絵本作家インタビュー

vol.92 絵本作家 ふくだすぐるさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『りんごがひとつ』などで人気の絵本作家・ふくだすぐるさんです。くすっと笑わせたり、心をあっためてくれたり……ふくださんが自由な発想で生み出す絵本には、日頃の緊張を解きほぐすやさしさがあふれています。絵本作家になるまでの道のりや、絵本の魅力、子育てについて思うことなど、たっぷりお話しいただきました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・ふくだ すぐるさん

ふくだ すぐる

1961年、兵庫県生まれ。絵本作家、イラストレーター。主な作品に『りんごがひとつ』『ちゅ』『ぼくのてぶくろ』『にこにこでんしゃ』『Dear サンタさん』(岩崎書店)、『サインですから』(絵本館)、『つたわるきもち』(ハッピーオウル社)、『やさしい女の子とやさしいライオン』(アリス館)などがある。

動物たちに感謝!『ふにゃらどうぶつえん』

ふにゃらどうぶつえん

▲ふくだすぐるさんの新作は、大好きな動物たちがたくさん登場!『ふにゃらどうぶつえん』(アリス館)

新作の『ふにゃらどうぶつえん』では、主人公の女の子が動物たちに向かって「いてくれてありがとう」と言ってまわるのですが、その言葉は、私が動物たちに対して伝えたい気持ちでもあるんです。

動物たちは人間を癒してくれたり、助けてくれたりもします。動物たちがいなければ、絵本だってこの世に存在していなかったかもしれません。私たち絵本作家は、いつも自由に動物たちの絵を描かせてもらっています。だから絵本作家にとって動物たちは、かけがえのない存在ですし、大切な友達だとも思っています。だから「いてくれてありがとう」って言いたいんですよね。

絵本の中では「ありがとう」と言われた動物たちが、うれしくなって思わず体を「ふにゃっ」とさせるんですけど、人間もうれしいときは体を「ふにゃっ」とさせるんですよ。たとえば、お母さんが「いい子いい子」って子どもにしてあげると、子どもは「ふにゃっ」となるじゃないですか。大人もうれしいと「ふにゃっ」となりますよね。ただ大人の場合、そういう姿をあまり他人には見せませんけどね(笑)

動物園の動物たちも、人間と同じように緊張したり、がんばったりすることがあると思うんです。だからきっと「ありがとう」って言われたら、うれしくなって、「ふにゃっ」となるんじゃないかな?(笑) そんなことを想像しながら絵本にしました。

人間は動物たちに癒やされたり、助けられたりしますけど、動物たちもまた人間から元気をもらったり、癒されたりしてると思いますよ。

読み聞かせで伝わる、言葉以上のいろんな気持ち

つたわるきもち

▲ねずみさんはくまさんが大好き。気持ちは伝わるかな?『つたわるきもち』(ハッピーオウル社)

読み聞かせというと、親が子どもに読むのが基本になってますけど、大人同士の読み聞かせもすごくいいんですよ。私も以前、友人にシェル・シルヴァスタインの『おおきな木』を読んでもらったことがあるんですが、絵本の内容以上にいろんなことを感じたんです。

読み聞かせという行為は、それ自体が相手への愛や思いやりを表現してるんですよ。絵本は一人でももちろん楽しめますけど、読んであげることで、言葉以上の気持ちが相手に伝わります。読み手と聞き手の間で言葉以上のコミュニケーションが生まれるんです。絵本は、とても優れたコミュニケーションツールなんですよ。

だから、親から子への読み聞かせだけでなく、大人同士であったり、子ども同士であったり、おじいちゃんおばあちゃんや兄弟姉妹であったり、世代を超えて、さまざまな形の読み聞かせをしてみてほしいですね。そうすると、いろんな発見がありますよ、きっと。

絵本には“自由で豊かな感覚”が描かれていますから、読み聞かせということではなくても、大人の人にももっと絵本を読んでもらいたいですね。“自由で豊かな感覚”というのは、言い換えれば“疑いのない可能性”もしくは“夢や希望”と言ってもいいかな。大人の心が自由で豊かになれば、子どもも心から豊かになれるんじゃないかと思います。

一人でがんばりすぎず、ときには人を頼って

サインですから

▲職人のおじさんが主人公の、くすりと笑えるユーモラスな絵本『サインですから』(絵本館)

今の子育てって、お母さんにすごく負担がかかっていますよね。でも、お母さんに負担がかかっているということは、子どもにも負担がかかっていると思うんですよ。

できればもっと“みんなで育てる”という感覚があったらいいですよね。特に若いお母さんはまだ人生経験が少ないので、子育てにも未熟な点があると思うんですけど、それでいいんですよ。

だって、未熟であることが当たり前なんだから。未熟であることを受け入れると、子育てがずっと楽になるんじゃないかな。未熟であることを素直にまわりに伝えたら、助けてくれる人も自然に出てくると思います。ほとんどの人はやさしくて、大変なときは助けたいと思っていますよ。ただ、事情を知らないだけなんですよ。

頼りになるのは、やはり年配の方々。いろんなことを経験した上での知恵があるので、その知恵を借りない手はないですよね。もちろん年配の方以外にも、外にコミュニティを広げることも、大きな助けになります。

子育て中のお母さんの役に立つかどうかはわからないけど、視点を変えると、現実も変わっていくことがよくあります。だから、自分の変えたい方に視点を置くといいかもしれませんね。視点を変えると気持ちが変わります。気持ちが変わると、まわりもきっと変わってきますよ。


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