絵本作家インタビュー

vol.89 絵本作家 松岡達英さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、自然観察描写の第一人者として、数多くの自然科学絵本を生み出してこられた松岡達英さんです。ミーテでは『ぴょーん』や『しりとり』など、赤ちゃんから楽しめる絵本でも人気の松岡さん。新潟県長岡市川口のアトリエ兼ギャラリーで、少年時代のお話から自然科学絵本の魅力まで、たっぷりと伺ってきました。
今回は【後編】をお届けします。 (←【前編】はこちら

絵本作家・松岡達英さん

松岡 達英(まつおか たつひで)

1944年、新潟県生まれ。自然科学、生物のイラストレーター、絵本作家として活躍中。『すばらしい世界の自然』(大日本図書)で厚生省児童福祉文化賞、『熱帯探検図鑑』(偕成社)で絵本にっぽん賞、『ジャングル』(岩崎書店)で厚生省児童福祉文化賞と科学読物賞、『里山百年図鑑』(小学館)で小学館児童出版文化賞を受賞。主な作品に『ぴょーん』(ポプラ社)、『だんごむし うみへいく』(小学館)、「あまがえるりょこうしゃ」シリーズ(福音館書店)など多数。 アトリエ.グリーンワークス http://www.gw-gallery.com/

幼児から楽しめる自然科学絵本『ぴょーん』

ぴょーん ぼくがきょうりゅうだったとき

▲いろんな生き物がぴょーん!とジャンプ。子どもも思わず飛び跳ねてしまう人気作『ぴょーん』(ポプラ社)。松岡達英さんが描く恐竜たちの世界『ぼくがきょうりゅうだったとき』(ポプラ社)

幼児が最初に出会う科学絵本をつくってほしい ―― 『ぴょーん』は、出版社からのそんな要望で生まれた絵本です。

ちょうどその頃、仕事でアメリカに行ったんですね。帰りの飛行機の中で、どうせ眠れないんだからと思って、幼児のための科学絵本について考えることにしたんです。そうしたら急に飛行機が揺れて、体がぴょん!と上がるような感覚を体験して…… そのとき、いろいろな生き物が「ぴょーん!」と跳ぶというアイデアをひらめいたんです。これは間違いなく子どもたちが反応するなって思ってね。その場ですぐにラフを描き、帰国後に編集者に見せて、絵本になりました。

幼児向けの絵本だけれど、生き物の形は正確に描いてあるんですよ。カエルの足の指は前が4本でうしろが5本とか、トビウオの尾びれは上が短いとか。知らなければ別にいいのかもしれないけれど、僕にはちゃんと知識があるから、嘘をつけないんです。この絵本で、赤ちゃんのうちから少しずつ自然科学に親しんでもらえたらうれしいですね。

恐竜の絵本もいくつか描いたんですが、主人公の子どもを恐竜の世界に行かせるための“タイムマシン”を考えるのが大変でした。『ぼくのロボット恐竜探検』(福音館書店)では恐竜の絵がプリントされたベッドカバー、『ぼくがきょうりゅうだったとき』では恐竜のパジャマを登場させて、タイムスリップするきっかけをつくったんです。そのアイデアさえ出れば、あとは結構すんなりと進みますね。

恐竜は、生きている実物を観察することはできないけれど、その代わりアメリカの博物館などに行って化石や骨格標本を見たりすることで、実際にここに存在したんだっていう感覚を味わうようにしています。雰囲気だけでもしっかりつかまないと、ちゃんと描けませんからね。『ぴょーん』のアイデアを思いついた飛行機というのも、恐竜の化石を調べにアメリカのユタ州に行った帰りの便だったんですよ。

絵本は与えるだけでなく、読んであげることが大事

読み聞かせはものすごく大事ですよね。絵本をただ与えるだけではだめで、お母さんやお父さんが自分の声で読んで聞かせるってことが大切。絵本の冊数は少なくてもいいから、何回も繰り返し読んであげてほしいですね。そうやって絵本を楽しむうちに、本を読む習慣が自然と身につくはずだし、絵本を通じてコミュニケーションをとっていれば、親子の絆も深まると思います。

