絵本作家インタビュー

vol.8 絵本作家 はたこうしろうさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェ インタビュー」。今回は、「ショコラちゃん」のシリーズなどでおなじみの絵本作家・はたこうしろうさんにご登場いただきます。幅広い表現方法で魅力的な作品の数々を生み出しているはたさんは、現在子育て中のパパでもあります。絵本づくりにおけるこだわりや、読み聞かせの楽しみ方、新作の制作秘話などについてお話しいただきました。
今回は【前編】をお届けします。 (【後編】はこちら→

絵本作家・はたこうしろうさん

はたこうしろう

1963年、兵庫県生まれ。京都精華大学美術学部卒業。絵本作家、デザイナー、イラストレーターとして国内外で活躍するほか、ブックデザインも数多く手がける。主な作品に『どうぶつなんびき?』(ポプラ社)、『ちいさくなったパパ』(小峰書店)、『雪のかえりみち』(岩崎書店)、『ゆらゆらばしのうえで』(福音館書店)、『クーとマーのおぼえるえほんシリーズ』(ポプラ社)、『ショコラちゃんシリーズ』(講談社)など。「MOE・イラスト絵本大賞」の審査員も務めている。

いろんなタッチの絵を描く理由

絵を担当するときは、どんな絵が一番いいか思い浮かべながらお話を読むんです。もらったお話を一番いい感じで伝えられる絵にしたいから、絵のタッチも変わってくるんですよね。

それから、いつも新鮮な気持ちで絵を描きたい、というのも、いろんなタッチの絵を描く理由のひとつです。新しい画材や技法で描くと、もらったお話ひとつずつに新鮮な気持ちで取り組むことができるんです。常にわくわくしながら、どんなものができるのかなって自分でもわからない状態で描くのが、すごく好きなんですよね。

どんなタッチにするかは、いろいろ考えたり悩んだりせず、新しい文章を読んだときの自分の反応で決まります。今まで蓄積してきた自分のものの中から、かなり感覚的な感じで「これだ!」と決めますね。

4人のこえがきこえたら ショコラちゃんのレストラン
はるにあえたよ ゆらゆらばしのうえで

▲これらすべてが、はたこうしろうさんの絵。左から『4人のこえがきこえたら』(作・おのりえん、フレーベル館)、『ショコラちゃんのレストラン』(作・中川ひろたか、講談社)、『はるにあえたよ』(作・原京子、ポプラ社)、『ゆらゆらばしのうえで』(作・きむらゆういち、福音館書店)

絵本によってまったく違うタッチを描かれてきた方といえば、堀内誠一さんと太田大八さんのお二人。系統としては僕も同じところにいるんだと思います。『わたしのワンピース』の西巻茅子さんも、1冊ずつよく見ていくと、タッチが違います。顔とかは同じなんですけど、画材や描き方が全部違うんです。去年初めてお会いする機会があって聞いてみたら、西巻さんも僕と同じで、1冊ずつ新鮮な気持ちでわくわくしながら描きたいからっておっしゃってましたよ。

心に残る絵には、奥行きがある

イラストレーションと絵本の絵というのは、大きな開きがあるんです。イラストレーションは、簡単に言えば、サイン的な役割が強いんですね。駅にある「改札はこちら」「トイレはあちら」というサインのように、見る人を短時間で方向付けてあげるという役割があります。

広告の中のキャラクターも、サイン的なものが多いですね。そのキャラクターの生きてきた背景なんかはあまり見えてこないんですが、これは見えないほうがいいんです。見えてしまうと、ちょっとうざったくなってしまうんで。だからできるだけ単純化して、ステレオタイプな感じにしてあげることで、見る側は絵にではなくて、その広告が一番訴えたいところに目を向けるようになるんです。

でもそんなイラストレーションを、絵本や児童書の絵にそのまま転用すると、薄っぺらくて全然おもしろくないものになってしまうんですね。雑誌の中ではかわいくて素敵だったものが、子ども向けの絵本や読み物に挿絵としてつけると、急に色あせてしまうことがあるんですよ。それはなぜかというと、絵本や挿絵の絵というのは、サインとは逆のものだから。むしろできるだけサイン的な要素を減らして、いろんな方向からその人物の表情や生きてきた背景を読み取れるような、そういうものを描かないといけないんですね。笑顔ひとつ描くにしても、いろんな笑いがあるわけだから、どんな気持ちで笑ってるのか。怒ってるならどんな怒り方なのか。そういうところを表現してあげるのが、絵本の場合はすごく大事なんです。

僕が子どものときに見てきたお気に入りの挿絵も奥行きを感じさせるものばかりで、だからこそ今も心に残っています。そういう絵本は、大人にとっても子どもにとっても魅力的な絵本になるんじゃないかと思うので、僕自身そういう絵を描くようにしてますね。

読み手の想像力をくすぐる絵本をつくりたい

絵本の最大の魅力は、動かないということ。動かない絵と文章が補完しあう、その絶妙な関係が、人間の脳を刺激して、ものすごく想像力をかきたてるものになるんだと思うんですよね。

小説やマンガが映画になったとき、原作が好きだった人はみんな物足りないと思うじゃないですか。「なんか違う。やっぱり原作のがよかったな」って。それはやっぱり、どんなすばらしい映画監督とキャストで何十億ってかけてつくりあげた映画でも、一人の人間が文章と絵を組み合わせたものを見て頭の中で想像するものの方が、はるかにそれをしのぐ世界が広がってるからだと思うんです。CGに何億使った映像でも、頭の中で想像したものの方が勝ってるんですよ。

もちろん、読み手の想像力にかかってる部分も大きいですよね。だからつくり手としては、どうやって読み手の想像力を喚起するかってところに常に頭を悩ませています。どういう構成にすれば想像力を膨らましてくれるのか、どうやって読者の心を動かすかっていうのが、絵本づくりの一番の課題であり、醍醐味ですよね。


……はたこうしろうさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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