絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、「くものすおやぶん」シリーズや「みつばちみつひめ」シリーズなど、虫を主役にした絵本で人気の作家・秋山あゆ子さんです。秋山さんの描く愛嬌のある虫たちは、どのようにして生まれたのでしょうか。虫が好きでたまらないという秋山さんに、虫好きになった経緯や虫の魅力、絵本の制作エピソードなどを伺いました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→)
1964年、東京都生まれ。1992年、「月刊ガロ」(青林堂)で漫画家としてデビュー、虫の世界を描いた作品を発表する。主な漫画の作品集に『虫けら様』『こんちゅう稼業』(青林工藝舎)、絵本の作品に『くものすおやぶん とりものちょう』『くものすおやぶん ほとけのさばき』(福音館書店)、『みつばちみつひめ てんやわんやおてつだいの巻』『みつばちみつひめ どどんとなつまつりの巻』(ブロンズ新社)がある。昆虫と古い民家を訪ねるのが好き。
私の一番好きな絵本は、かこさとしさんの『だるまちゃんとてんぐちゃん』(福音館書店)です。子どもの頃から本当に好きで好きで、今もまったく変わらず大好きで、ずっと手元に置いています。
いろんな小物が出てくるページをじっくりと見て、一番のお気に入りはどれかとか、この靴を履いてどこに出かけようかとか、延々と考えてたんですよ。そういう楽しみ方ばかりしていたので、お話の素晴らしさに気づいたのは、大人になってからのことなんです。あのお話は、本当に素晴らしいですよね。あふれるような愛の世界というか……お父さんがとてもいいなぁと。毎回読むたびに、泣いてしまうんですよ。泣くような話じゃないとわかってるんですけど、感動してしまって。
絵が好きでしたから、絵本はたいてい絵で選んでいました。武井武雄さんの絵もすごく好きでしたね。特に気に入っていたのは、『九月姫とウグイス』(岩波書店)。お姫様が死んでしまったオウムを手のひらに乗せているシーンが悲しくて。武井さんの絵からオウムの重みまで伝わってきて、すばらしいなと思いました。
絵を描くのも子どもの頃から好きでした。少女漫画家に憧れていたんですけど、少女漫画っぽい絵が全然描けなくて、その道に進むのは早々にあきらめていたんです。でも、大人になってから虫に興味を持つようになって、虫のおもしろさを何かで表現できないかと思ったとき、やっぱり漫画を描こう、と決めました。自分がやれることは、自分の一番好きなことだと思ったからです。それで出版社に投稿するようになったんです。
▲秋山さんの絵本作家としてのデビュー作『くものすおやぶん とりものちょう』(福音館書店)。愛らしい虫たちの町を舞台にした絵本
虫については、子どもの頃から好きだったわけではないんですよ。興味を持つようになったのは、23歳のときのことです。アルバイトでクモの絵を描くことになって、生まれて初めて昆虫図鑑を開きました。昆虫図鑑は、子どもの頃に買ってもらって持ってはいたんですけど、それまで見たことがなかったんですね。でもクモの絵を描くなら、しっかり見て描かなくちゃと思って。
図鑑を見始めたら、クモの姿かたちの美しさに感動して、どんどん惹きこまれていったんです。それでどんな生き物なのか知りたくなって、クモの本を読むようになり、その生態にさらに惹きつけられました。
クモは、糸を使っていろんなことをするんですよ。クモの巣というと普通、円形の巣を思い浮かべると思うんですけど、調べてみるとものすごい種類があるんですね。たとえばナゲナワグモは、糸を投げ縄のようにしゅっしゅっしゅっと出して虫を捕らえます。ほかにも、穴を掘ってそこに蓋のように巣をつくって、虫がその上を通るとぱたっと落としてしまうクモもいます。巣の形は千差万別で、それこそ職人技。あんなに小さいのに、本当に器用だなと感心してしまいます。
クモに興味を持ったら、今度はそれ以外の虫にも興味が湧いてきて、虫の本を片っ端から読みました。もともとインドア派なので、実物を見に外に出かけることはあまりないんですけど、ベランダに緑を置いて、遊びにくる昆虫を観察しています。山椒の木や蜜柑の木を植えておくと、チョウチョが卵を産みにきてくれるんです。アゲハチョウの幼虫を羽化させて旅立たせるのは、私の毎年の恒例行事になっています。
漫画や絵本で虫の世界を描くようになったのは、クモとの出会いがあったからこそ。クモ以外にも、ミツバチやアリなど、おもしろい生態の昆虫はたくさんいるので、これからも虫の漫画や絵本を描いて、たくさんの方たちに虫の魅力を知ってもらえたらいいなと思っています。
▲時代劇調の話し言葉にも要注目! 『くものすおやぶん ほとけのさばき』(福音館書店)、『みつばちみつひめ てんやわんやおてつだいの巻』(ブロンズ新社)
私は時代劇が好きなので、虫の絵本も昔の設定として描くことが多いです。現代的なファッションよりも、着物を描いている方が楽しいんですよ。
「くものすおやぶん」シリーズは、私が最初に夢中になった虫であるクモを主役に、庶民派の人情ものにしました。「みつばち みつひめ」のシリーズも時代は同じですが、こちらは雰囲気を変えて武家の世界を描いています。色合いも「くものすおやぶん」は渋め、「みつばち みつひめ」はかわいらしい色を選んでいます。それぞれの世界を楽しんでもらえたらうれしいですね。
絵本や漫画の中の虫たちは、かなり擬人化して描いているんですが、どの程度まで擬人化するかについては、実は非常に迷いました。虫たちはとても美しいので、その姿かたちの美しさを描かないのは惜しい。でも全部リアルに描いていくと、ストーリーにしにくいんです。
たとえば、カマキリとチョウチョの話を描きたくても、実際には捕食関係にありますから、仲良しになれるわけないんですよ。そういう話をリアルな絵で描くのは、とても難しいです。ですので、手足を4本にして着物を着せるなど、思い切って擬人化することで、これはリアルな虫の世界ではなくて、あくまでお話の中の世界なんだよ、というつもりで描いています。その上で、好きな部分はリアルに描くようにしているので、そこから虫たちの美しさを感じてもらえたらいいなと思っています。
……秋山あゆ子さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)