絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、「うしろにいるのだあれ」シリーズでおなじみのご夫婦ユニット・accototo(アッコトト)の、ふくだとしおさんとあきこさんです。子どもも大人も魅了する、愛らしい動物たちの世界は、どのようにしてつくられるのでしょうか。新作エピソードや子育てにまつわるお話など、たっぷりと伺いました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→)
1971年、大阪府生まれのふくだとしおと、1978年、兵庫県生まれのふくだあきこによるユニット。絵本、絵画、壁画、立体、雑貨など、さまざまな分野で活動している。主な作品に、「うしろにいるのだあれ」シリーズ、『ひゅるりとかぜがふくおかで』(幻冬舎)、「ポポくん」シリーズ(PHP研究所)、『ピネくんとさかなのおうち』(学研)、「ごらん」シリーズ(イースト・プレス)、『きょうのそらはどんなそら』(大日本図書)、『ほら、そっくり』(教育画劇)などがある。 http://accototo.net/
ふくだとしおさん(以下、T) 僕たち二人の出会いは、留学先のフランスでした。たまたま同じ語学学校に通っていたんです。波長が合ったので、自然に仲良くなりました。
当時、僕は油絵を描いていたんですが、彼女が絵本が好きだと知って、誕生日に手づくりの絵本をプレゼントしたんです。日本を離れてみて、改めて日本のよさを感じていたところだったので、千代紙や竹筆を使って、あえて日本風な絵本をつくりました。
お話の主役は、ひとつの卵。親鳥が卵を4つ育てているんですけど、ひとつだけいつまで経っても殻から出てこない卵があるんですね。そのうちに、ほかのみんなは巣立っていき、季節も秋、冬、春と変わって…… いつのまにかその卵はなくなって、大きな木になるんです。そこに巣立っていった鳥たちが戻ってくる ―― そんなストーリーを、絵だけで展開していった絵本です。
▲としおさんがあきこさんのために初めてつくった、世界でたったひとつの絵本
ふくだあきこさん(以下、A) この卵は、私のことを表現したものらしくて。自分のことを一冊の本にしてもらえるなんて、初めてのことでした。その特別感がすごくうれしかったです。
T 帰国後しばらくして、出会ってから2回目の誕生日のときにも、また絵本をつくってプレゼントしたんですね。絵本のおもしろさに気づいたのは、その頃のことです。絵本は、10数枚の絵がつながってできるので、一枚の絵では絶対に表現できないものが表現できる。そこにさらに文章が加わって、ひとつの世界をつくることができる。そんなところに魅力を感じました。
この2冊の手づくり絵本は、僕たち二人の絵本作家としての原点です。これがなかったら、絵本の魅力に気づくことも、絵本作家として活動することも、なかったんじゃないかなと思っています。
▲愛子さまのお気に入り絵本として紹介され話題となったベストセラー絵本『うしろにいるのだあれ』(幻冬舎)
T 僕たちの絵本作家としてのデビュー作は、『うしろにいるのだあれ』。僕がフランスにいた頃に感じた思いをきっかけにつくった絵本です。
僕がフランスに留学したのは、もちろん絵の勉強のためなんですが、実は日本での人間関係にちょっと疲れていたというのもあったんですよ。誰も知らないところに行って、一人きりになってみたい……そんな思いもあって、渡仏したんです。
でも、1年ほど過ごすうちに、気づいたらいろんな人たちとの輪ができていて。そこで初めて、自分は一人じゃないんだ、人と人とのつながりの中に存在しているんだと感じたんです。
『うしろにいるのだあれ』は、ぼくのうしろにはかめさん、かめさんのうしろにはねこさん、ねこさんのうしろには……と展開していって、最後は「みんなちかくにいたんだね」で終わります。気づかないかもしれないけれど、きっと誰かがそばにいる ―― そんなメッセージを込めました。
この絵本をつくるとき、子どもにもわかりやすくといったことは、実はあまり考えていなかったんですよ。むしろ同世代の大人に、絵本という形で、シンプルに伝えられたらと思ってつくった絵本だったんです。
A そうしたら意外とお子さんの反応がよくて。子どもに向けてつくったわけではないので、色調もどちらかというと暗いし、地面とか、あえてムラを出しているところは、顔に見えるっていう人もいたりして、子どもにはちょっとこわいかなと思ってたんですけどね。
T でも結果的に、たくさんの方に喜んでもらえるシリーズになりました。この絵本に込めた思いが少しでも伝わったのかなと思うと、うれしいですね。
T もともと僕は、もっと暗い色調の絵を描いていたんです。今でもそうなんですけど、モノトーンの作品がわりと多いんですよ。
だけど、『うしろにいるのだあれ』の下絵を描き終わったとき、妻に色をつくってもらおうかなと思いついたんですね。子どものときからたくさん絵本を見ていたからか、彼女は色彩感覚に関して、僕にはないいいものを持っているなと感じていたので。
それでとりあえず、最初に出てくる犬の色をつくってもらいました。塗ってみたら、これがすごくよかったんですね。じゃあ次はかめの色、次は……という感じで、結局すべての色をつくってもらったんです。それをきっかけに、色づくりは妻の担当になりました。「あたたかさを感じる茶色」といった感じでイメージを伝えて、つくってもらっています。
僕が一人でつくったら、こういう色合いにはならないんですよね。だから“accototo”としての作品は、二人だからこそできあがったものばかりだと感じています。
A 絵本の企画を考えたり、文章をつくったりというのは、二人でやっています。次はどんなテーマにしようかと話し合ったり、どちらかが考えた文章にもう一方が書き加えたり、削ったり…… お互いに編集しあうような感じですね。
▲あたたかな色彩のaccototoワールド。『ひゅるりとかぜがふくおかで』、『みんなだれかに』(いずれも幻冬舎)、『ほらそっくり』(教育画劇)。『へびのたまご?』(遊タイム出版)には、なんと“ミーテ”という名前の鳥が登場しています!
T うちには今3歳の娘がいるんですけど、娘が生まれてからは、文章のつくり方がかなり変わってきたような気がしますね。言葉の音やリズム感を以前より意識するようになったというか。
A 娘がいなかった頃のことを今振り返ると、考え方が硬かったなぁと感じるんです。子どもが生まれることで世界が広がって、いい意味で力が抜けてきたのかもしれませんね。
T 娘には、制作途中の絵本も見せているんですよ。というか、「これなにー?」って、勝手に見にくるんですけどね(笑) そのときの反応次第で、じゃあこの展開でいこうって決めたりすることも結構あります。僕たちの絵本の一番の読者ですね。
……accototo ふくだとしおさん・あきこさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)