絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェ インタビュー」。今回は、多彩な顔ぶれの画家・イラストレーターとともに110冊以上の作品を生み出してきた絵本作家・中川ひろたかさんにご登場いただきます。元保育士で、子どもの歌の作曲家でもある中川さん。その活動の原点や、絵本づくりにおけるエピソードなどを、テンポよくユーモアを交えながら語っていただきました。
今回は【前編】をお届けします。 (【後編】はこちら→)
1954年、埼玉県生まれ。シンガーソングライター、絵本作家、カフェ店主など、多方面で活躍中。上智大学法学部中退後、千早子どもの家保育園で日本初の男性保育士に。1987年、みんなのバンド「トラや帽子店」を結成。「世界中のこどもたちが」「ともだちになるために」など、子どもたちに広く親しまれる楽曲を数多く手がける。1995年『さつまのおいも』(童心社)で絵本作家デビュー。主な絵本に「ピーマン村」シリーズ(童心社)、「こぶたのブルトン」シリーズ(アリス館)など。2005年、『ないた』(金の星社)で第10回日本絵本賞大賞を受賞。
子どもに興味をもった最初のきっかけは、年の離れたいとこなんだよね。歩くときにジャンプしてたり、いつも歌をうたってたりする様子を見て、子どもってなんておもしろいんだろうって思ったわけ。
でも待てよ、自分も昔はこんな子どもだったに違いない。ジャンプして歩いていた自分こそ本当の自分で、それを隠していくことが成長なのかな……だとしたら、成長ってなんだろうって。それで、人間が本来持っていた魅力的なところをもっと見てみたいって思った。自分を知るためにも、人間の原点を知るためにもね。そのためには、もっといろんな子どもたちを見てみたい。それでハタチ前後の頃、保育の仕事を始めたんだよね。
保育園での最初の遊びが、砂場でのトンネルづくり。子どもたちがトンネルを掘ろうとしてるんだけど、すぐに崩れちゃって、うまくいかない。僕は子どものころよくやってて得意だったから、一緒にやってみたのね。「こうやってカチンカチンに固めてから堀り始めるんだよ。そっちから掘ってごらん」って。掘っていったら、真ん中あたりで指が当たるでしょ。それで握手するじゃん。そのとき子どもがすごく近づいてきた感じがしたの。それまですごくよそよそしかったのが、ぐーっと近づいてきて。大人対子どもっていう壁がなくなった瞬間だよね。
それでわかったんだよ。子どもと近づくためには、教えてあげるんじゃなくて、一緒に遊ぶこと。一緒におもしろがること。その時間を一緒に楽しむこと。大人と子どものつきあいもそういうのがいいんじゃないかなって。
▲楽譜付きで絵本になった中川さん作曲の『いっぽんばし にほんばし』(アリス館)
僕は、歌では曲を書くんだけど、絵本では文を書いている。不思議だよね。でもね、絵本って音楽の構成とよく似てるんだよ。イントロがあって、Aメロ、サビ、またAメロ、エンディング……途中に間奏があったり、繰り返しが何回かあったり。そういう流れが絵本にもあるんだよね。だから絵本ってすごく音楽的なんだよ。
曲をつくるときはいつも、詩がよく聞こえるようにって心がけてるね。俺の歌だから聴いてくれよって感じの歌じゃなくて、子どもと一緒に歌える、歌いやすい歌を目指してるんだ。絵本も同じ。別に伝わんなくてもいいよ、みたいなことは言わない。そういう絵本もあってもかまわないんだけど、僕は子どもたちが首かしげてるのが見えるから、やっぱりちゃんと伝わる絵本を書きたいんだよね。
その絵本で、子どもたちに喜んでほしいっていうサービス精神がすごく強いんだ。僕がおもしろがったことだから、みんなもおもしろがれると思うよ、ってね。年齢差50もあるのに、同じことをおもしろいと思えるだなんて、すばらしいことだと思わない?
絵本については、保育園の中でも一番詳しかったんだよね。僕はもともと谷川俊太郎さんのファンだったんだけど、谷川さんが大人の詩だけじゃなくて、子どもの絵本も書いてるんだと知って、組んでる作家が僕の大好きな和田誠さんで、ほかにも長新太さんとも組んでいて、長さんのことを調べたら、今江祥智さんや灰谷健次郎さんが出てきて……調べれば調べるほど、宝の山に出会うわけ。
いろんな詩人たちが、絵本の仕事をしてる。詩が好きだった僕は、詩人たちが子どもの仕事をしてるっていうのに非常に興味を持ったんだ。きっと、自分の内面を探る詩と、子どものところを書く絵本というのは、矢印が一緒なんだと思う。自分のもとのところを探るっていうことで。そこに共感を覚えて、子どもへの興味が高まったんだよね。
音楽も、複雑なものよりもシンプルなものがいいよね。ビートルズの音楽は、誰でも歌えて、子どもも大人も好きだったけど、やっぱりシンプルだった。シンプルなものっていうのは原点で、そこをつきつめたら「子ども」だなって。
子どもっていうのは、人間の原点、根っこなんだよね。どんな人間も根っこを持っていて、そこは同じ地面でつながっている。その根っこのところでものを書いていれば、すべての人に伝わる、理解してもらえるって信じてる。だからその部分で僕はものをつくっていけばいいって思ってるんだ。保育士、歌、絵本って、全部子どもに通じてるでしょ。だから僕のキーワードは「子ども」なんだよね。
……中川ひろたかさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)