スペシャルインタビュー

「メルヘンハウス」代表・三輪哲さんスペシャルインタビュー

今回のインタビューにご登場いただくのは、子どもの本の専門店「メルヘンハウス」代表・三輪哲さんです。三輪さんがメルヘンハウスをオープンさせたのは1973年。当時、日本にはまだ子どもの本の専門店は存在しませんでした。日本初となる子どもの本の専門店を設立された経緯や、長年のご経験から感じられた絵本の魅力、絵本への熱い思いなど、たっぷりと伺いました。

子どもの本の専門店「メルヘンハウス」代表・三輪哲さん

三輪 哲(みわ てつ)

1944年、静岡県生まれ。南山大学経済学部経済学科卒業。機械関係商社勤務を経て、1970年、子どもの本の勉強のため渡米。1973年に日本初となる子どもの本専門店「メルヘンハウス」を名古屋でスタートさせる。現在、株式会社メルヘンハウス代表取締役、日本児童図書評議会(JBBY)会員、日本子どもの本研究会会員、子どもの本「WAVEの会」会員として活動。絵本作家との親交も深い。
子どもの本の専門店 メルヘンハウス http://www.meruhenhouse.co.jp/

絵本の本当のおもしろさは、子どもが教えてくれた

『おまえうまそうだな』

▲メルヘンハウスの店内。選び抜かれた絵本や童話、常時3万冊がそろう

※三輪哲さんは2023年6月26日にご逝去されました。故人のご功績を偲び、心からご冥福をお祈りいたします。

僕はもともと絵が好きで、自分でも趣味で描いてたんですけど、あるとき一冊の絵本と出会ったんですね。チャールズ・キーピングの『ジョセフのにわ』という絵本です。 絶版で今ではもう手に入らないのですが、とても芸術性の高くて、衝撃を受けました。これが子どもの本なのか、と。

それを機に絵本を集めるようになったんですが、本屋に行ってもほしい絵本がない。店頭にあるのは売れるもの―― 昨日テレビでやってて今日絵本になりました、みたいなものばかりで、僕が読みたい絵本は注文して何週間も待たないといけなかった。これでは子どもはいい本とめぐり会えないんじゃないか……その頃から、そんな思いをずっと抱えていたんです。

大学卒業後は商社に就職したんですが、その思いがどうしてもひっかかって、4年で退職。アメリカに渡って2年間、自分なりに子どもの本の勉強をしてきました。そして帰国後、子どもの本の専門店「メルヘンハウス」をオープンしたんです。1973年のことでした。

採算なんて考えずに勢いで始めてしまったので、はじめは本当に大変でしたよ。でも、やめようと思ったことはありませんでした。楽しさの方が強かったから。何が楽しいかって、子どもですよ。子どもが絵本の本当のおもしろさを教えてくれるんです。

たとえば、『しろくまちゃんのほっとけーき』(こぐま社)。「ぽたあん どろどろ ぴちぴちぴち ぷつぷつ やけたかな?」……それを見て、本をなめる子がいるんですよ。絵本の中のホットケーキをひとつひとつ、印刷がはげちゃうぐらいになめるんです。そんなこと、大人は想像もつかないですよね。

子どもの本の店をやっていると、そういうことが毎日のように、ドラマとしてあるんです。そのおもしろさがあったから、やめられなかったんでしょうね。オープンから38年。赤ちゃんとして来ていた子が、今はお父さんお母さんになって、自分の子どもを連れてくるようになりました。

絵本は日常から非日常へと旅するためのパスポート

子どもの本の専門店「メルヘンハウス」代表・三輪哲さん

絵本を開くと、そこには非日常の世界が広がっています。閉じればまた日常に戻ってくる。子どもたちはそうやって、日常と非日常を行き来するんですね。絵本はそのためのパスポートなんです。

お話の世界へは、子ども一人で行くわけではありません。読んでくれる人と一緒に行くんです。絵本というパスポートを持って、一緒に向こうへ行こうよ、向こうで一緒に楽しもうよ―― それが、絵本の読み聞かせに耳を傾ける子どもたちの願い。だから、読み聞かせをするときは「してあげる」ではよくないんですね。「楽しみを共有する」という意味での読み聞かせでないといけないと思うんですよ。

「私は上手に読めないから…」なんて、気にすることは何もありません。読み聞かせで大切なのは、テクニックではなくてハートだから。すらすらと上手に読むよりも心を込めて読む方が、子どもの心に響きます。そのためには、子どもと一緒に絵本の世界に入り込んで楽しむ、それが一番だと思います。

読み聞かせはいつから始めるべきか?という質問をされることもありますが、おなかに赤ちゃんができたら、もう絵本の読み聞かせを始めていいんじゃないかと僕は思っています。

うちの店の出産経験のある女性たちから聞いたんですけど、妊娠中、おなかに手を置いて絵本を読んでやると、暴れてた子が静かになるらしいんですよ。おなかの中でも、赤ちゃんはちゃんと音を聞いてるんですね。だから、2歳や3歳まで待つ必要なんてない。赤ちゃんがおなかにいるうちから、親子の絵本の時間を楽しんでほしいですね。

一人でも多くの子どもに読書の喜びを味わってほしい

子どもの本の専門店「メルヘンハウス」おはなし玉手箱の様子

▲毎週土曜・日曜の2回、店内で開催されている絵本の読み聞かせ会「おはなし玉手箱」の様子

大人が読ませたい本と、子どもが読みたい本。これはなかなか一致しないんですよね。「これにする!」「いいえ、違うのにしなさい!!」って、毎日のようにレジの前で引っ張り合いがあるんです(苦笑)

「この本は何回も図書館で借りて読んだんだから、もういいでしょう?」というお母さんがいるけれど、子どもとしては、何度も読んでその本の良さがわかったからこそ、自分のものにしたいんですよ。

いろんな絵本をできるだけバランスよく読ませいという親の気持ちもわかるけれど、大人だってそのときどきで、読みたい本の傾向とか、好きな作家とかがいたりするでしょう? それは子どもだって同じ。だから、子どもがそのときどきで一番読みたいと思うものを選ばせてやってほしいですね。

今、1年に生まれる子どもの数は100万ちょっとですよね。その子どもたち全員に読書の喜びを味わってほしい、それが僕の願いです。高価なおもちゃと比べたら、絵本はたかだか1000円程度。しかも何回も楽しめるじゃないですか。でもその楽しさを知らない子どもたちが、日本にはまだごまんといるんです。

地域によっては、本屋がひとつもないところもあります。そういう地域にも子どもはいるんだから、その子たちになんとか本を届けられないか―― そんな思いで始めたのが、子どもの年齢にあった絵本を毎月届ける「ブッククラブ」というサービスです。30年ほど前から始めました。店内で絵本の読み聞かせをする「おはなし玉手箱」も、開店当初、まだ「読み聞かせ」という言葉がなかった頃から続けています。

昔と比べれば、絵本の読み聞かせはかなり注目されているとは思いますが、実際にやっている家庭はまだごくわずかだという気がしています。まだしっかり根付いていないから、注目されるんだと思うんですよ。でも、もっとたくさんの家庭で、読書が当たり前の習慣として根付いていってほしい。これからも、そのための機会づくりを続けていきたいと思っています。

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