絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『りんごがひとつ』などで人気の絵本作家・ふくだすぐるさんです。くすっと笑わせたり、心をあっためてくれたり……ふくださんが自由な発想で生み出す絵本には、日頃の緊張を解きほぐすやさしさがあふれています。絵本作家になるまでの道のりや、絵本の魅力、子育てについて思うことなど、たっぷりお話しいただきました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→)
1961年、兵庫県生まれ。絵本作家、イラストレーター。主な作品に『りんごがひとつ』『ちゅ』『ぼくのてぶくろ』『にこにこでんしゃ』『Dear サンタさん』(岩崎書店)、『サインですから』(絵本館)、『つたわるきもち』(ハッピーオウル社)、『やさしい女の子とやさしいライオン』(アリス館)などがある。
▲ねずみさんが、いろいろなどうぶつがちゅ! ふくだすぐるさんの初期の絵本『ちゅ』(岩崎書店)
私は20代の頃、ある人の借金を返済しなくてはいけなくなり、散々苦労しました。5年ほど必死で働いて、なんとか借金を返せるめどがついたとき、私は実家のある兵庫県西宮市から東京に出てきました。25歳のときのことです。
これからは好きなことをやって生きていこうと思って、子どもの頃からの夢だった漫画家を目指すことにしたんです。アシスタントとして経験を積みながら賞に応募して、大賞をとってデビューすることになりました。でも、漫画家という職業は私には合わなかったようです。締め切りもつらいと思ったのですが、それ以外にも、売り上げを上げるために過激な格闘シーンを入れるなど、戦略的な漫画の表現をしなければならず、それがいやだったんです。さらに、漫画の細かな絵。目が悪くなってしまいます。
私は散々苦労してきたんだ。もうこれ以上、1ミリだって苦労したくない。でも、漫画を描く以外に私に何ができるのだろう? 私はもうすぐ30代になるぞ……。突然、先の見えない不安に恐れが出てきました。日々不安は大きくなり、うつ状態で、一人暗がりの中、天井をぼーっと見つめていたときのことです。
突然、声が聞こえたんです……。まわりには誰もいませんでした。その不思議な声に導かれるままに、絶縁状態だった弟と再会すると、それを機にいろんな人たちと出会いました。そしてそこから、良いことをたくさん学ぶことができたんです。
「自分を認めてあげることの大切さ」「人生には必ずしも努力は必要ないこと」、そして「感じることは本当のこと。だから、夢を感じることができるなら、それはかならず実現できるということ」…… どれも、学校では決して教えてもらえないことばかりでした。私は改めて、本当に表現したいことは何なのか、自分自身を見直してみることにしました。
絵は好きだけど、漫画は違う。もっと何も考えずに、ただ楽しく、好きなものを表現できたら…… それで、とりあえず何も考えず、紙に鉛筆で落書きみたいに描いてみたんです。描きあがったのは、ぞうとかうさぎとか、たぬきの絵でした。それを見て、これは絵本に向いてるんじゃないかなと思ったんです。
その後、夜学の絵本学校に通ったりして、絵本作家の道を進んできました。自分が絵本作家になるなんて夢にも思ってもいなかったんですけど、今は自由に絵本を描かせてもらっているので幸せを感じています。絵本の神様にも感謝ですね(笑)
▲ひとつのりんごをめぐる愉快な駆け引きと、心あたたまる結末。『りんごがひとつ』(岩崎書店)
私の絵本づくりは、できるだけ何も考えないようにして、感じる通りにペンを走らせますから、5分か10分ほどで作品ができあがることも多いですね。私の絵って、「てん」とか「ちょん」とかそんな感じで描かれているのが多いでしょう? 何も考えずに描くから、ああいう単純な表現になるんです。
漫画家だった頃は、起承転結とか、コマ割りのメリハリとか、頭でいろいろと考えて描いていたんですけど、絵本の場合は、逆に考えたらだめなんですよね。頭で考えると、おもしろいものができないから。小さな子どものようになって、感じるままに表現する方が、いいものができあがるんです。
『りんごがひとつ』もそうやって生まれた作品です。友人とカフェでコーヒーを飲んでいるとき、友人がトイレに行っている間にばーっと描いてできました。ひとつのりんごをみんなで囲んでいるイメージが浮かんだので、まずそれを描いて、そこから話が広がっていったんです。
そんな感じで、たいていの場合、まず思いついた一画面を描きます。そのあとは、先を考えずにとにかく描き進めていくので、自分でもどう展開してくかわからないんですよ。でも、わからないからおもしろいんです。こっちに行ったらオチがないとか、こっちに行ったらわけがわからなくなるとか、頭の片隅にはそんなことを考えようとする自分もいるんですけど、でもそれは隅のほうに追いやって、とにかく手を動かしていきます。
できあがったものが話として成立しない場合も、もちろんあります。でも、それはそれで、私はOKなんです。無理せず楽しく描くというのが、私の絵本づくりのですから。子どもって、理由もなく走ったりするでしょう? ただ楽しいから走る。そんな感じで私も絵本を描いています。
▲のんびりやさしい電車のお話『にこにこでんしゃ』(岩崎書店)
『にこにこでんしゃ』に出てくる電車は、時間なんて気にしません。鳥が羽を休めていたら、飛び立つまで待ってあげたり、猫が道を渡っていたら止まってあげたり…… あせらずゆっくり、マイペースの電車です。そんな電車があったらいいなぁ、そんな社会になったら素敵だなぁと思って、15年ほど先の未来を予測して描きました(笑)
私自身も、そうありたいなと思っています。締め切りが迫ってくると、早くしなくちゃ!とあせってしまうけれど、アイデアって出そうと思ったら逆に出てこないものなんですよね。だからそんなときは、出てくるのを待つのが一番。あせらず、マイペースでいる方が、結局早く進むんですよね。
早いことが良いみたいに信じられていますが、ホントはそうじゃない。止まることでしか気づかない大切な風景がたくさんあります。だから、ときには立ち止まってまわりをゆっくり見てみるのもいいと思いますよ。
……ふくだすぐるさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)