絵本作家インタビュー

vol.147 絵本作家 苅田澄子さん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、ユニークな食べ物が登場する『いかりのギョーザ』や『じごくのラーメンや』などが人気の絵本作家・苅田澄子さんです。子どもの本が好きで編集者を目指し、編集者を経て絵本作家になるまでのエピソードや、絵本に対する思いをお聞きしました。(【後編】はこちら→

絵本作家・苅田澄子さん

苅田 澄子(かんだ すみこ)

1967年生まれ。埼玉県出身。出版社勤務の後、フリーで編集をしながら、児童文学作家・小沢正氏に師事。『いかりのギョーザ』(絵・大島妙子 佼成出版社)で絵本作家デビュー。そのほかの作品に、『へいきへいきのへのかっぱ!』『じごくのラーメンや』(以上、教育画劇)『にくまんどっち?』『ゆうれいなっとう』(以上アリス館)などがある。

夢だった絵本の編集者から、絵本作家になったきっかけ

いかりのギョーザ

▲ブブコさんが拾った、関西弁をしゃべるフライパンは、怒りの炎でおいしいギョーザを焼きます。『いかりのギョーザ』(絵・大島妙子 佼成出版社)

絵本作家になる前は出版社に勤めていて、最初は営業部で事務をしていました。とはいえ、もともと子どもの本が好きだったので、希望していたのは児童書部門の編集の仕事。ずっと希望を出し続け、入社9年目にしてやっと希望する部署に配属されました。残念ながら3年ほどで体を壊してしまい退社し、その後はフリーで編集の仕事をしていました。

そんな時、絵本作家や保育士を目指す専門学校が当時あったのですが、そこに大好きな児童文学作家の小沢正先生が講師を務める、童話を創作するための講座がありました。それでその学校の夜間部に、仕事をしながら通うことにしたのです。

はじめは自分で童話を書くつもりはなくて、「いい作家さんを見つけられたら」という、編集者目線で通っていたんです。ですが、次第に童話を書く生徒さんたちにすごく刺激を受けて、みなさんおもしろいものを書くので、次第に「自分も書いてみようかな」と思うようになり、そのうち、「小沢先生におもしろいと言ってもらえるようなお話を書きたい!」と思うようになりました。

そんなきっかけからお話を書くようになったのですが、書き始めたら「できたら本になったらいいな」なんて欲が出てくるようになり、いくつかの公募に作品を送るようになりました。そして、毎日新聞社主催の「小さな童話大賞」という公募で、運よく佳作を受賞。その授賞式に出版社の編集長さんもいらっしゃっていて、「本にしてみない?」と言ってくださり、デビュー作となる『いかりのギョーザ』を出版することができたのです。

私はこの話にどんな絵がつくか想像もできなかったんですけど、担当編集の方が、「大島妙子さんがいいと思う!」と言ってくださって……。大島さんとは、私が編集者だった当時に一緒に仕事をしたことがありましたが、私の名前を言わずに担当編集の方が大島さんに依頼したんです。大島さんは後から私だと気付いたそうで、「あれ、苅田さんなんですね!」と驚かれていました。

絵本を読んだ方から、「おうちでギョーザを手づくりされるんですね」って、褒められるんですけど、全然そんなことなくて、じつは、私どちらかというと料理が苦手(笑) 私の作品は食べ物の話が多いので、「ご飯食べたりするのもお好きなんでしょうね」と言われるんですけど、……そうでもないんです。どちらかというと、つくってもらいたいという気持ちが大きくて、その願望が出ているのかな、と思うことがあります。

もともとは、もう少し長い幼年童話みたいなお話だったんですけど、編集の方に絵本向けに短く書いてと言われたものの、なかなか短くすることができなくて苦労したことが思い出です。

絵によって話の雰囲気がガラリと変わるおもしろさ

ゆうれいなっとう

▲スーパーで見つけたゆうれいなっとう。はしでぐるぐるかきまぜて、ねばーっと糸をひいたら、怖くておいしい!『ゆうれいなっとう』(絵・大島妙子 アリス館)

