅっ……と取り出して遊ぶシーンがあるんですが、あれは孫が10ヶ月ぐらいのときに実際にやっていたことなんです。
▲『あそぶのだいすき こぶたちゃん』、『うんちうんちのこぶたちゃん』、『ごはんよごはん こぶたちゃん』(いずれも絵・とみながゆう、赤ちゃんとママ社)。子どもの成長をあたたかく見守る、おおらかな子育ての様子が描かれています
赤ちゃんにとって、自分が力を入れるとしゅっとティッシュが出てくる、というのは、とてもうれしいことなんですね。私は最初慌てて「やめてやめて!」と止めたんですが、娘は好きなようにやらせていたんです。「こんなにおもしろがってるんだから、やらせてあげて」って。これにはとても感心しましたね。そして、孫の「うれしいよ~!」という心の声が聞こえたような気がしました。
自分が子育てしていた頃のことを思い返すと、あのときこうしてあげればよかった……なんて反省してしまうこともいろいろとあるんですね。でもおじいちゃんという立場で子育てにかかわると、いろんなことが見えてきます。今は、孫の成長を見守るのが楽しくてたまりません。この絵本を読んだお父さんお母さん、そしておじいちゃんおばあちゃんが、こんな楽しい子育てをしたいなぁと感じてくれたら、うれしいですね。
赤ちゃんに絵本を読み聞かせしていると、途中でめくってしまって最後まで読めないというお母さん方の声をよく聞きます。でも、それは当然なんですよ。初めから終わりまで読めるってことは、まずありません。
途中で手を出してめくろうとするのは、その絵本が好きだからなんですね。だから赤ちゃんの興味の赴くままに、めくらせてあげたらいいんです。どのページからでもいいし、ページを飛ばしてもいい。途中で読むのをやめても全然かまいません。途中で「触ったらダメ!」なんて言われると、絵本が楽しいものではなくなってしまいますからね。赤ちゃんにとって絵本はおもちゃ。お母さん方ももっと肩の力を抜いて楽しむといいですよ。
▲リズミカルな言葉とかわいい絵で、おもちゃのように楽しめる絵本『だあれだ だれだ?』、『なあんだ なんだ?』、『どおーこだ どこだ?』(いずれも絵・長谷川義史、ポプラ社)
0歳、1歳の赤ちゃんへの読み聞かせには、向かい合って読む“対面読み”がおすすめです。向かい合って読んでいると、赤ちゃんがどこを見ているか、よくわかりますよね。0歳の場合はほとんど、絵本よりも読み手の顔を見ています。お母さんやお父さんが自分とかかわってくれることが、うれしいんですね。
でも、読み手が絵本の方に視線を移すと、赤ちゃんも少しずつ絵を見てくれるようになるんですよ。子どもをよく見ていると、成長とともに“絵を読む力”がどんどんついてくるのがわかります。お母さんやお父さんが文を読む、その心地よい音に耳を傾けながら、絵をしっかりと追っていくようになるんです。
細かいところまで時間をかけてじーっと見ていたりすることもあるので、そのときは好きなだけ見せてあげて、納得してからページをめくるといいですね。親の都合を押しつけず、子どものペースに任せることが大事。そんな風にしていれば、絵本の時間が楽しいものになっていきますよ。
▲笑顔あふれる赤ちゃん絵本『もうわらった』(文・やすおかかよこ、うしろよしあき、絵・かさいまり、教育画劇)
私は6人兄弟の一番下で、姉の背中に結わえられて育ったんですね。おじいちゃんおばあちゃんもいて、兄弟もたくさんいて……昔はそんな風に、家族という小さな社会が子育てをしていたんです。でも今は核家族が多いから、お母さんと子どもが一日中、二人きりだったりしますよね。これはとてもきついと思うんです。
子育ては楽しいけれど、楽しいばかりじゃありません。思い通りにいかないことの連続で、ストレスがたまってしまいがちです。その上、旦那さんは仕事で夜遅くまで帰らなくて、子育ては任せきりだったりすると、イライラがますます募ってしまう。そしてそういう女性ほど、そんな風にイライラしてしまう自分にも腹が立ってしまって、やりきれない……そんなお母さんが今、非常に増えているんですよ。
そんなときこそ、おじいちゃんおばあちゃんの出番です。私は毎週金曜日を“保育じじの日”と決めて、一日たっぷり孫と遊ばせてもらっているんですね。娘夫婦も助かっているし、孫も喜んでくれています。そして何より一番得をしているのが私自身。孫とのひとときは、私にとって本当に幸せな時間です。
おじいちゃんおばあちゃんだけじゃなくて、隣のおばちゃんだっていいんです。まわりの人をもっと巻き込んで、みんなで子育てしていけるといいですよね。そういう社会になっていかないと、お母さん方を救うことはできないんじゃないかと思います。
おじいちゃんという立場で子育てにかかわって改めて思うのは、子育ては自分育てだということ。子どもの1歳の誕生日は、お母さんもお父さんもおじいちゃんもおばあちゃんも、みんな1歳になるんです。子どもを育てることによって、大人も育てられているんですよ。だから誕生日には、ぜひみんなでそれぞれの成長を褒めあってほしいですね。
私はまもなく、おじいちゃんとして3歳の誕生日を迎えます。今後も孫の成長を見守りながら、自分自身のおじいちゃんとしての成長も楽しんでいきたいですね。