絵本作家インタビュー

vol.53 絵本作家 新井洋行さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『れいぞうこ』『おしいれ』などの楽しい作品でおなじみの絵本作家・新井洋行さんです。子どもと遊ぶのが大好き!とおっしゃる新井さんは、2人の女の子のお父さんでもあります。絵本づくりのエピソードのほか、お子さんとの楽しい絵本タイムの様子や、絵本に対する思いをたっぷりと語っていただきました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・新井洋行さん

新井 洋行(あらい ひろゆき)

1974年、東京都生まれ。絵本作家、玩具作家、子どもグッズデザイナー。主な絵本作品に『四字熟語ワンダーランド』(フレーベル館)、『おおごえずかん』『カラフルアニマル』(コクヨS&T)、『しゅっしゅぽっぽ』(教育画劇)、『せかいのこんにちは ―みんなであいさつ―』『あおいちゃんはあおがすき』(幻冬舎エデュケーション)、「あけて・あけてえほん」「あてて・あててえほん」シリーズ(偕成社)などがある。

子どもとの遊びが絵本に

『どっちのてにはいってるか?』

▲人気の手遊びが絵本に!『どっちのてにはいってるか?』(偕成社)

絵本作家として活動し始めたばかりの頃は、自分が子どもの頃に感じてたことを描きだそうという気持ちで絵本をつくっていたんですけど、子育てが転機となって、少しずつ変わってきました。今は、日常生活の中にあることをメインに、読み手の人が笑顔になれるようにと願いながら描いています。

新作の『どっちのてにはいってるか?』は、子どもとの遊びから生まれた絵本です。どちらかの手に何かを隠して、「どっちの手に入ってるか?」って当てる遊び、子どもとよくやるでしょう。それを絵本で、上に開くと手が開くようにして遊べたら、おもしろいぞって思って。

僕はよく、絵本のダミーをつくると娘の保育園で試演させてもらったりするんですけど、この絵本はすごく反応がよかったんですよ。みんなが「こっち!」「こっち!」と目を輝かしながら、当てっこしてくれて。これは喜んでもらえそう!って実感しました。はずしちゃった子の表情がまた、すごくかわいいんですよね。苦笑いとかしちゃって(笑)

お母さんやお父さんにも気に入ってもらえたらうれしいですね。お母さんやお父さんが笑顔で楽しんでいたら、子どももさらに楽しくなると思います。同じ「あてて・あててえほん」シリーズに『どっちにかくれてる?』もあるので、ぜひ一緒に楽しんでください。

夜が楽しみ! 子どもとの絵本タイム

絵本作家・新井洋行さん

僕には5歳と3歳の娘がいて、保育園の送り迎えとか、帰ってからの遊び相手とかは僕が担当しています。子どもと一緒に遊ぶのが好きなので、大変だと感じることはほとんどないですね。できることならずっと一緒にいたいくらい。でも自分には自分のやりたいことや、やるべきことがあるので、日中は保育園に預かってもらって、それ以外で可能な限り子どもと一緒にいろんなことをしたいな、と思っています。

絵本の読み聞かせも僕が担当してます。だいたい寝る前に読みますね。多いときは5冊ずつ選んでもらって、全部で10冊。ちょっと遅くなってしまったときは、2冊ずつ。あと、読み終わったあとに「お話しして」とせがまれるので、ふとんに入って即興でお話をつくって聞かせています。

絵本の読み聞かせは子どものためにやっているようで、実は僕自身、かなり楽しんでるんですよ。『三びきのやぎのがらがらどん』(福音館書店)なんかを読むのは、本当に楽しい。「だれだ、おれの はしを 、かたことかたこと させるのは」とすごむじゃないですか。ああいうシーンでどれだけ盛り上げられるか、声色とか声の大きさを変えたりして、夢中になってがんばっちゃうんです。絵本は子どもが読んでおもしろいってだけのものではなくて、親子で楽しむものだなって実感してます。

あと、ときどき保育士さんに読み聞かせをお願いすることもあるんですけど、子どもと一緒に聞いていると、子ども目線で聞けているような感じがするんです。それがまた楽しくて。

大人になると、絵本を読んでもらうことはあまりないけれど、すごく新鮮ですよ。読む側にいるといつも字ばかりを追っているでしょう。でも聞く側にいると、字は見ずに絵だけを見ていられる。子どもの目線ってこうなのか、と改めて気づくんです。子どもと同じ目線で絵本の世界に入っていけると、絵本がさらに楽しくなりますよ。

絵本は子どもと一緒に何度も遊べるおもちゃ

『しゅっしゅぽっぽ』

▲楽しく遊ぶ赤ちゃんがとってもかわいく描かれた『しゅっしゅぽっぽ』(教育画劇)

うちの娘たちを見ていて気づいたのは、子どもにとって絵本は、“本”や“読み物”というよりも、“おもちゃ”なんだということ。

上の子は3歳ぐらいから、「その本は前に読んだから違う本がいい」って言うようになりましたけど、それ以前は同じ絵本を何度も繰り返し楽しんでいたんですね。それって、本を読んでいるとか、物語を聞いているという感覚ではなくて、鬼ごっこやボール遊びしているのと同じ感覚なんじゃないかと。だから別に同じ絵本でも、気持ちよければ何度でも楽しめちゃうんですよ。

絵本は1冊1000円前後するので、読み物として考えるとちょっと高いなと思ってしまうこともあるかもしれませんが、子どもと一緒に何度も遊べるおもちゃだと考えれば、それほど高い買い物ではないですよね。

だから、3歳くらいまでの子どもにとっての絵本は、“いろんな体験ができるおもしろいおもちゃ”だと考えて与えてあげればいいんじゃないかと思います。もっと言えば、絵本の世界に親子で旅行できちゃう感じでしょうか? それに、何度でも乗れるフリーパスですから、1000円出す価値はあるかもしれません。

3歳を越えると、お話を味わっている様子がかなり伝わってきます。のめり込む力は大人よりきっと強いと思うんですけど、赤ちゃんのときよりも“読んでいる”という意識が強くなってくるので、赤ちゃん絵本のような、感覚で気持ちよくなる絵本がちょっと物足りなくなってくるみたい。親としてはちょっとさびしいような気もするんですが、何がおもしろいのか、何がテーマなのか、ちゃんと理解しているんだなと驚かされます。

はじめは音だけの絵本、次にくまさんが出てくるような絵本とか、一緒に遊べる絵本、そして少しずつお話が長くなって……という感じで、子どもの成長にともなって、興味を持つ本はどんどん変わっていきますけど、子どもと絵本を共有したときの感覚って、忘れないんですよね。成長の記録とともに、あのときこの絵本をこんな風に読んだなと、すごく覚えてるんです。親子の思い出もつくれるから、そういう意味でも絵本っていいなって思います。


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