だんごむしそらをとぶ
だんごむしうみへいく
だんごむしと恐竜のレプトぼうや

▲子どもたちに人気のだんごむしが主役! 人気の創作科学絵本シリーズ『だんごむしそらをとぶ』『だんごむしうみへいく』『だんごむしと恐竜のレプトぼうや』(小学館)

息子が小さい頃は、僕も絵本を読んであげていました。ある冬、車で東京から新潟に向かっていたとき、トンネルを抜けたら突然あたり一面が雪の景色になったんですね。息子はそれを見て、「わぁ!『バーバパパのクリスマス』みたい!」って言ったんです。読んであげてよかったなと思いましたね。

子どもってときどき、そんなうれしいことを言うでしょう。感受性が強いから、お母さんやお父さんに絵本を読んでもらううちに自然と興味がわいてきて、無理なくいろんなことを覚えちゃうんですよね。

最近は、昆虫や植物の名前や特徴などを知らない親も増えているようですが、絵本の読み聞かせをしながら、子どもと一緒に学んでほしいですね。子どもが興味を持ったこと、疑問に思ったことがあれば、お母さんやお父さんもぜひ時間を割いて、本を見たり人に聞いたりして自然のことを勉強してください。そうすれば、親子ともに楽しい時間を過ごすことができますから。

自然というのは、お金のかからない教材みたいなものです。大いに利用するといいですよ。

絵本をきっかけに地球をもっと知ってほしい

里山百年図鑑

▲親子で楽しむ“野遊び自然図鑑”の決定版!『里山百年図鑑』(小学館)

地球のことをもっと知ってほしい ―― それが、僕が絵本をつくる原点です。地球観察の第一歩は、足元の自然を観察すること。ダンゴムシを見つけたら、足は何本なんだろうとか、オス・メスの違いは?とか、いろんな疑問が浮かぶでしょう。そういうところから、自然のおもしろさ、さらには地球のおもしろさを感じてほしいんです。そのための糸口となるのが、絵本だと思っているんですよ。

もちろん、絵本を読んでいればそれでいいというわけではなくて、本物の自然を見たり体験したりすることも大切です。その手助けになればと思って、アトリエ周辺を2時間ほど散策するミニエコツアーも実施しているんですよ()。自然の中を散策していると、ときには蜂に刺されることもあります。でも、痛い思いをするっていうのも、すごくいい勉強になるんですよね。何がどう危ないか、どういう風に痛くなるのか、体験を通じて知ることはたくさんあります。

※ミニエコツアー
アトリエ周辺を松岡さんと一緒に2時間ほど散策するツアー。参加希望の場合は、電話(0258-81-5151)またはホームページから要予約。料金は大人1500円、子ども1000円。

震度7

▲新潟県中越地震での体験をもとに生まれた一冊『震度7 ― 新潟県中越地震を忘れない』(ポプラ社)

僕は、2004年10月23日に発生した新潟県中越地震のとき、アトリエで被災しました。恐ろしい思いもしましたし、不便なこともありましたが、震度7の揺れを身をもって体験して感じたのは、自然のたくましさです。人間が地震で慌てふためいているときも、蝶やバッタは平然としていたし、花も何ごともなかったように咲いていたんですね。その光景は今も僕の心に強く焼きついています。

地震も自然の大きな営みのひとつ。今の地球があるのも、地震よりも恐ろしい氷河期や1000年以上も続く雨季などがあったからなんです。地震のもたらす災害は恐ろしいけれど、地球にはおもしろいことがたくさんあります。だから絵本を通じて、もっと多くの親子に地球のしくみや、この地球で一緒に生きる仲間たちのことを知ってもらいたいですね。

グリーンワークス ギャラリー「絵本の家」 グリーンワークス ギャラリー「絵本の家」
松岡達英さんの絵本、直筆の絵画やユーモアあふれる工作作品を楽しめるギャラリー。入場料は大人200円、子ども100円。
新潟県長岡市川口中山2444-1 TEL: 0258-81-5151
開館時間:10時~16時 ※不定休のため来館前に要問合せ

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