絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、関西弁の絵本『おとん』『おかん』などでおなじみのご夫婦作家・平田昌広さんと景さんです。昌広さんの文と景さんの絵で生まれる絵本は、いつでも元気いっぱい! 楽しさにあふれています。お二人が続けている“夫婦読み(めおとよみ)”や絵本への思いなどについて、たっぷりとお話しいただきました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→)
1969年、神奈川県生まれの平田昌広と、1970年、北海道生まれの平田景の二人で、2002年、楽しい本をつくる“オフィスまけ”を設立。夫婦共作絵本に『ひものでございっ!』(文化出版局)、『のりおのふしぎなぼうえんきょう』(講談社)、『ねえ、ほんとにたすけてくれる?』(アリス館)、『おとん』『おかん』(大日本図書)、『ぽんこつドライブ』(小学館)、『それいけ! ぼくのなまえ』(ポプラ社)などがある。
平田昌広と平田景のホームページ。 http://www.office-make.com/
▲読んでるうちに、ひものがつくりたくなってくる! ひものレシピつき絵本『ひものでございっ!』(文化出版局)
平田昌広さん(以下、M) 僕は昔から、文章を書くのが好きでした。中学の頃、「ニッサン童話と絵本のグランプリ」の第1回に童話を書いてを送ったことがあるんですけど、思い起こせば、それが僕の人生で最初の作品なんです。当時は、絵本作家になりたいなんて感覚はなくて、とにかく書くのが好きで、思いつくままに書いただけだったんですけどね。
その後、小説や戯曲を書いていた時期もあったんですけど、最終的に絵本の世界にたどりつきました。
平田景さん(以下、K) 私が絵本作家になりたいと思ったのは、25歳の頃のこと。当時は旅行雑誌の編集部で仕事をしていたんですけど、ある日の昼休み、近くの古書店で、田島征三さんの絵本と出会ったんです。力強い絵を見て、こんな人がいるんだ!と衝撃を受けてしまって。それで、私も絵本をやろうって思うようになりました。
M 僕らが出会ったのは、某出版社の月刊保育絵本の編集部です。そこで意気投合して結婚、二人ならなんとかできるかも!?なんて感じで、勢いで会社を辞めて、絵本作家になったんです。
デビューしたのは景の方が先で、2002年に志茂田景樹さんの文に景の絵の『みどりがめ ゆうゆうのびっくりおさんぽ』(絶版)が出て、僕の方はその翌年、井上洋介さんの絵の『かあちゃんのせんたくキック』(文化出版局)が出ました。2004年に出版された『ひものでございっ!』が、二人で初めてつくった絵本です。
二人とも絵本作家になるまで、本当にいろんな職を転々としました。今こうして絵本作家として二人で活動できているのは、とても幸せなことだと思っています。
▲苦手な野菜のあるゆうちゃんのために、お父さんがつくった料理とは?『ピーマン・にんじん・たまねぎ・トマト!』(文化出版局)
M 二人での絵本づくりは、作品によってさまざまですが、基本的にアイデアは僕が出します。
出版社の方からこういうテーマでお願いしますって依頼をいただいたときは、もちろんそのテーマで一生懸命考えて、頭の中にお話が浮かぶのを待つしかないんですけど、それとは別に、いつも何かしら考えてますね。
K ごはんを食べてるときに突然思いついて、「こういうのやりたい!」なんて話し出すことがあるんですよ。
M 食べ物や家族など、自分にとって身近なものを題材に書くことがほとんどですね。
『かあちゃんのせんたくキック』では、今はあまり見かけないかもしれないけど、故障した家電をキックするするという日常風景を書きましたし、『ひものでございっ!』のときは、実際に釣りに行って、さばいて、干物をつくった経験をもとに、お話をつくりました。
『それいけ! ぼくのなまえ』では、いろんなものに名前を書いているうちに宇宙まで行ってしまう、というファンタジーの場面もあるんですけど、あくまできっかけは「名前を書く」という日常の中のできごとなんです。
ファンタジー要素が強いお話は、ほかの作家さんでもっと得意な人がいると思うので、そういう方にお任せしようと思って。僕らはこれからも、生活に根付いた絵本をつくっていきたいですね。
▲自分の名前を書く喜びがいっぱいの絵本『それいけ! ぼくのなまえ』(ポプラ社)。絵本の中の名前を見つける楽しみも!
M 『それいけ! ぼくのなまえ』は、7年ぐらい前に僕が走り書きした“お話らしきもの”をもとにつくった絵本です。
僕自身は、その走り書きの存在もすっかり忘れていたんですけど、景が整理してとっておいてくれてたんですね。それで、絵本のアイデアがなかなか通らず苦戦していたときに、「これがいいんじゃない?」ってそのメモを持ってきたんです。
走り書きした7年前の時点では、自分の名前が書けるようになった子が、身のまわりのものに片っ端から名前を書くっていうお話でした。名前を書けるようになるって、子どもにとってはうれしいことですよね。だから、紙に書くことから始まって、いろんなものに書いていくっていうお話を考えたんですけど、なんか絵本としてはおもしろくないなと思って、そのままになってたんです。
K でも、もっともっといろんなもの……たとえば星とか月とか、普通なら書けないようなものにまで名前を書いちゃったりしたら、おもしろいよなって思ったんですね。
M なるほど、それなら確かにおもしろいってことで、改めてお話を書くことにしたんです。勢いで進んでいくお話なので、読むときも勢いよく読んでもらえるようにと、文章は七五調にしました。
作品によっては「こういう絵を描いてほしい」と細かく伝えることもあるんですけど、『それいけ! ぼくのなまえ』の場合は絵の勢いも引き出したかったので、あまりいろいろと言わないようにしました。隠し絵のようにいろんなところに名前が書いてあって、「ここにもある!」と探せる絵にしてほしいってことは僕からお願いしたんですけど、実際にどこにどんな風に名前を書くかは、もちろん景の担当。考えもしなかったような絵ができあがってきて、うれしくなりましたね。
K 絵本の巻末には、あいうえお表を見ながら、自分で名前を書ける欄を設けてあるんです。ぜひ実際に名前を書いてみてくださいね。
……平田昌広さん・景さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)