絵本作家インタビュー

vol.71 絵本作家 たしろちさとさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、日常生活の中のさまざまな匂いを描いた『くんくん、いいにおい』でおなじみの絵本作家・たしろちさとさんです。子どもの頃から絵本が大好きだったというたしろさん。絵本について語るときの生き生きとした笑顔から、絵本をつくることの喜びが伝わってきました。そんなたしろさんの、こだわりの絵本づくりとは!?
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・たしろちさとさん

たしろ ちさと

1969年、東京都生まれ。明治学院大学経済学部卒業後、4年間の会社勤めを経て絵本の制作をスタート。『みんなの家』(福音館書店の月刊絵本「おおきなポケット」)でデビュー。主な作品に『ぼくはカメレオン』『くんくん、いいにおい』『きこえる? きこえるよ』(グランまま社)、『ぼくうまれるよ』(アリス館)、「5ひきのすてきなねずみ」シリーズ(ほるぷ出版)、『クリスマスのおかいもの』(講談社)などがある。
http://www.chisatotashiro.com/

ねずみたちが大活躍!「5ひきのすてきなねずみ」シリーズ

おんがくかいのよる ひっこしだいさくせん

▲個性豊かなねずみたちが大活躍!「5ひきのすてきなねずみ」シリーズ『おんがくかいのよる』『ひっこしだいさくせん』(いずれもほるぷ出版)

「5ひきのすてきなねずみ」シリーズも、『ぼくはカメレオン』と同じく、マイケル・ノイゲバウアーさんの編集でつくった絵本です。前からあたためていた作品で、家づくりのお話と音楽会のお話の2つ分、ダミーの絵本をつくってあったんですね。その両方をマイケルさんにお見せしたら、すごく気に入ってくださって。それで、音楽会の方から絵本にすることになりました。

このねずみたち、実は最初は7匹いたんです。でも、5匹ぐらいの方がそれぞれの個性がわかりやすいからということで、数を減らして、「ぐれ」「ちびすけ」「ちゃたろう」「くろ」「しろこ」の5匹にしました。海外版の絵本でも、「ちびすけ」だけ「ちび」なんですけど、ほかはみんな同じ名前なんですよ。読み聞かせ会などのイベントに行くと、5匹の名前や個性をしっかり覚えてくれているお子さんと出会うことがあって、とてもうれしくなりますね。

『おんがくかいのよる』では、音楽会が始まる直前、ねずみたちが舞台袖から会場の様子を覗いているシーンがお気に入りです。あのシーン、実は最初はなかったんですよ。全部できあがってから、ここにもう1枚暗闇のページがあるとよさそうだね、ということで、描き足したシーンなんです。この絵があることによって、音楽会が始まる前の緊張感が伝わるようになったんじゃないかと思います。

『ひっこしだいさくせん』は、ねずみたちが新しく家をつくるお話なんですが、実際に小さな家の模型をつくって、それをいろんな方向から眺めながら描きました。椅子をひっくり返した屋根とか、植木鉢とコーヒーカップを利用したお風呂とか、古時計の食品貯蔵庫とか、じっくり見て楽しんでもらえたらうれしいです。

心がけているのは“よく見る”こと

たしろちさとさんがつくった、ねずみたちの楽器と家の模型

▲たしろちさとさんが「5ひきのすてきなねずみ」シリーズのためにつくった、小さな楽器と家の模型

絵本のアイデアは、じっくり考えてもなかなか出てきません。散歩しているときやお風呂に入っているとき、なんとなくボーっとしているときに、ふと降ってくるんです。いつ降ってくるかはわからないので、メモ帳はいつも持ち歩くようにしてますね。

私の仕事部屋には「おはなしのたねばこ」という箱があって、書いたメモはその箱に入れておきます。メモは、言葉や文章だったり、絵だったり、音のつながりみたいなものだったり、いろいろですね。箱の中でしばらく寝かせておいてから、改めてメモを見てみると、あら、こんな言葉が!なんて新鮮に感じることもあって、そこから本が生まれたりするんです。

絵を描くときに心がけているのは、“よく見る”こと。絵本作家としてデビューする前、ある編集者さんに「イメージで描いてるでしょう?」と言われたことがあったんですね。それっていけないことなのかな?って気持ちもあったんですけれども、その方から「本物をよく見なさい」とアドバイスされて、そう心がけるようになりました。

本物をよく見て描くと、確かに自分でも違いを感じました。本物を見て、まわりの空気までちゃんとわかって描くのと、なんとなく描くのとでは、まったく違う絵になるんです。

なので今も、いつも“よく見る”ことを心がけて絵本をつくっています。『きこえる? きこえるよ』を描くときは、実際に歩道橋の上から車の音を聞いてみました。『おんがくかいのよる』ではねずみたちの楽器を、『ひっこしだいさくせん』では家の模型を実際につくって、それを見て描きました。それぞれの世界をきちんと表現するために、これからも“よく見る”ことを続けていきたいですね。

家族とともに過ごす、楽しい絵本の時間

絵本作家・たしろちさとさん

私にとって、絵本をつくるお仕事というのは、お話をつくったり絵を描いたりするというよりも、“世界をつくる”ってことだと思っています。本は紙をつづったものですが、ただの紙じゃないんですよね。その中に別の世界が広がっているんです。そんな世界をつくることができるというのが、絵本作家として一番楽しいことなんですよね。

私自身も子どもの頃は、父や母、祖母からいろいろな絵本を読んでもらって、絵本の中のさまざまな世界を冒険しました。絵本そのものが好き、というのももちろんあるんですけれども、絵本を通じて、読んでくれる人と楽しい時間を過ごせるということが、また何よりもうれしかったんです。みなさんにも、絵本で家族のあたたかい時間をもっていただけたら幸せですね。

今は、五感の絵本「The Book of Sense」シリーズの新作と、「5ひきのすてきなねずみ」シリーズの3作目にとりかかっています。ねずみたちは、今度は走りますよ!

絵本をつくることは、本当に楽しいです。もちろん、ものづくりですから、行き詰ってしまうこともありますし、頭の中で思い浮かべたものに絵が追いつけなくて焦ってしまうこともあるんですけどね。でも、この仕事を選んでよかったなと感じていますし、これからもやめられないなって思っています。



ページトップへ