絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、『なつのかいじゅう』や『あおいかさ』などの作品でおなじみの絵本作家・いしいつとむさんにご登場いただきます。いしいさんの描く愛らしい子どもたちの姿は、見る人をあったかい気持ちにしてくれます。絵の雰囲気そのままにやさしく語られるいしいさんに、絵本づくりや子育てについてお話しいただきました。今回は【後編】をお届けします。
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1962年、千葉県生まれ。絵本や挿絵で活躍中。主な作品に『わたしのゆきちゃん』(童心社)、「あかりちゃんえほん」シリーズ(文・あまんきみこ、小峰書店)、『おひさまえんのさくらのき』(文・あまんきみこ、あかね書房)、『のはらの花にも』(文・松谷みよ子、にっけん教育出版社)、『なつのかいじゅう』『つきよのゆめ』(ポプラ社)、『あおいかさ』(教育画劇)、『ドングリ小屋』(佼成出版社)、『ころりんやまのなかまたち ブーブーヤッホー』(ひさかたチャイルド)などがある。
▲大切な友だちとの別れと、それぞれの幸せを描く『つきよのゆめ』(ポプラ社)
絵本のお話は、ぼんやりとしているときに思い浮かぶことが多いですね。散歩しながらまわりの景色を眺めているときとか、ふと目に留まった木一本からお話が生まれることもあります。あの木の前をふっとうさぎが横切ったら―― そんなイメージから、お話が広がっていくんです。
過去を振り返るうちにお話が浮かんでくることもあります。子どもの頃や10代20代の頃のことを、僕はよく思い返すんですね。友達のこととか、先生に言われたことなど、些細なことなんですけど、今になって「あぁ、あれはこういう意味だったのか」なんて思い至ることが多々あるんですよ。
『つきよのゆめ』は、そんな風に過去を思い返したことがきっかけになってできた絵本です。何かをきっかけにぎくしゃくして、うまくいかなくなってしまった友達とか、いますよね。そのときは自分の正しさを貫いたんだからこれでいいんだって納得してたかもしれないけど、大人になって振り返ってみると、思いやりが足らなかったなとか、友達はどう感じていたのかなとか、いろいろと思うところがあって…… そんな気持ちが原点となって一冊の絵本になりました。
年を重ねるたびに、いろんな出会いと別れがありますよね。もう一生会うことのない友達もいると思うんですけど、ときどき月を眺めていると、そんな友達も同じ月を見ているのかなぁ、なんて思いますね。
▲青い傘と雨と晴れた青空が印象的な絵本『あおいかさ』(教育画劇)
子どもが生まれてからよく行った場所といえば、図書館です。図書館にはいい絵本がたくさんあるじゃないですか。過去に読んでいいなと思った絵本もあれば、新たに出会って気に入る絵本もある。あれも見せたいな、これも見せたいなって手に取るうちに、あっという間に何十冊にもなってしまって。毎回借りられる限り借りてきて、子どもと一緒に楽しみました。
寝る前の読み聞かせの習慣は、子どもが小学生のうちはずっと続けてましたね。大きくなってからは、つきあってくれてるのかな、なんて感じもありましたけど(笑)
子どもが小さい頃は、よく食べものの絵本で遊んでいました。ビスケットが描かれている絵本だったら、事前にビスケットを隠し持っておいて、「おなか空いたね」「これ食べたいね」なんて子どもと言い合ったあと、「よっ!」とビスケットを絵本から取り出すようにして見せるんです。これはすごく喜びましたね。ストーリーとは関係のないちょっとした遊びなんですけど、とても楽しかったようです。
あと、即興でお話をつくって聞かせたりもしましたね。全然まとまりのない話なんですけど、なんとなく次につながりそうなところで終わりにして、「続きは明日ね」。そんなことを毎晩やっていたこともありました。
絵本がどうというより前に、そんな親子のやりとりが何より楽しかったんですよね。本当に幸せなひとときだったなと思います。
子どもが小さい頃、子連れで外を歩いていたりすると、ご近所さんから「かわいいね。今を大事にしなさいよ」なんてよく言われたんですね。当時はそういう言葉ってそれほど響かなかったんですけど、今になってつくづくそうだなぁとかみ締めています。
子育て中は子どもがいることが日常なので、慣れてしまうんですよね。姿かたちも行動もこの上なくかわいく愛おしい時期なのに、毎日一緒にいると、それが普通になってしまうんです。病気もするし、育て方で悩むこともあります。でも、子どもが成長してから振り返ると、あの時期ってほんとに宝だなぁと思うんですよ。できることならもう一度子育てをして、あのかけがえのない日々をまた体験したいなって思います。
▲さまざまな時代の子どもの姿を描く「子どもたちの日本史」シリーズでは、絵を担当されています。『むかしむかしの子どものくらし』、『江戸時代の子どものくらし』、『明治・大正の子どものくらし』、『戦争と子どものくらし』(いずれも大月書店)。2012年3月末には、『現代の子どものくらし』が出版される予定。文は野上暁さん、加藤理さん
子どもって本当に感性が瑞々しくて、輝いていますよね。あの感性を持っていれば、同じ景色も全然違って見えるんじゃないかってくらい。あれは、あの時期ならではのものだと思うんです。だから子どもには、いろんなものを見せてあげたり、いろんなことを体験させてあげたりできるといいですよね。別に遠出しなくたっていいんです。自転車に乗せてちょっと出かけるとか、その程度でも十分。子どもはそういうときだって、いろんなことを感じて、吸収していくはずです。
一緒に出かけたり、絵本を読んだり……子育て中のみなさんには、親子の幸せな時間をぜひ満喫していただきたいですね。