絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『めっきらもっきらどおんどん』でおなじみの絵本作家・長谷川摂子さんです。元・保育士で、4人のお子さんのお母さんでもあり、今も「おはなしくらぶ」で子どもたちに絵本を読み続けている長谷川さんに、絵本の魅力や楽しみ方の極意を伺いました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→)
島根県生まれ。東京外語大学でフランス科を専攻。東京大学大学院哲学科を中退後、公立保育園で保育士として6年間勤務。主な絵本に『めっきらもっきらどおんどん』『きょだいなきょだいな』(絵・ふりやなな)、『クリスマスのふしぎなはこ』(絵・斉藤俊行)、近著に『絵本が目をさますとき』がある(いずれも福音館書店)。現在は「おはなしくらぶ」で、子どもたちと絵本を読んだり、詩やわらべうたを歌ったり、ストーリー・テリングをしたりしている。
※長谷川摂子さんは2011年10月18日にご逝去されました。故人のご功績を偲び、心からご冥福をお祈りいたします。
保育士になりたての頃、私は保育園で子どもと一緒に何を楽しんだらいいのか、わからなかったんですね。何しろ資格だけ取って保育士になったようなものでしたから。それで自分の子ども時代を振り返って、本が好きだったから、絵本なら読めるかもしれないなと思ったんです。
私が絵本を読むのを子どもたちが聞いてくれれば、そこから子どもたちと心がひとつになる時間を持てるかもしれない……そんな期待を抱いて、絵本を手に取りました。
その頃の私は『ぐりとぐら』や『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』(いずれも福音館書店)さえ知らなかったんですが、そういう絵本を読むと、子どもたちはちゃんと聞いてくれたんですよね。それで、あぁ、絵本があれば何とかなるわ!って、心強く思いました。私の保育士としての生活は、絵本なしでは一日たりとも成り立たなかったかもしれません。
保育園に勤めている間に結婚して、子どもが生まれましたから、保育園で絵本を読んで、家でも夜寝る前に読んで……という毎日でした。私には子どもが4人いて、2人までは保育園で働きながら育てたんですが、3人目が生まれると、さすがに体力的につらくなってきて、ギブアップ。保育園を辞めてからは、夫のやっている塾の部屋を使って、週に1回、近所の子どもたちを相手に絵本を読む「おはなしくらぶ」を始めました。
長い間、自分の子どもを含めたくさんの子どもたちに絵本を読んできた中で、常に意識しているのは、子どもがどういう受け取り方をしているか、ということ。 子どもの表情や反応と無関係に自分だけ先に読み進めるってことは絶対にしたくなかったので、子どもと一体になって絵本を楽しむにはどうしたらいいかを考えながら読んでいましたね。
▲長谷川さんの人気絵本『めっきらもっきらどおんどん』(絵・ふりやなな、福音館書店)。主人公の男の子が大声で歌うめちゃくちゃな歌、みなさんならどう歌いますか?
保育園を辞めたあと、ご縁があって児童書の評論を書くようになったんですね。そこで「かがくのとも」の絵本を取り上げたのがきっかけで、絵本をつくりませんかって言われて。だから私が絵本作家になったのは、本当に偶然みたいなものなんですよ。
私は小さい頃からわらべうたが好きで、保育士時代には「わらべうた研究会」というのに入って勉強していました。末の息子が2歳のときには、いろいろと歌の絵本を読んで、一緒に覚えたんですよ。それで、こんなに楽しいなら私も何か歌をつくりたいな、いっそのことリズムと音だけでおもしろい歌ができないかしらって思ったんですね。それでできたのが、「めっきらもっきら」の歌。保育園の送り迎えのとき、自転車の後ろに子どもを乗せて、一緒に歌っていたんですよ。
『めっきらもっきらどおんどん』のお話は、歌とは別につくりました。我が家では夜寝る前、絵本2冊とお話1つというのが日課だったんですね。3歳くらいまでは繰り返しがきくので、同じ話でも飽きずに聞いてくれてたんですけど、4歳になると毎回新しい話をしてくれって言われて、もう本当に大変で……(笑)
その頃、子どもたちがよく押し入れに入って遊んでいたので、押し入れの奥からおばけが飛んでくる話をしたら、とてもおもしろがってね。その話をもとに、舞台を神社に変えて、お話をつくりました。そこに息子と歌っていた歌を入れて、『めっきらもっきらどおんどん』ができあがったんです。
ときどき講演会などで「正しくは、どう歌うんですか?」と聞かれることがあるんですが、特に正解なんてなくて、好きなように歌ってもらえればと思っています。たくさんの家庭で、さまざまな「めっきらもっきら」が歌われていると思うと、なんだか楽しくなりますね。
絵本の読み方のコツは、あなた自身が物語の中に入ること。それが一番だと思っています。子どものために活字を読んでやるというのではなくて、大人自身がその物語を楽しんで、物語の世界に入っていくんです。
たとえば『おおかみと七ひきのこやぎ』を読むとき、読み手である私は、おおかみになったり、こやぎのお母さんになったりして、物語に入り込むんですね。子どもは私の声に耳を傾け、絵をじーっと見ながら、その中に入ってきます。そうすると、私の感情移入が子どもにも反映するんです。子どもは子どもで、こやぎに感情移入していくと思うんですね。子どものそんな心情を感じると、私もそこからまた影響を受けて……いわば絵本を仲介にして、大人と子どもがコミュニケーションをしながら、物語の世界をシェアするわけです。その一体感こそが、読み聞かせのなんともいえない醍醐味ですよね。
大人があまりにも感情を込めて読むと、子どもは自由に感情移入できない、だから淡々と読んだ方がいい、という意見もあるようですが、子どもはそんなこと求めてないと思うんですよ。子どもはやっぱり、こやぎのお母さんやおおかみの声が聞きたいんです。自分でゼロからそのイメージをつくりだすという能力は、小さい頃はまだそれほどないんじゃないかな。だから、親しい人が本の中の登場人物になりきって、子どもがそこにのっていくというのが、一番自然なありようだという気がします。
大人が物語の中に入り込むために必要なのは、自分の好きな本を見つけること。好きな本なら、その世界に入り込みやすいでしょう。片手間で活字を拾って読んでいるようでは、子どもをひきつけることはできないですし、何より自分だって楽しくないはず。物語の中に入っていくと、自然に声に表情が出てくると思います。それができると、子どもにとっても大人にとっても、絵本の時間がよりいっそう楽しくなりますよ。
……長谷川摂子さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)