絵本作家インタビュー

vol.49 絵本作家 西村敏雄さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、第3回「書店員が選ぶ絵本大賞」大賞などを受賞した人気作『バルバルさん』や、大型絵本にもなった『もりのおふろ』などでおなじみの絵本作家・西村敏雄さんです。西村さんの絵本に登場する人や動物は、ちょっぴり間抜けでとってもユーモラス。ほのぼのとした作風がどのように生まれたのか、伺ってきました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・西村敏雄さん

西村 敏雄(にしむら としお)

1964年、愛知県生まれ。東京造形大学デザイン科卒業後、インテリアのテキスタイルデザイナーを経て、絵本作家に。第1回日本童画大賞最優秀賞受賞。主な作品に『バルバルさん』(文・乾栄里子)、『もりのおふろ』『どうぶつサーカスはじまるよ』(以上、福音館書店)、『ぼくは孫』(文・板橋雅弘、岩崎書店)、『どろぼう だっそう だいさくせん!』(文・穂高順也、偕成社)、『たいようまつり』(文・風木一人、イーストプレス)、『うんこ!』(文・サトシン、文溪堂)などがある。

お寺の言葉から発想『もりのおふろ』

もりのおふろ

▲動物たちが輪になって、ごしごししゅっしゅっ! 楽しいお風呂絵本『もりのおふろ』(福音館書店)

お寺の入り口によく“今月の言葉”が掲示されているでしょう。あるときそこに、「生きとし生けるものは、一つの環(わ)の中にある」って言葉があったんです。生き物は、強いものも弱いものも一つの循環の中にある―― なるほど確かにそうだな、と思いをめぐらすうちに、動物たちがぐるーっと輪になったイメージが浮かんできました。真ん中に焚き火か何かがあって、そのまわりを動物たちが踊っているのか、練り歩いているのか……そういう絵本のイメージの断片が、ぱっと思い浮かんだんです。

火を真ん中に踊るっていうのは違うな、とかいろいろ考えているうちに、なんとなくお風呂がいいなと思いつきました。そこから、お風呂を中心にして、動物たちが背中を洗いあいながら、ぐるーっと輪になっているという最後のページのビジュアルが決まったんです。あとは、そのエンディングにもっていくために、一人ずつ順番に登場するように逆戻りで考えていきました。

僕の場合、「お風呂の絵本をつくろう」とか「サーカスの絵本をつくろう」という感じで絵本をつくることはないんです。一番おもしろいシーンが最初に思い浮かんで、そのシーンを描くためにはどういうシチュエーションにしたらいいのかな、と考えていくことが多いですね。

10回でも20回でも楽しめる絵本を目指して

『うんこ!』

▲うんこくん一世一代の大冒険を描く『うんこ!』(文溪堂)。文は“おてて絵本”のサトシンさん。

『うんこ!』は、新しいうんこのスタンダード絵本にしたいなと思いながら描きました。形は最初、うずまき型だとベタすぎるなと思って、棒状のうんこを描いていたんですよ。でも、このままでいいのかなぁと、ちょっと迷いがあって……結局翌朝、やっぱりこっちが王道だなと思い直して、この形に変えたんです。

気をつけたのは、不潔な感じにならないようにすること。表紙に描かれているのがあまりにもリアルに汚いうんこだと、読者に申し訳ない。かといって、きれいなブラウン一色とかだと、ちょっと無機的になってしまう。そのあたりのさじ加減を考えながら、チャーミングなうんこを目指して描きました。

この『うんこ!』みたいに、テキスト自体がおもしろい絵本の場合、絵をどの程度のはじけ方で描くかっていうのは、難しいところですね。つくり手が「ほら、おもしろいだろう!?」という感じで、これでもかこれでもかと極端にデフォルメして描いたりすると、1回目はインパクト強いんですけど、2回目、3回目……と何度も読んだとき、飽きちゃうと思うんですよ。絵本って、1回読んだらもう読まないってものじゃないでしょう。だから、10回読んでも20回読んでも楽しんでもらえるのはどのくらいだろう、と考えながら描いていきます。

『うんこ!』に出てくるねずみやうさぎも、最初はもっとオーバーな表情やアクションで、風景も歪むくらいに極端なところからイメージするんですけど、そこからどんどんそぎ落としていくんですね。どのあたりで止めるかは、勘が頼りです。終わったあとに、やっぱりもっとこうすればよかったなぁ、なんてくよくよしちゃうこともあるんですけどね(笑)

絵本も子育てもユーモアを大切に!

絵本作家・西村敏雄さん

僕の絵本づくりのキーワードは「ユーモア」です。笑いって、生きる力になると思うんですよ。大人になればなるほど実感すると思うんですけど、生きていると、楽しいことばかりじゃないでしょう。悲しいこと、つらいこともあれば、イラッとすることもある。でもそういう負の感情をちょっと脇に置いといて、一瞬笑ってみる。悲しい現実も、ちょっとしたユーモアで乗り越えて、明日もがんばろうって思えたらいいですよね。そんな悲しみのもうひとつ先にある笑いを、絵本で描いていけたらいいなと思っています。

子育てについても、ユーモアって大切だと思うんです。いろんな情報に惑わされて目先の結果ばかり追っていると、しんどくなっちゃうでしょう。人は子どもが生まれて初めて親になるわけで、その後も初めての1歳、初めての2歳、初めての3歳……と初めての連続。初めての経験には、失敗はつきものですからね。失敗することもどこかで楽しんじゃうくらいの感じがいいんじゃないかなと思います。

絵本を読むときも、楽しく読むのが一番ですよね。子どもは親の表情をよく見てるので、嫌々読んでいるとばれちゃいますから。嫌なら読まない。読むなら楽しく読む。読み方は、好きなように読めばいいと思います。きちんと一語一句間違えないで読むことが自分らしいと思うのであればそんな風に読めばいいし、文章が長ければ全部読まなくたっていい。何事も「~ねばならない」と型にはまってると息苦しくなりますからね。

子どもにとっては、母親や父親が、自分のために一生懸命絵本を読んでくれている、その行為自体が何よりも素敵なこと。極端な話、読んであげてさえいれば、どんな絵本だっていいんです。どんなお話だったか忘れてしまったとしても、小さい頃にお母さんが自分の横で眠そうな顔をしながらも絵本を読んでくれたっていう記憶は、エネルギーの源になると思いますよ。


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