絵本作家インタビュー

vol.29 絵本作家 間瀬なおかたさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、『でんしゃでいこう でんしゃでかえろう』をはじめとする「のりものしかけ絵本」シリーズの絵本が人気の作家・間瀬なおかたさんにご登場いただきます。昔から電車での旅が好きだったという間瀬さん。絵本作家になられたきっかけや、間瀬さんの絵本をよりいっそう楽しむための見どころポイントなどを伺いました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・間瀬 なおかたさん

間瀬 なおかた(ませ・なおかた)

愛知県生まれ。法政大学文学部卒業。日本児童出版美術家連盟会員。主な作品に『でんしゃでいこう でんしゃでかえろう』『あめのひのえんそく』『ドライブにいこう』『バスでおでかけ』などの「のりものしかけ絵本」シリーズ(いずれもひさかたチャイルド)、『あらしとたたかったねこのチビ』(ポプラ社)、『のねずみくんのすてきなマフラー』(フレーベル館)、『アヒルのぼうけん かわのたび』(岩崎書店)などがある。

ある一冊との出会いから、絵本の世界へ

絵本作家・間瀬 なおかたさん

僕は子どもの頃から漫画が好きで、漫画家を目指してたんです。高校生の頃は、車の雑誌の一コマ漫画のコーナーによく投稿していました。毎回載せてもらえるようになって、そのうち読者投稿欄じゃなくて別のコーナーの扉絵として使ってもらえるようになって。微々たるものですけど、原稿料ももらってね。それで、自分の作品が本に載る快感みたいなものに目覚めまして。

学生時代は漫画研究会に入って、漫画を描いては編集部に持ち込んだりしていました。僕はわりと童話っぽい、ほのぼのとした絵の一コマ漫画を描いていたんですけど、当時は劇画がブームになってきた頃だったので、持ち込んでもなかなかうまくいかなくて。でも、絵の路線はすぐには変えられないので、とりあえず一コマ漫画ではなくてストーリー漫画を描くことにしたんです。

ストーリーづくりの参考にと、漫画以外に絵本も見ていたんですが、あるとき『かたあしダチョウのエルフ』という絵本に出会って、感動しまして……版画の力強さにも惹かれましたし、ストーリーもよかったですし、何より絵とストーリーがマッチしてひとつの世界をつくりあげているというのが、すごくいいなぁと。こんな絵本を描いてみたい!と思ったんです。これが僕にとっての絵本との出会いですね。

とはいっても、どうしたら絵本作家になれるかもわからなかったので、その後は童画展に応募したり、雑誌『詩とメルヘン』に投稿したりしていたんですが、20代後半になってもいっこうに芽が出ませんでした。それでいったんは絵本作家になるという夢をあきらめて、小さな出版社に就職したんです。でもそこで、小説家を目指していた後輩が編集者を紹介してくれて、童話の挿絵を描く機会に恵まれて。それをきっかけに、絵本の世界に入っていきました。専門的な絵の勉強をしたわけでもないので、絵本作家になれたのは運がよかったからじゃないかなと思っています。

昔の旅の思い出が、絵本の中の風景に

絵本作家・間瀬 なおかたさん

高校時代から一人旅が好きで、アルバイトでお金をためては旅にでかけていました。初めて一人旅で行ったのは、伊豆大島です。島はおもしろいなと思って、次は隠岐諸島に行きました。大学生になってからは、北海道の礼文島にも行きましたね。貧乏旅行ですから、たいていは周遊券を買っていました。周遊券なら普通列車は乗り放題ですし、夜行列車に乗れば宿泊費もかかりませんから。

風景を描くにあたって、取材に行かれるんですかってよく聞かれるんですけど、僕の場合、取材には滅多に行かないんです。ほとんどはまったくのイメージでつくりあげるんですよ。昔、旅行に出かけたときに見たいい景色が記憶の中に残っているので、それらのイメージを組み立てて描いていくような感じですね。だから、取材を目的に旅行はしないけど、家族で旅行するときなんかも、景色をよく眺めていたりします。

ただ、『でんしゃでいこう でんしゃでかえろう』の最後の海の駅、実はあれだけはモデルがあるんです。あれは僕の故郷にある、武豊線の亀崎という駅なんですけどね、日本最古の現役木造駅舎として、マニアにはちょっと有名な駅なんですよ。高校の通学のときとかに使っていたので、あの駅を描くときも特に取材に戻ったりはせず、記憶を呼び起こして描きました。

絵本はお話だけでなく、背景まで楽しんで

『でんしゃでいこう でんしゃでかえろう』

▲山の駅から、海の駅へ。次々に景色が変わる様子を楽しめる絵本『でんしゃでいこう でんしゃでかえろう』( ひさかたチャイルド)

去年、「のりものしかけ絵本」シリーズの新作として、『パノラマえほん でんしゃのたび ― やまからうみへ』を出版しました。『でんしゃでいこう でんしゃでかえろう』から7年ぶりにつくった絵本なので、電車の乗客も同じ人たちの7年後を描いたんです。見比べてもらえるとわかりますよ。赤ちゃんが大きくなっていたり、子どもが増えていたり……おじいさん、おばあさんはどちらも健在ですけどね(笑)

電車には僕も乗っているんです。『でんしゃでいこう でんしゃでかえろう』のときはひげがあるんですけど、『パノラマえほん でんしゃのたび』ではひげがなくなって、帽子をかぶっています。最近はいつもこういう帽子をかぶっているもので。

あと、「のりものしかけ絵本」シリーズはどの作品にも、僕の愛車を登場させています。キャビンのところが白、下がブルーグレーの、日産フィガロという車なんですけどね、もう18年も乗っててボロボロになってきてるんですけど、毎回作品に載せてることもあって、なかなか手放せなくなってしまって(笑) このことはときどき読み聞かせ会なんかで話しているので、知っている人もいるんですね。あるときサイン会で子どもから、「うちもフィガロ乗ってるんだよ」なんて言われたこともありました。

街の中には、なじみのお店を描いたりもしますね。気づいている人も多いかもしれませんが、看板によく出てくる「ESAM」は僕の名前からつけています。背景にもいろいろ描いているので、ここにこんな動物がいる、あそこにはデパートがある、なんて感じで、単にストーリーだけを楽しむのではなく、ストーリーと関係ないところも絵を見て楽しんでもらえたらいいなと思っています。


……間瀬なおかたさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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