絵本作家インタビュー

vol.147 絵本作家 苅田澄子さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、ユニークな食べ物が登場する『いかりのギョーザ』や『じごくのラーメンや』などが人気の絵本作家・苅田澄子さんです。子どもの本が好きで編集者を目指し、編集者を経て絵本作家になるまでのエピソードや、絵本に対する思いをお聞きしました。
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絵本作家・苅田澄子さん

苅田 澄子(かんだ すみこ)

1967年生まれ。埼玉県出身。出版社勤務の後、フリーで編集をしながら、児童文学作家・小沢正氏に師事。『いかりのギョーザ』(絵・大島妙子 佼成出版社)で絵本作家デビュー。そのほかの作品に、『へいきへいきのへのかっぱ!』『じごくのラーメンや』(以上、教育画劇)『にくまんどっち?』『ゆうれいなっとう』(以上アリス館)などがある。

赤ちゃんでも絵本の世界が理解できると感動!

おんなじ おんなじ おんなじね

▲みいちゃんのおめめ、だれとおんなじ? 嬉しいおなじがいっぱいの、家族で楽しめる赤ちゃん絵本。『おんなじ おんなじ おんなじね』(絵・つちだのぶこ 学研教育出版)

『おんなじ おんなじ おんなじね』は、私にとってはじめての赤ちゃん絵本です。絵のつちださんと電話で話しながら、いっしょに作りました。そしてやはり実際に赤ちゃんに触れてみないと!と思い、ある書店で行われていた、赤ちゃん向けの読み聞かせ会を見学させてもらいました。

赤ちゃんはこういうことするんだとか、こういうのが好きなんだな、と肌で感じることができて、そのうち書店の方に「読んでくれますか?」と誘われて、読み聞かせも体験しました。発売前にラフの状態で、子どもの前で読ませてもらったこともあります。絵に色がついていない状態でも、出来上がりの色がついた状態でも、赤ちゃんの反応がほとんど同じだったので、「0歳でも、もう絵を見る力があるんだな、こんなに絵本の世界が分かっているんだな、人間ってすごい!」と感動しました。

読み聞かせは、赤ちゃんだととくにずっと聞いているのは難しいですし、その時の体調とかご機嫌でどこかに行っちゃったりすることがありますが、あまり気にしないでそのまま読んでしまえばいい気がします。

読み聞かせ会の時も、知らんぷりしている子もよーく見ているとチラッチラッと見ていたりするので、聞いていないようで、意外と聞いているんですよね。おうちでお母さんがお子さんに読み聞かせをする時も、お母さんがその絵本が好きとか、楽しんで読めれば、たとえその絵本を子どもが気に入ってくれなくても、何冊か読んでいくうちに、気に入る絵本に出会えるんじゃないかと思います。子どもに読み聞かせをする期間って、短いですよね。すごく幸せな時間だと思うので、いっぱい読んであげて欲しいなと思います。

絵本選びで迷ったら、まず図書館で子どもに自由に絵本を選ばせてみるのがいいと思います。子どもって気に入った絵本を、何度もリピートして借りることがありますよね。そういう絵本は、ぜひ買ってあげたらいいんじゃないかと思います。きっと大人になった時に、好きだった絵本が手元に残っていると、いい思い出になると思いますよ。

子どもは何度読んでも楽しい

親からは、私が子どもの頃、「たくさん読み聞かせをしたよ」と言われるんですけど、あまり覚えてないんです(苦笑) 「うさこちゃん」シリーズや『ぐりとぐら』、また歌の絵本もあって、自分で落書きしたりした物を、今も持っているんですけどね。絵本を買ってもらっていた記憶はすごくあります。

幼稚園の頃は、絵本雑誌を毎月親が申し込んでくれていて、その中にすごく好きだったお話があって墨絵のようなモノクロの絵本だったのですが、親が親戚にあげてしまって手元にはないんですよ……。私もとっておけばよかったのに、あげる直前まで「これあげちゃうんだ、悲しいな」と思いながら見ていたのを覚えているんです。だったらとっておけばいいじゃない!と今だったら思うんですけど、しょうがないと思ったんでしょうかね。だからぜひ、お子さんが気に入った絵本はとっておいてあげてくださいね(笑)

小学生の頃は翻訳物の本が好きで、3年生ぐらいの時に大塚勇三さんのものがおもしろいと思って、探しては読んでいました。でも、たくさんの本を読んでいるわけではなくて、同じ本を何度も何度も読んでいて、それは今でもそうなんですけど。あまりに何十回と同じ本を読むもので、親が怒って「そんなに同じ本ばっかり読んでないで、新しい本を読みなさい!」と言われたぐらいでした。

でも、子どもは何度読んでも楽しいんですよ。またその世界に浸りたいと思うんですね。オトフリート・プロイスラーが好きで、『大どろぼうホッツェンプロッツ』や『小さい魔女』とか、家にまだありますけども、何度読んだことか! とくに、食べ物のページが好きで、今でもそこをつまみ読みすることがあります。今でも当時読んだ時の「おいしそう!」と思った気持ちを思い出します。なので、お子さんが同じ本を何度読んでも怒らないでくださいね。でも、もし怒ったとしてもきっと読むと思いますけどね(笑)

自分でお話を書く喜びを教えてくれた先生との出会い

苅田澄子さん

あと忘れられないのは、小学校1・2年生の時の担任の先生が、ノートをつくってくれて、私が創作したお話を読んでくれていたことです。書いてくれるコメントも教育的なものではなく、「楽しく読めました」と感想を書いてくれて、嬉しかったんですよ。

原点と言ったら大げさですが、この先生が書くことの楽しさとか、本の楽しさを教えてくれたと思っています。素晴らしい先生に出会えて、幸運でした。書いたお話は家族にも見せていて、私の妹は「あの頃の方がおもしろかったんじゃない?」なんて言います(笑) 父親は、その長編を製本してくれたことを覚えています。今も絵本を見せると父親は「おもしろい」と言ってくれて、嬉しくなります。

その後次第にお話を書くことがなくなって、中学生の頃、『MOE』の前身の『絵本とおはなし』という雑誌を知って、それを見た時にすごく衝撃を受けました。それまでは、絵本や子どもの本から離れてしまっていたのですが、「子どもの本ってすごい! 大人も感動させるんだ」と感銘を受けて、それに編集後記を見て「かっこいい!」って単純に思い、それから編集者になりたいと思いました。

自分で書くことは難しいけど、好きな本を書いた人たちと、好きな本をつくりたい。それなら頑張ればできるかも!と思い、出版社を目指しました。編集者になって、たまたま中学生に読み聞かせをする場に行ったことがあったのですが、みんなすごく嬉しそうに聞いていて。昔話の絵本でしたが、、読み聞かせに年齢は関係ないなと思いました。大人でも読んでもらうのって嬉しいですからね。

絵本は何より年齢に関係なく楽しめるのがいいと思います。赤ちゃんから、おじいさんおばあさんまで読める本って、絵本しかないと思うので、すごいジャンルというか、それに関われることがいつもありがたいと考えています。

これからも、頭の中の引き出しをひっぱり出して、ごそごそ探しながら、子どもたちが喜んでくれる絵本を作れたらいいなあ……と思っています。。


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