スペシャルインタビュー

東海大・馬渕悟教授 スペシャルインタビュー

今回のインタビューにご登場いただくのは、東海大学 国際文化学部地域創造学科教授 馬渕悟先生です。文化人類学を研究しながら、2001年から国際デジタル絵本学会を設立し、100作以上の民話をインターネット上で公開しています。CGではなく手描きの絵にこだわるデジタル絵本の魅力とは? 絵本が子どもに与える影響とは? 今後、デジタル絵本でどのような活動を考えているのかもお聞きしました。

馬渕 悟(まぶち さとる)

馬渕 悟(まぶち さとる)

1948年生まれ、慶應義塾大学―東京都立大学社会学研究科卒。東海大学国際文化学部教授。地域社会の文化人類学的研究が専門。台湾インドネシア系先住民の文化調査をはじめ、北海道内市町村の文化調査なども手がけ、文化から見た北海道の開発や活性化の研究も行う。2001年に国際デジタル絵本学会を設立し、会長をつとめる。
デジタル絵本サイト http://www.e-hon.jp/

離れた子どもたちに、いつでも見られる絵本を届けたい。そんな思いが出発点

――最初に、デジタル絵本をはじめたきっかけを教えてください。

私は札幌に住んでいますが、子どもたちが京都の大学に行くことになりまして。
そこで、家内が離れている子どもたちに、小さい頃の思い出を伝えたいと、近所にいたのらねこを主人公にした『きけんねこドンゴロス』という絵本を作りました。その絵本をデジタル絵本にしてインターネットで公開すれば、遠く離れている子どもにも、いつでも見てもらえるんじゃないかと思ったのがはじまりでした。

ですが、残念ながら子どもたちは見てくれなかったようです(笑) だけど、それをネットで見た私の友だちなど、まわりがおもしろがって、「デジタル絵本という形なら、世界中で民話を伝えられるんじゃないか」という話になったのが、国際デジタル絵本学会の出発点なのです。

私は子どもの頃から日本の民話が好きで、記憶している話を片っ端からデジタル絵本にしていきました。海外の民話はそれぞれの地域の専門家に頼んで寄せてもらい、現在は世界各国の民話を100作品以上紹介し、各国語に翻訳して発信しています。日本語と英語の音声が出るデジタル絵本も公開しています。
読み聞かせをはじめ、海外の方からも「日本文化の紹介に使わせて」と言われたり、日本語教育に使われたり、色んな形で使ってもらっています。

――奥様がお子さんのために作った、個人的な絵本が出発点になって、世界的な活動に広がっていった訳ですね。

そうですね。最初は2年ぐらいでやめるはずでしたが(笑)、もう12年目になります。デジタル絵本を使って、日本の文化を世界に伝えるものとしても、逆に世界の文化を日本に持ち帰るとしても、正しい文化を伝えたいという思いがあります。

例えばニューギニアの民話を公開していますが、この話ひとつ公開するにしても、色とか綿密なチェックをしているんです。部族や種族によって、同じ「腰みの」でも色や形が違うし、とうもろこしの色ひとつでも、日本人の我々からすると黄色しかないと思っているけど、現地の人から見れば「とうもろこしはこんな色じゃないよ」とチェックが入るんです。そういう具体的な文化や歴史考証も、きちんとしたいという考えでやっています。

CGにはない、静止画ならではのあたたかさにこだわり

――デジタル絵本と、市販されている絵本の、いちばんの違いはどのようなところだとお考えですか?

製本された絵本は、芸術作品です。書店に並ぶまでに、絵もお話もプロの方が考え、時間も人の手も掛かっています。しかしデジタル絵本はそうではなく、伝えたい話を残すためのツールのひとつです。私たちの場合は絵も一般の方にお願いして描いてもらっています。

当初から、デジタル絵本ではあるけど、あたたかい手描きの絵柄にこだわって、CGはダメだと決めていました。タブレットやスマートフォンで、気軽に親子いっしょにデジタル絵本を見てもらえるので、これがきっかけになって、子どもが操作を覚えたり、自然とパソコンに慣れたりするだろうと考えています。だからこそ、あくまで手描きならではの、ぬくもりを伝える絵が大きなポイントだと考えています。

またデジタルだと、例えば猫のしっぽとかを動かしたくなりますが、静止画のみと決めています。なぜなら、子どもが自分で動かして欲しいと思っているからです。動いていない絵だからこそ、子どもは想像力を使って、自分で動かそうとするんですよね。

そういった意味では、子どもの想像力というのはすごくおもしろい。『きけんねこドンゴロス』を、あちこちで読み聞かせした時、どこの町行っても「あ、その猫見たことある」と言うんですよ(笑) 「この前、あの道歩いてた」とかね。絵本を見て、読むことによって想像力が広がっていくんでしょうね。

――デジタル絵本の魅力はどのような点にあると思いますか?

デジタル絵本は、誰でも自分の思いを作品にして伝えることができる道具、コミュニケーションツールなんです。出来上がった絵本を、親子で読み聞かせして楽しんでもらうのもいいけど、親子でデジタル絵本を作るというのも、子どもとコミュニケーションが生まれるし、今後増えていくといいと思っています。実際、この活動をしているうちに、お母さんたちが、「自分たちも作りたい」「自分で作った創作の話をデジタル絵本にしたい」と言ってきてくれて、サイトで公開もしています。

デジタル絵本という形で、各地の民話を残していきたい

馬渕悟さん

――今後、デジタル絵本を通してどのような活動をしていこうとお考えですか?

「デジタル絵本は伝える道具」として考えると、私が今いちばんやりたいのは被災地の避難地域の民話を、デジタル絵本にして残しておいてあげたいということです。みなさんバラバラに色んな地域に避難しているので、民話が残らなくなってしまう恐れがあるので。あとは障がい者で絵の上手い子たちの発表の場にもしたい。『さるじぞう』という民話を高校生の障がい者の方に描いてもらったけど、とてもあたたかい良い絵を描くんですよ。ぜひ、見てもらいたいです。

――昔から伝わる地域の民話は、住んでいる子どもたちでも知らないという子が増えているようですね

そうですね。前に新潟県の糸魚川の小学生が、地域のお年寄りに地域の民話を聞いて、デジタル絵本化したいという話があって、お手伝いをしたことがあります。子どもたちは知らない話で、お地蔵さんの話なんだけど、そもそもなんでお地蔵さんをみんな拝んでいるのか知らなかったという子ばかりだったんです。お年寄りと膝を突き合わせながらお話を作って、上手い下手も関係なく絵を描いていくという、世代間交流がすごくおもしろかったですね。最終的には老人会で子どもたちが読み聞かせした訳ですよ。
子どもなりに工夫をしてくれて、感動しましたね。お年寄りも感謝してくれました。

その時、小学生たちが「これって、世界中に発信されるんですか!?」って驚いていました。自分の絵が世界中に発信されるというのが、ものすごくびっくりするんですよね。イメージがなかなかつかめないだろうけど、世界中の人に見られると思うと、ちゃんとしたものを作ろうという責任が出てくる。そのうちに次のステップに広がって、英語を勉強しようかなと思うかもしれない。どんどん可能性が広がると思います。
自分が作ったものが世界に繋がるということは、素晴らしいことです。デジタル絵本を、コミュニケーションツールとして色んな方に活用してもらいたい、もっと広がって欲しいと思っています。

▼読み聞かせ絵本アプリ「よみあげ絵本」(国際絵本デジタル学会)はこちら
Android:http://bit.ly/10l8WAG
iOS:https://itunes.apple.com/jp/app/yomiage-hui-ben/id567653379

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