絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、『時の迷路』をはじめとした迷路絵本シリーズが大人気の絵本作家・香川元太郎さんにご登場いただきます。子どもの頃から迷路が好きだったという香川さん。シリーズ累計170万部を超えるベストセラーとなった迷路絵本は、どのようにして生まれたのでしょうか? インタビューを読んで、迷路絵本をもっともっと楽しみましょう!
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→)
1959年、愛媛県生まれ。武蔵野美術大学大学院修了。歴史考証イラストの専門家として、歴史雑誌や教科書などに多数のイラストを描く。迷路・隠し絵制作でも定評があり、『時の迷路』『昆虫の迷路』『進化の迷路』をはじめとする迷路絵本シリーズ(PHP研究所)はシリーズ累計170万部突破のベストセラーとなっている。最新作は『宇宙の迷路』(PHP研究所)。そのほかの作品に「かずの冒険」シリーズ(小学館)がある。
香川元太郎GALLERY http://kagawa5.jp/
▲歴史考証イラストレーターとしても活躍する香川元太郎さん。お城のイラストを描く様子
僕が迷路にはまったきっかけは、2つあります。1つは子どもの頃、町そのものが迷路みたいな、細かい路地がいっぱいある町に住んでいたこと。学校の帰り道、町の中でリアルな迷路遊びをしていたんです。
家と家のすき間の路地を、「ここ行けるかな?」なんてちょっとドキドキしながら進んでみる。行けないこともあるんだけど、意外と長くつながってて抜けられることもあったりして。冒険のようなわくわく感があったんですよね。
あともう1つは、親がつくってくれた積み木です。積み木で遊ぶのが大好きな僕のために、父がかまぼこ板を利用して、オリジナルの積み木をつくってくれていたんです。
かまぼこの板をきれいに洗って3枚に切ると、ちょうど正方形のチップができるんですね。それを、かまぼこを食べるたびにつくってくれて。チップがどんどん増えていくので、積み木遊びがますます楽しくなっていきました。
積み木遊びって、普通は小学校に入るとじきに卒業してしまうと思うんですけど、たくさんのチップを組み合わせると、橋とか階段とか、それまでの積み木ではつくれなかったようなものがつくれたんですね。僕はそれがおもしろくて、小学校に入ってからもずっと積み木遊びをしていたんです。
そして、それがさらにエスカレートして、積み木で立体迷路をつくるようになりました。橋の下をくぐったり、ぐるぐる回る道があったり、トンネルがあったり…… そうやって、迷路をつくることにはまっていったんです。
それが将来の仕事につながるだなんて、当時は考えもしなかったんですけどね。遊びを応援してくれた親には、今もとても感謝しています。
▲恐竜時代から縄文、弥生を通り過ぎ江戸時代へ。歴史を迷路で旅する絵本『時の迷路 ― 恐竜時代から江戸時代まで』(PHP研究所)
もともと僕は日本画家として活動していたんですが、子どもが生まれてから生活のことなどを考えて、イラストの仕事を始めました。そこでたまたま、城のイラストを描く機会に恵まれたんですね。僕は中学の頃から、城が持つ迷路のような構造に惹かれて“城マニア”になっていたので、城の絵は得意分野だったんです。そのときのイラストがきっかけとなって、歴史物のイラストの仕事がコンスタントに入るようになりました。
迷路絵本のアイデアを思いついたのは、歴史考証イラストレーターとして活動を始めた数年後のこと。僕と同じように、僕の子どもたちも迷路が好きだったんですね。迷路絵本をたくさん買ってあげてたんですけど、「今度はお父さんが描いて」とリクエストされたので描いてあげたら、とても喜んでくれて。あんまり喜んでくれるので僕も凝りだして、本格的なものを描くようになったんです。子どもたちは、僕がつくった迷路を何回も何回もやっていました。
その様子を見ていて、これはいけるかもなと思ってたんですよ。自分も迷路が好きだし、歴史物のイラストのときのようなリアルタッチの絵で迷路を描いたら、今までにない新しい迷路絵本ができるんじゃないかなって。ただそのときは、イラストの仕事で忙しかったので、そのままになっていたんです。
でも40代半ばぐらいになって、自分の人生も残り半分、あと何年仕事ができるかな……なんて考えたとき、これだけで終わりたくない、やりたいことをやらなくちゃと思ったんですね。それで、迷路絵本の見本をつくって、出版社に売り込みに行きました。そうして生まれたのが、歴史を切り口とした迷路絵本『時の迷路』なんです。
絵本の好みって人それぞれで、どーんと大きく絵が描かれた迫力のある絵本が好きな人もいれば、すみずみまで細かく描かれた緻密な絵本が好きな人もいる。僕は完全に後者ですね。子どもの頃から、細かい絵をじっくり見ていろいろ発見するのが好きだったんです。
『ウォーリーをさがせ!』(フレーベル館)とか、あの手の絵本には刺激を受けました。本を開くと、ものすごい数の人がいて、その人たちがそれぞれいろんなことをやっている。だから、ずっと見ていても飽きないんですよね。これはすばらしいなと。僕の絵本の場合、そこまでたくさんの人を描いてはいないんですけど、ひとつの絵の中にいろんな物語があるっていうのは、意識してやってます。ぜひすみずみまで見て、いろんな物語を見つけてほしいですね。
▲秘密の穴をとおって虫の世界へ!『昆虫の迷路』(PHP研究所)。精緻に描かれた昆虫の世界には、迷路やかくし絵がしかけられています
僕の絵本は、基本的には迷路絵本なんですけど、隠し絵の絵本でもあるというのが大きなポイントです。お父さんやお母さんにとって、迷路をたどるというのは結構面倒くさいことのようで、やらない人の方が多いんですね。でも、「ここに犬が隠れているよ、さあどこにいる?」なんて書いてあると、みんなやるんですよ。
隠し絵を入れたことによって、迷路の好きな子どもだけじゃなくて、いろんな人が遊べる絵本になったんです。迷路は面倒くさいというお父さんやお母さんでも、まだ迷路をたどるのが難しい3歳ぐらいの子どもでも、隠し絵なら気軽に楽しめるんですよね。読者の方々からは、「どちらが早く隠し絵を見つけられるか、親子で競争してます」なんて声がたくさん届きます。
迷路絵本は、読み聞かせするような絵本ではないけれど、親子で一緒に遊ぶことができる絵本なんです。
……香川元太郎さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)