絵本作家インタビュー

vol.152 絵本作家 こみねゆらさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『しいちゃんふうちゃん ほしのよる』や『にんぎょうげきだん』などの作品でおなじみの絵本作家・こみねゆらさんです。こみねさんの描く繊細で可憐な女の子に、忘れかけていた乙女心をくすぐられた方も多いのでは? 最新作『ミシンのうた』の制作エピソードや絵本の魅力について、たっぷりと伺いました。今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・こみねゆらさん

こみね ゆら

1956年、熊本県生まれ。絵本作家、イラストレーター、人形作家。東京芸術大学、同大学院修了。1985年、フランス政府給費留学生として渡仏、エコール・デ・ボザールで学ぶ。『さくら子のたんじょう日』(文・宮川ひろ、童心社)と『ともだちできたよ』(文・内田麟太郎、文研出版)で日本絵本賞受賞。そのほかの作品に『しいちゃんふうちゃんほしのよる』(佼成出版社)、『にんぎょうげきだん』(白泉社)などがある。
ゆららおもちゃ箱 http://blog.livedoor.jp/yuralila-omb/

愛用のミシンから生まれたお話『ミシンのうた』

数年前からアンティークのミシンを使っているんです。20世紀初めにつくられたドイツの手回しミシンなんですけど、すごく調子がいいので、縫うのが楽しくて止まらなくなって、同じ型のワンピースを1カ月に7着もつくっちゃったりして…… そのうちミシンを回しながら、縫うのが止まらない女の子のお話を書きたいなぁと思うようになったんですね。そうしてできあがったのが『ミシンのうた』です。

どんな服がつくりたいかなと考えたとき、着て元気になれる服がいいなって思ったんですね。どこかにふわーっと行きたくなるような服、子どものように野原を走り回れるような服がいいなぁって。それで主人公の女の子にも、そんな服をつくってもらいました。

お話の最後の方に原っぱが出てくるんですが、私は昔から原っぱが好きで…… 子どもの頃はよく、シロツメクサが咲いている川原で遊んでいたんですけど、本当は川原ではなくて、もっとずっと先まで広がっている、映画『サウンド・オブ・ミュージック』に出てくるような原っぱがいいですね。

原っぱって何もないけれど、その分だけいろいろあるっていう感じがするんです。何かがあると制約を受けてしまうけれど、何もないと無限の可能性が広がっていて、どんな夢だって見られるじゃないですか。大人もそういう場所にときどき行って、自由に考えをめぐらすことができるといいですよね。

ミシンのうた
ミシンのうた

▲洋裁店の見習いの女の子が、満月の夜、ミシンに導かれて服をつくります。さわやかで、どこかなつかしい、ふしぎなお話『ミシンのうた』(講談社)。こみねゆらさんの愛用のミシンも描かれています

思い出の品も描き込んだ『しいちゃんふうちゃん ほしのよる』

私の手芸好きは、叔母の影響なんです。手づくりの服やセーター、帽子などを姉と私によくおそろいでつくってくれました。あと、お人形も。買うよりもつくるのが普通、みたいな感じでつくってくれていたので、私も自然と自分でつくるようになりました。

小さい頃に着ていた服って、結構印象に残っているものなんですよね。『しいちゃんふうちゃん ほしのよる』には、私の子ども時代の思い出のアイテムもいろいろと描き込みました。そんな風に心の中にずっと残るような服を子どもにつくってあげることができたら、きっととても楽しいでしょうね。

ほかの作家さんの文章の絵を描くこともありますが、お話を書いた方の頭の中は覗けないので、こんな感じでいいのかなと不安になることもあります。でも、私なりにできる範囲で一生懸命、お話の世界を表現できればと思って取り組んでいます。

『ふゆねこ』は、お母さんを亡くした女の子のところに白い猫がやってくるお話なんですが、冷たい手を温めてあげるようなイメージで描きました。私はあまり大きく笑ったり泣いたりといった表情は描けないので、表情の変化はちょこっとだけなんですが、主人公の子の心の機微が読者の方たちにも伝わっていたらうれしいなと思います。

しいちゃんふうちゃん ほしのよる

▲ほしまつりパーティーの招待状をもらったしいちゃんとふうちゃんは、おしゃれをしようと町までお買い物に出かけます。女の子の夢と憧れが散りばめられた絵本『しいちゃんふうちゃん ほしのよる』(佼成出版社)

ふゆねこ

▲お母さんを亡したばかりのちさとのもとにある日、ももいろのマフラーをした猫がやってきて……。心あたたまるお話『ふゆねこ』(文・かんのゆうこ、講談社)

絵を見ればすぐに入り込める それが絵本の素敵なところ

絵本はお話の要素もあれば、絵の美しさや色、ページ展開など、さまざまな要素があって、いろんな人がそれぞれの方法でおもしろくできるので、つくり手として、すごく素敵な媒体だなと思っています。

もちろん、読み手としても好きな媒体です。私は物語を読むのが大好きなんですが、あまり厚い本だと、もう一度読みたくてもなかなか読めないんですよね。でも絵本なら繰り返し何度も楽しむことができるので、そこがいいなぁと。

絵を見ただけでその世界に入り込めるというのも、素敵なところですよね。私は趣味でロシアやチェコの絵本をいっぱい集めているんですけど、その国の言葉がわからなくても、絵を見て想像しながら眺めれば、だいたいわかるんです。作者が何を考えてこういう構図にしたのか、どういう思いでこの色を置いたのか―― 絵本を見ていると、そんなことも伝わってきます。一冊一冊はとても薄いけれど、その中に本当にいろんな要素が盛り込まれていて、時間と愛情がたっぷり注がれているのがわかるので、繰り返しじっくり眺めて堪能しています。

最後に、子育て中のみなさんへ。人はその人の人生の中で経験できることとできないことがあって、何を経験するかはそれぞれの選択で決めていくわけで、私は私自身の選択で子育てを経験しなかったんですが、それでもやっぱり経験したかったなぁといまだに思うんです。子育ては大変だろうけど、その分すごく楽しいことなんでしょうね。子どもが小さい頃って、親にとっても子どもにとっても一番輝いている時期だと思うので、存分に味わってほしいなと思います。

とおい星からのおきゃくさま しらゆきひめ
さくら子のたんじょう日 ともだち できたよ

▲こみねゆらさんが絵を描かれた作品『とおい星からのおきゃくさま』(文・もいちくみこ、岩崎書店)、絵本・グリム童話『しらゆきひめ』(再話・矢川澄子、教育画劇)、『さくら子のたんじょう日』(文・宮川ひろ、童心社)、『ともだち できたよ』(文・内田麟太郎、文研出版)


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