毎週木曜日は、ママ世代にとっても懐かしい、世代を超えたロングセラー&名作絵本をご紹介します。
今回ご紹介するのは、ユリー・シュルヴィッツさんによる名作『よあけ』。1977年に日本に紹介されたロングセラーです。
静まりかえった夜明け前の湖。そのほとりの木の下に、おじいさんと孫が毛布で寝ています。やがてさざ波が立ち、次第にぼおっともやがこもって、すべてが動きだします…。
簡潔なことばと、暗い青を基調にした絵。実に静かな印象の絵本です。湖のほとりの夜明け前の景色は、まるで水墨画のよう。最小限に抑えられた表現によって、読み手の五感が次第に研ぎ澄まされていきます。そして訪れる夜明け。日の光によって一気に世界に色が戻り、山と湖はひときわ輝いて感じられます。
薄墨のような暗い色は、しかし絵のふちを見ると、ピンクや黄色、明るい水色などさまざまな色が重ねられて産みだされていることがわかります。夜の最も暗い瞬間から夜明け直前までの時間が、暗さのに差よって見事に描かれています。
この絵から東洋的なものを感じるのも、まったく理由のないことではありません。絵本の奥付にはシュルヴィッツさんの経歴と共に、東洋の文芸・芸術に造詣が深く、この作品が唐の詩人柳宗元の詩「漁翁」をモチーフにしたことが書かれています。
作品の世界をより深めているのが、訳詩の素晴らしさでしょう。「やまが くろぐろと しずもる」ということばは、多くの方の記憶に残っているのではないでしょうか。「しずもる」とは、静けさが深まるといった意味。絵本は子どもが読むもの、といった妥協が感じられない文語的なことばによって、より深い表現へといざなわれるのを感じます。
絵本作家の五味太郎さんは、『絵本をよんでみる』(平凡社)の中で、おじいさんがたき火をたくシーンについて「この煙のたち方はほぼ理想的なたき火なんだよね。このたき火をみるだけで、このおじいさんがいかに人生を深く歩んできたか、ということがわかる」と、語っておられます。1ページ1ページがそれぞれに力をもち、積み重なっていく。この絵本の魅力を語って余りあることばだと思います。
<ミーテ会員さんのお声>
『よあけ』に親子そろってはまりました。
色とそこに流れる静かな空気。ページをめくるたびに、絵から伝わる夜明けを感じられて、胸がきゅっとします。
私が何か言ったわけではないのに、息子の方から何度も読んでとせがみます。朝、早起きの子。夜明けの空気を感じていて、絵本の中の夜明けに共感しているのかもしれません。(2歳9か月の男の子のママ)
一見大人向けにも思える絵本。でも描かれた圧倒的な静けさと他の絵本とは違うことば遣いに、ふと手を止める子どもがいるのは確かです。成長の度に感じるものが変わる絵本。折に触れて読んであげてはいかがでしょうか?
無料会員登録後は、過去の「絵本子育て相談室」など、
様々な絵本情報が読み放題!
ぜひミーテにご登録ください♪