デビュー作が出た時は嬉しかったです。ただ、当時も今も、絵本作家として長くやっていきたいという思いは変わらずあって、自分自身が編集者として出版業界を知っていたこともあり、1冊で終わったらどうしよう……、という不安が大きかったですね。

最初は絵本作家と編集の仕事を並行してやっていこうと考えていたんですけど、同じような仕事に見えて、じつはまったく性質が違うんですよ。編集の方には、「こういう絵本をつくりたい」ときちんと伝えないといけないのですが、私はなまじ編集者の気持ちが残っていて相手の立場がわかるだけに、つい遠慮してしまい、これはいかん、私には二足のわらじは無理だと思い、絵本作家一本でやってみようと決心しました。

自分が編集をしていた頃は、絵によって、お話の雰囲気が全然変わるのがおもしろいな、と思っていたので、自分のお話にどんな絵がつくのかを楽しみにしています。私のほうから「こんなキャラクターで」とか、イメージを詳しく絵描きさんに伝えることはあまりありません。絵描きさんのイメージを大切にしたいと思っていますし、こちらのイメージを言い過ぎて、それにとらわれてしまうのも申し訳ないような気がしてしまうので。私も漠然としたイメージはあるものの、「絶対こう!」というのはない方なので、意外な絵があがってくると、おもしろいなと楽しんでいます。

逆に、おまかせしすぎても大変かな、と思う時もあります。とくに私のお話は、絵にしにくいものが多いと思うんですけど、例えば「ギョーザが怒るってどんな絵だろう?」とか、思いますよね(笑) だから、絵描きさんには恵まれているというか、いつもいい絵を描いていただいて嬉しいなと思っています。

大島妙子さんには、『ゆうれいなっとう』の絵も描いていただきました。納豆が怖い声を出す、というのを絵で表現するのは難しいことで、絵をどなたにお願いしようかと考えた時、「声が怖いっていうのを、絵に描けるのは大島さんだ!」とすぐ頭に浮かびました。

でも、大島さんも、声が怖いというのを表現するのが難しかったようです。ラフ(下絵)を描かれた時に、これでいいのかと不安だったそうで、編集の方を交えて3人で集まって相談しました。

ちょっと変わった天国と地獄の世界

私じつは子どもの頃から「地獄絵」を見るのが大好きでした。怖いんだけど見ちゃう、みたいな感じで(笑) 地獄のお話をずっと書きたくて、電車に乗っている時にふと思いついたお話が、『じごくのラーメンや』でした。

私の頭には、仏様もラーメンが食べたいだろうなというのが先にあったので、仏様だから良いことをしてくれるんだろう、という発想はありませんでした。『蜘蛛の糸』と全然違いますよね。

地獄の辛いラーメンは、子どもに辛いものって受け入れてもらえるかな?と思ったのですが、知り合いのお子さんがこの絵本を読んでから、「お母さん、ラーメンを辛くしたいから、辛いものちょうだい」と言ったと聞いて、子どもの考えることって面白いなあと思いました。何より西村繁男さんがおもしろい地獄の絵を描いてくださったからだと思います。

以前、知り合いを通じて、全校生徒80名ぐらいの小さな小学校で読み聞かせをする機会がありました。その時読んだのが、『じごくのラーメンや』と『へいきへいきのへのかっぱ!』でした。みんなすごく笑ってくれて安心しました。「へのかっぱ!」については、読み聞かせした方から、最後は「へのかっぱ!」の大合唱になったと言われたことがあって、嬉しかったです。

じごくのラーメンや

▲じごくのラーメンやの名物は、からーいからい“ちのいけラーメン”。全部食べたら天国に行けるそう。仏様も食べにきました。『じごくのラーメンや』(絵・西村繁男 教育画報)

へいきへいきのへのかっぱ

▲こまったことやたすけてほしいことがあったら、「へのかっぱー!」と呼んでみよう。すると……。『へいきへいきのへのかっぱ!』(絵・田中六大 教育画報)


……苅田澄子さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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