絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、『なつのかいじゅう』や『あおいかさ』などの作品でおなじみの絵本作家・いしいつとむさんにご登場いただきます。いしいさんの描く愛らしい子どもたちの姿は、見る人をあったかい気持ちにしてくれます。絵の雰囲気そのままにやさしく語られるいしいさんに、絵本づくりや子育てについてお話しいただきました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→)
1962年、千葉県生まれ。絵本や挿絵で活躍中。主な作品に『わたしのゆきちゃん』(童心社)、「あかりちゃんえほん」シリーズ(文・あまんきみこ、小峰書店)、『おひさまえんのさくらのき』(文・あまんきみこ、あかね書房)、『のはらの花にも』(文・松谷みよ子、にっけん教育出版社)、『なつのかいじゅう』『つきよのゆめ』(ポプラ社)、『あおいかさ』(教育画劇)、『ドングリ小屋』(佼成出版社)、『ころりんやまのなかまたち ブーブーヤッホー』(ひさかたチャイルド)などがある。
▲夏の子どもたちの興奮をいきいきと描いた『なつのかいじゅう』(ポプラ社)
絵本は小さい頃から好きでした。保育絵本「キンダーブック」「こどものとも」などが家にたくさんあったので、よく見ていましたね。絵を描くのも好きだったんですが、高校卒業後は自立しなくてはいけなかったので、夢中になって好きなだけ描くことはありませんでした。自分を抑制していたんでしょうね。
漆工芸、染色工芸に弟子入りして学んだこともありましたが、絵に携わることをやっていきたいと摸索していました。「絵本とおはなし」という月刊誌の、絵本作家の特集や絵本づくりについて書かれた記事にも触発されましたね。それで、公募に作品を送るというところから、絵本の世界に足を踏み入れたんです。
初めての絵本を出したのが、ちょうど一人目の子どもが生まれた頃。そのあたりから、絵本や児童書の仕事をぽつぽつやるようになりました。身近にわが子というモデルがいるのだから、絵本づくりにもプラスになるかなと思っていたんですが、実際はそうでもなくて…… 子どもに絵本を読んでやったり、一緒に遊んだりするのが楽しくて、そこに時間を割くあまり、机に向かって絵を描く時間が少なくなってしまったんですよ(苦笑) だから、絵とは関係のない仕事をしばらく続けていました。
いいのができたら持ってきて、と言ってくれる編集の方がいるのに、外で仕事をして、帰ってきたらまた子どもと遊んで、時間がなくなってしまう……こんな毎日でいいのかな、という葛藤もありました。でも今思うと、当時の経験はすべて生きてますね。僕はよく絵本の中で子どもの姿を描きますが、何も見なくても自然と描けるのは、子どもと過ごした時間がたくさんあったから。子どもたちのかわいい姿が目に焼きついているから、それをなぞるような形で自由に描けるんじゃないかと思っています。
▲主人公は引っ込み思案の女の子『わたしのゆきちゃん』(童心社)
僕の絵は、同じようなタッチで描かれているように見えるかもしれませんが、実は毎回、描き方が変わるんです。一冊描き終えると、描き方がわからなくなってしまうので、最初はほんとに無様な絵しか描けないんですよ。
筆をどう握るかとか、筆にどのくらい水を含ませるかとか、自分がいいなと思う描き方については、いろいろと細かい点まで箇条書きにして仕事部屋の壁に貼り付けているんですけど、絵を描き始めるとそんなメモには全然目がいかなくて……目の前の絵しか見られない状態になってしまうんですね。
だからいつも、締め切りぎりぎりまで何度も描き直します。どんどん近づく締め切りに焦りながらも、とにかく描き直し続けることで、なんとか調子を取り戻していく…… そんな感じで描いていますね。
絵を描く上で意識しているのは、体温です。子どもって、触るとあったかいでしょう。ほっぺなんかは熱かったりもする。それをきちんと、絵の中でも表現したいなと思っているんです。
それから、場面ごとの温度や空気感。太陽が照りつける夏と、雪が舞い散る冬とでは、使う色も全然違ってきますよね。絵本を開いたとき、そこに描かれている世界の温度や空気まで伝わってきたら、すーっとお話の世界に入っていけるんじゃないかと思うんです。だから春夏秋冬、それぞれの季節の温度や空気感も大事に描くようにしています。
あまんきみこ先生とは、『おひさまえんのさくらのき』(あかね書房)で初めて一緒に絵本をつくらせていただきました。『おにたのぼうし』(ポプラ社)など、あまん先生の書かれた絵本を子どもの頃から読んでいましたから、あまん先生は僕にとっては特別な作家さんなんですね。そんな先生の作品を原稿から見させていただいて、僕が絵をつけるだなんて、今でも信じられないというか…… 本当に夢心地です。
小峰書店から出ている「あかりちゃんえほん」シリーズでも、ご一緒させていただきました。あかりちゃんという女の子と、こぎつね、こうさぎ、こりすが、山で一緒に遊ぶ様子を描いた絵本です。
▲季節によってがらっと変わる山の風景が魅力的。「あかりちゃんえほん」シリーズ『げんまん げんまん』、『みんなでよいしょ』、『みーつけたっ』、『このゆび、とーまれ』(いずれも小峰書店)
最初に出たのが、春の山を描いた『げんまん げんまん』だったんですが、次は季節を変えてやりたいですね、と編集の方からリクエストがあって、雪だるまをつくって遊ぶ『このゆび、とーまれ』、夏の山でなわとびをして遊ぶ『みんなでよいしょ』、そして紅葉の時期の山でかくれんぼをする『みーつけたっ』と、今までに春夏秋冬の4冊が出版されました。
あまん先生は原稿用紙に万年筆で書かれるので、僕はいつもそのコピーを編集の方からもらって読ませていただいています。その原稿をもとに、12場面で割ったラフを描いて、見ていただくんです。絵については任せてくださる先生なので、自由に描かせていただいています。本当に楽しい作業です。続編も楽しみにしているんですよ。
……いしいつとむさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)