絵本作家インタビュー

vol.75 絵本作家 山村浩二さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、アニメーションの世界で国際的に活躍する作家・山村浩二さんです。石津ちひろさんとの人気作『くだもの だもの』『おやおや、おやさい』などで、絵本作家としても活躍する山村さん。アニメーション作家ならではの絵本づくりや、注目の新作『くるくるくるよ おすしがくるよ』の制作秘話など、たっぷりと伺いました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・山村浩二さん

山村 浩二(やまむら こうじ)

1964年、愛知県生まれ。東京造形大学絵画科卒業。アニメーションの制作に加え、国際映画祭での審査員や講演など幅広く活躍。『頭山』がアカデミー賞短編アニメーション部門ノミネート、6つのグランプリ、『カフカ 田舎医者』が7つのグランプリなど、国際的な受賞は60を超える。絵本に『くだもの だもの』シリーズ(文・石津ちひろ、福音館書店)、『くるくるくるよ おすしがくるよ』(文・川北亮司、ブロンズ新社)などがある。
ヤマムラアニメーション http://www.yamamura-animation.jp/

楽しいお寿司キャラが登場!『くるくるくるよ おすしがくるよ』

『くるくるくるよ おすしがくるよ』は、川北亮司さんのテキストがすごくナンセンスでおもしろくて、そこに惹かれて絵を引き受けました。まともに筋の通ったものより、こういうテキストの方が自分としては魅力を感じるんですよね。

お寿司のキャラクターは、かなり自由につくっているように見えるかもしれませんが、ベースとなるコンセプトを自分の中でしっかりとつくった上でできあがったものなんですよ。たとえば、どこまで寿司らしさを残すか、どこまで擬人化するか、手足や目鼻はどうつけるのか、ネタやシャリの部分はそれぞれどう描くか。ある程度の基準が自分の中でできてくると、どんなネタでもどんどん発想をふくらませて描いていけるようになるんです。

くるくるくるよ おすしがくるよ

▲読み聞かせにもぴったりな遊びうた絵本『くるくるくるよ おすしがくるよ』(ブロンズ新社)。山村さんのお気に入りは、武士なのに女々しい一面もあるマグロだとか。文は川北亮司さん

ネタの種類の描き分けは、やってみたら意外と苦労せずに進められました。ただ、同じネタでもお寿司屋さんによって切り方や飾り方が違うので、より典型的な形を見つけるのが大変でしたね。誰にとってもなじみのあるお寿司になるように、インターネットで写真を検索したりして、調べながら描きました。

絵本は自分のペースで見られるし、簡単に行きつ戻りつできるので、いろいろと仕掛けがしやすいというのも、おもしろいところですね。繰り返し読まれることを想定して、「こんなところにこんなのがあった!」という発見の要素は、ところどころに散りばめるようにしています。

『くるくるくるよ おすしがくるよ』では、お寿司以外にも湯飲みや醤油さし、割り箸や割り箸袋も描きましたし、包丁もキャラクターになって登場させています。自分の中で結構気に入っているのが、“ごはんつぶの精”。全編通していろんなところにちょこちょこと出てくるので、何回も読む中で見つけて楽しんでほしいですね。

小さいときほど、絵本で親子の触れ合いを

絵本作家・山村浩二さん

僕自身は、子どもの頃の絵本の思い出というのはあまりないんです。でも、自分の子どもたちが小さい頃は、たくさん読みましたね。

今、息子が18歳で、娘が15歳。もう大きくなってしまったので、当時の記憶はかなり薄れているんですけど、そんな中でも印象に残っているのは、エリック・カールさんのしかけ絵本です。一緒に読みながら、自分が感動してたりして(笑) 『だんまりこおろぎ』(偕成社)には、やられました。

自宅と事務所が一緒で、夫婦ともに働いているので、たぶん普通のお父さんよりも長時間、子どもとかかわっていたと思います。幼稚園の送り迎えも毎日してましたからね。

仕事が忙しかったので、十分ではなかったかもしれないですけど、絵本を通じて親子一緒に過ごしたひとときは、親子のコミュニケーションをとるための貴重な時間だったと感じています。

映像は一方的なんですよね。テレビを見せておけば子どもはおとなしいし、親も手がかからなくて助かるんですけど、そればかりではよくないなと思うんですよ。特に小さい頃は、親子が触れ合う時間というのがすごく大事。そのためにも、映像よりもまず先に絵本がいいんじゃないかなと思います。

子どもをひざの上に乗せたり、一緒に寝そべったりして、絵本を読む。本を読むという以前に、スキンシップなんですよね。そして、絵本を媒介にして、親子で世界を共有できる。すごくいいメディアだなと思います。

さまざまな絵本に触れて、子どもの感性を育もう

絵本作家・山村浩二さん

僕は自分が絵を描くので、絵本を選ぶときは絵に注目します。僕自身、絵そのものからいろんな感性を養ってきましたからね。

子どもの頃に見たもののイメージや味わった感覚というのは、ずっと記憶のどこかに残っていて、豊かな感性につながっていくと思うんです。だから感性が発達する段階のときにさまざまな絵に触れる機会を与えてあげるのは、すごく大切なこと。絵本はその点、とても手軽でいいですよね。

大人はどうしても言葉や内容で選びがちですが、絵のおもしろさ、絵の魅力という視点から絵本を選んでみるのもいいのかなという気がします。単純にかわいいとか、誰が見てもきれいとかいうものだけではなくて、こわいもの、強烈なものも含め、いろいろなものを見る機会を与えてあげるといいですよね。

今年初めに、カナダとの共同製作で『マイブリッジの糸』という新作短編アニメーションが完成しました。19世紀の写真家エドワード・マイブリッジの実人生と、現代の東京に住む母と娘 ―― 時間と空間を隔てた2つの物語を並行して描いた、13分のオリジナル作品です。

実はこの作品、自分たち夫婦が子育てを経験して感じたことがきっかけになっているんです。子どもが3歳ぐらいになるまでの時期というのは、本当にかわいくて愛おしくて、すごく特別な時間だったなと思うんですね。でもその特別な時間は、子どもの成長とともに終わってしまう……時が経つことの切なさを、アニメーションという時間を扱う芸術で表現できないかなと思い立って、つくり始めた作品です。

子育て中は本当に大変で、ゴールがないような気がしてしまって、これがいつまで続くんだろう、みたいな思いを抱えている方も多いと思うんですけど、過ぎてみればあっという間で、本当にかけがえのない時間だったと感じます。だから、味わえるだけ味わってほしいなと思いますね。


ページトップへ