絵本作家インタビュー

vol.34 絵本作家 国松エリカさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、わがままだけど憎めないブタの男の子が主人公の絵本「フンガくん」シリーズでおなじみの、国松エリカさんです。フンガくんの言動に「うちの子と同じ!」と共感したことのある方も多いのでは? 絵本作家になられた経緯やフンガくん誕生エピソード、絵本に対する思いなど、お話しいただきました。
今回は【後編】をお届けします。 (←【前編】はこちら

絵本作家・国松エリカさん

国松 エリカ(くにまつ・えりか)

1962年、大阪府生まれ。デザイナーを経て絵本作家、イラストレーターに。絵本のワークショップ「あとさき塾」一期生。1993年、『ラージャのカレー』(偕成社)で絵本作家デビュー。主な作品に「フンガくん」シリーズ(小学館)、「ポーラーちゃん」シリーズ、「ガーコちゃん」シリーズ、『たぬきいっかのはらぺこ横丁』(以上学研)、『うりぼうのごちそうさがし』(佼成出版社)などがある。

ポップな色で描く昭和の風景

フンガくん

▲ポップな色づかいにも注目!『フンガくん』(小学館)

遠くに行かなくても、かわいいもの、きれいなものはある―― そんな思いから、「フンガくん」シリーズでは、ごく普通の、日常の風景を描いています。たとえば、畳の部屋。普通すぎてかわいいものではないんですけど、それをあえてかわいく描けないものかなと思ったんですね。それで、実際の色は無視して、畳を黄色に、箪笥を真っ赤に、こたつの天板を真っ青にと、日本家具をおもちゃっぽく描きました。

昭和っぽい風景にしているのは、子どもだけでなく、お母さんたちにも楽しんでほしいから。子どもにとってみればこれは何?っていうようなものも、あえて描いてるんですけど、そういうのはお母さんが子どもに説明してくれればいいなって思ってます。

絵を描くために、取材に出かけることもあるんですよ。ブタの狛犬を描くときには神社に行きましたし、電車を描くときは、自分も電車の一番前に乗って、運転席をスケッチしました。写真などの資料に頼ることもあるんですけど、基本的には現物を見て描くのが一番ですね。写真だと、カメラマンが見た視点で撮られてますから、なるべく自分で見るようにして、自分の視点で描くようにしています。

あと、気付いていない方も多いと思うんですけど、「フンガくん」シリーズには、どこかに長谷川義史さんの『パンやのろくちゃん』のろくちゃんを描いてるんですよ。同じ小学館の「おひさま」という月刊誌に連載してるんですけど、長谷川さんが最初に『パンやのろくちゃん』にフンガくんを描き始められて……そうなったら、こっちも描かなあかんなぁってなって(笑) 『パンやのろくちゃん』が始まってからなので、「フンガくん」シリーズの途中からなんですけど、子どもが探して「あった!」って見つけられるかどうかっていうくらいの感じで、潜ませてあります。よかったら見てみてくださいね。

絵本の中のお母さん・お父さん

たぬきいっかのはらぺこ横丁

▲昭和30年代を舞台に、家族の情景をユーモラスに描いた物語『たぬきいっかのはらぺこ横丁』(学研)

『たぬきいっかのはらぺこ横丁』に出てくるおっちょこちょいの父ちゃん、実はうちの父がモデルなんです。毎回、食べ物をめぐって騒動が起こるというお話なんですけどね。うちの父は、食事のときに機嫌を悪くすることが多くて……楽しいはずの食事が、父のせいで台無しになるってことがよくあったんですよ(笑) 食卓を囲むっていうのはどこの家庭でもあることなので、食事のシーンをメインに描きました。

「フンガくん」シリーズでも、『たぬきいっかのはらぺこ横丁』でも、お母さんはしっかり者として描いてます。このお母さん像は、母そのものっていうわけではないんですけど、思い返してみると、フンガくんやたぬきいっかのお母さんのように、うちの母もわりとどーんと構えている方でしたね。転んで泣いていても、「どうしたの?」と心配するんじゃなくて、「なめとけば治る!」みたいな(笑) あと、亡くなった祖母のイメージも入っているかもしれません。私はそのおばあちゃんが大好きだったんです。とてもおおらかな人だったんですよ。

ときどき、フンガくんのお母さんのようになれたらいいんですけどって感想をいただくんですけれども、そんな風にプレッシャーを感じないでほしいなぁと思っています。フンガくんのお母さんを、理想のお母さんとして描いているわけではないので。フンガくんのお母さんも、あくまで一人のお母さん。これを読んで、あぁ、そういう風に言ってあげるのもいいかもな、というくらいに受け止めて、気持ちを楽にしてもらえたら、それが一番うれしいですね。

長く愛される絵本をつくっていきたい

絵本作家・国松エリカさん

絵本は読んで聞かせるものなので、文章をつくるときは、必ず声に出して読んでいます。声に出して読んでみると、句読点の位置を変えた方がいいなとか、この言葉だとちょっと難しいかなとか、わかるんですよ。強く読んでほしいって思うところは、文字のサイズを少し大きめにと指定することもあります。

でも家で読むときは、ただもうのびのびと読んでもらえたらいいなと思ってます。あまり型にはまって、読み聞かせしなくちゃ、みたいな感じだと、しんどくなるのではと思います。お母さんが読みたいものを楽しく読まれ、それがお母さん自身にとっても息抜きになれば、それが何よりかなぁと思います。

絵本って、本当に一生懸命、ひとつひとつ丁寧につくられているものなんですね。だから、自分の絵本じゃなくても、すごく愛おしく感じます。そういうものを、ひざの上に乗せて気軽に楽しめるって、すごくいいなと思うんです。

ただ私の場合、他の人の絵本はまめにチェックしたりしないようにしてるんです。編集者や評論家ではないので、出会いも運のうちと思って、一人の読者として楽しむようにしています。素敵な絵本との出会いは、素敵な人との出会いに似て、ワクワクドキドキするものなんです。ですから次々せかせかと資料としてチェックする、というのが嫌なんです。描き手としては、優れた絵本にある高揚感や中身の濃さに影響を受けてつくるっていうのが、大事かなと思っています。

もともと、消費されないものを目指したいっていう気持ちがあって始めた仕事なので、市場原理みたいなものに乗っからずに、長く愛される絵本をつくっていきたいなと思っています。


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