絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェ インタビュー」。今回は、「ショコラちゃん」のシリーズなどでおなじみの絵本作家・はたこうしろうさんにご登場いただきます。幅広い表現方法で魅力的な作品の数々を生み出しているはたさんは、現在子育て中のパパでもあります。絵本づくりにおけるこだわりや、読み聞かせの楽しみ方、新作の制作秘話などについてお話しいただきました。
今回は【後編】をお届けします。 (←【前編】はこちら)
1963年、兵庫県生まれ。京都精華大学美術学部卒業。絵本作家、デザイナー、イラストレーターとして国内外で活躍するほか、ブックデザインも数多く手がける。主な作品に『どうぶつなんびき?』(ポプラ社)、『ちいさくなったパパ』(小峰書店)、『雪のかえりみち』(岩崎書店)、『ゆらゆらばしのうえで』(福音館書店)、『クーとマーのおぼえるえほんシリーズ』(ポプラ社)、『ショコラちゃんシリーズ』(講談社)など。「MOE・イラスト絵本大賞」の審査員も務めている。
僕の読み聞かせスタイルは、とにかく脱線。絵本は親子のコミュニケーションのために存在すると思っているので、いろんな言葉を足したり、どんどん脱線したりしながら読むんです。脱線しながら読むと長くなって大変なんですけど、それでも脱線すればするほど子どもの反応もいいので、がんばっていろいろと工夫しながら読んでますよ。
ところが、子どもが生まれて近所の人たちといろいろ話したりするようになって、だんだんわかってきたんです。みんながみんな僕のように脱線しながら読んでいるわけじゃなんだなと。一定のペースで、書いてある通りに文章を読むだけ、という方も結構多いんですよね。僕は脱線することを想定して絵本をつくってたんですが、どうもそれでは足りないかもしれないと気付いたんです。
絵本によっては、読み手が何も考えずに文章をそのまま読み上げていくだけで子どもにウケるものもあるんですよ。でもそういう絵本をつくろうとすると、文章がまどろっこしくなってしまうんです。たとえば「よかったね、これでママもおおよろこび パチパチパチ」とか……実際に読むときは僕も「パチパチパチ」とか言うけど、僕は絵本にそこまで盛り込みたくなくて、そういうのは読み手であるお母さんやお父さんが付け加えてくれればいいと思うんです。
ただ、付け加えるのが苦手な人たちのために、何か工夫をしなくちゃいけない。それで、「クーとマー」の新作『ぼくののりものなあに』には、吹き出しの文章を入れたり、擬音を手書きで加えたりしたんです。そういうちょっとした工夫で、お母さんの声色が変わったりするし、お母さん自身も書き文字のところはちょっと新鮮な気持ちで読んでくれたりするんですよね。そしてそういうことって、子どもにも敏感に伝わるんですよ。
でも、どのくらいまで文章に盛り込むか、そのさじ加減はすごく難しい。他の作家さんに相談したりもするんですけど、そんなこと絶対しない方がいい、美しい文章、美しい絵本をつくることが我々の使命なんだからって言う人もいれば、やっぱり工夫をして文章をつけてあげないと、なかなか伝わらないよねって言う人もいる。まだまだ課題ですね。
読み聞かせをするお母さんやお父さんには、文章を書いてあるまま読むのではなく、思ったことを話したり、子どもに質問したりして、いっぱい言葉を足して、どんどん脱線しながら読んでほしいですね。そうすることで、絵本を読む時間が子どもにとってすごく楽しい時間になるはずですし、親子の関係も結ばれていくはずですから。
僕は3歳くらいからの記憶がわりとたくさん残ってる方みたいなんです。その頃の記憶をたどってみると、うれしい、つらい、悲しいといった気持ちは、3歳や4歳の子どもでも、大人になった自分が今味わう感覚と、ほとんど変わらないと思うんですよ。
子どもなんだから我慢させておこう、今はつらくても、どうせそのうち忘れるだろう……と親は思ってしまいがちですが、子どもにとっては生きている今がすべて。そして、その悲しいという感情は、大人がすごく悲しいと思って泣くような事件があった場合と、まったく同じくらいの心の振れなんです。だからそのことを忘れないで子どもと接したいなと僕は思ってます。みなさんにも、そういう風に子どもと接してほしいですね。
▲『はじめてずかん どうぶつ1』(コクヨS&T)
僕は3~4歳の頃から、動物が大好きだったんですね。家に1冊だけあった動物図鑑はボロボロに破けるくらい見てましたし、小学校時代は「野生の王国」や「驚異の世界」などのネイチャー番組をかかさず見てました。だから動物図鑑をつくるっていうのは昔からの夢だったんですよ。
今回、動物図鑑をつくるにあたって特にこだわったのは、できるだけリアルに描くということ。子ども向けの図鑑って、丸描いて耳描いてうさぎ、みたいに、かなりデフォルメされたものが多いんですけど、「こんなうさぎおれへんやろ」って思っていて。だから、なんとかリアルな形で描きたいって考えてたんです。
ただ、リアルすぎても子どもたちはついてこないし、だったら写真でもいいじゃないかってことになりますよね。でも絵で表現することで、作家の思いがより伝わると僕は信じてるんです。だから絵にこだわりたかった。リアルだけれどリアルにしすぎず、僕なりの、初めて子どもたちが手にとるならこういうのを見せたいっていう気持ちを形にしました。
生きている動物を前にしてスケッチするわけではないですし、見たことのない動物もいるので、描くときはかなり苦労しましたよ。写真ひとつだけしか見てないとわからないことがいっぱいあるので、5~6冊の図鑑を全部開いて、動物の形をくまなく頭に入れた上で、自分なりにある程度省略をしながら描きました。
動物の選定も大変でしたね。あまりたくさん載せると動物が小さくなってしまうので、やむなく掲載をあきらめた動物もたくさんあります。「これだけはおさえておかないと!」という動物は全部網羅しましたけどね。最後のページには「人間」を描きました。動物図鑑って普通「人」は入ってないでしょう。でも人間も動物で、同じ地球に暮らしている。この本を読み聞かせるお母さんやお父さんも、そのことに改めて気付いてくれたらうれしいですね。