みんなの推し絵本!

vol.12 内田也哉子さんの推し絵本

vol.12 内田也哉子さんの推し絵本

内田也哉子さんの写真

vol.12 内田也哉子さんの推し絵本

思い出の一冊、大好きな一冊、渾身の一冊など、とっておきの“推し絵本”を紹介してもらうインタビュー「みんなの推し絵本!」。今回はエッセイストで、アメリカの名作絵本『たいせつなこと』などの翻訳家としてもおなじみの内田也哉子さんにご登場いただきます。

私を原点に立ち戻らせてくれる『たいせつなこと』

子どもの頃は、母(故・樹木希林さん)の方針でおもちゃをまったく与えられずに育ちました。唯一子どもらしいものが、数冊の絵本。特に大切にしていたのは『ストーリーナンバー2 ジョゼットかべをあけてみみであるく』でした。1歳半からインターナショナルスクールに通っていたので、言語のベースは英語と日本語が半々。そんな私が、谷川俊太郎さんが翻訳した言葉を読んで、改めて日本語の響きの美しさ、ひらがなの字の美しさに触れて、静かな衝撃を受けたんです。

その頃から絵本はずっと好きで、初の翻訳絵本になった『たいせつなこと』の原書『The Important Book』も外国の本屋で見つけました。あるインタビューの中で好きな絵本としてその場で訳しながら紹介したら、「素晴らしい絵本だからあなたが翻訳したら」と言われたことがきっかけになりました。絵本はずっと好きだったけれど、まさか自分が絵本に携わることになるとは夢にも思っていなくて。でも、自分が願っていることを言葉にして人に思いを伝えていくと、いつかご縁がつながるんだと感じた出来事です。

この絵本の一番最後のページに「あなたがあなたであること」という手書きの文字が載っていますが、実は書道をたしなんでいた夫(本木雅弘さん)に書いてもらったものです。先日の誕生日に、夫からアクリルスタンドをもらったんですが、そこには原文の「you are you」という文字が刻印してありました。20年以上たった今でも夫婦にとっての大切な思い出であり、私自身も原点に立ち戻れる絵本です。

私には子どもが3人いて、小さい頃は毎晩読み聞かせをしていました。字が読めるようになってからは、私も含めてそれぞれ1冊ずつ選んで、みんなで順番に1ページずつ読むなどしていたんです。時に、私は子育てで一体何をしただろうと思うことがありますが、でも寝る前の絵本の時間は、今でもありありと思い浮かぶそんな幸せな記憶ですね。

また一日の終わりに絵本を読み聞かせていたので、今日あった出来事を一緒に愛でたり、リセットしたり、そんな儀式のような時間にもなっていました。私自身は、本屋に行くとまず絵本コーナーに行きたくなるところがあります。美術館や映画館へ行くのと同じように、絵本という創造性を必要とする感じです。絵本は私にとってそういうものです。

翻訳絵本は、世界に目を向けさせてくれる

最近翻訳した『うみ』は、まず幻想的で、ひょいと別世界に連れてってくれる絵の魅力に衝撃を受けました。また「母なる海」の子どもたちが魚やカメ、ヒトデという設定も楽しいですね。そして文章を読んでいくと驚きます。絵本を読み聞かせながら、ふと「本当は自分のことをしたいのに…」と思う親はたくさんいると思うんです。そういう親の視点で描かれた絵本なのが、ユニークですよね。

子育てのただなかにいると、それが永遠に続くように思ってしまうのだけれど、過ぎてしまうと本当につかの間の出来事だったなと。お話の最後で、自分で本を読めるようになった子どもたちは、親の方に見向きもしません。すてきな成長過程のひとつなんだけれど、親としては「あれだけ疲れていた私の心は…」という切なさもあり、自分の時間ができた喜びもあって複雑です。そういう心の機微が見事に描かれていると思うんです。

『点 きみとぼくはここにいる』は、今まで私が翻訳したものと違ってストレートにメッセージが伝わってくる絵本です。文章で移民問題や貧富の差、差別など、世界が今抱えている問題を潔く伝えていて、同時に点の存在だけで視覚的にわかりやすく見せるすごいフォルムの絵本だなと。

これこそ、小さい子どもたちに読んでもらえたらと思います。人間って人と人との間に見えない線をつくってしまうところがあるんだよねと、まず俯瞰させてくれるのがすごい。その認識があって初めて、じゃあどうやったらみんなが気持ちよくこの世界を共有できるのかと考え始められると思うんです。その問題提起を、楽しく、視覚的に伝えてくれます。

翻訳絵本自体も、世界にはいろんな人がいてみんな違うこと、違うけれど根本は同じだということを教えてくれますよね。言葉の端々や登場するものから、異国情緒がにおいたつというか。身近なものから世界のことに目を向けたら、きっと子どもたちの人生はさらに豊かになると思います。

「こうあるべき」と考えすぎず、自分の「楽しい」を大切にして

以前、谷川俊太郎さんと対談した時に、子どもには万遍なく読ませたいけれど、私自身が好きな絵本は偏っていて…とお話ししたことがあります。そうしたら「親の独断と偏見で、自分の好きなものだけ読ませていればいい」って。子どもはそれをぶち壊すほどの自我があって、与えたものですべてが決まるほど子どもは小さくない、同時に「これが好き」というのはひとりの人間であるあなたの個性だから、とおっしゃってくださったんです。

お母さん・お父さんも、自分が楽しいと思える絵本を選んでいいし、読み聞かせはこうでなくてはと考えすぎないでいいとお伝えしたいです。日々の子育ては果てしないようだけれど、子どもたちはあっという間に『うみ』と同じように親離れするんですよね。でも「あんなに自分の時間がなかった私が、今、一冊の本を読み終えようとしている!」と、その対比も面白がりながら、子育てしていかれたらいいですね。

ミーテ プレゼント情報

うみ

インタビューの中でご紹介した絵本『うみ』3冊に直筆サインを入れていただきました!ミーテ会員3名様に抽選でプレゼントします。

※ミーテ会員登録がまだの方は、登録後、ご応募ください。会員登録はこちら

プレゼントの応募は締め切りました。当選者の発表は、賞品の発送をもってかえさせていただきます。

応募期間
3月28日(火)~4月10日(月)

プロフィール

内田也哉子さん

内田 也哉子(うちだ ややこ)

1976年、東京都生まれ。エッセイ執筆を中心に、翻訳、作詞、ナレーションのほか、音楽ユニットsighboatでも活動。三児の母。著書に『新装版 ペーパームービー』(朝日出版社)、絵本『BROOCH』、母・樹木希林との共著に『9月1日 母からのバトン』(ポプラ社)。翻訳絵本に『たいせつなこと』、『岸辺のふたり』、『点 きみとぼくはここにいる』、『うみ』など。


ページトップへ