絵本作家インタビュー

vol.140 クレヨン画家・絵本作家 加藤休ミさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、『きょうのごはん』などが人気の絵本作家・加藤休ミさんにご登場いただきます。クレヨンだけで、おいしそうなごはんやリアルな魚を描き続けている加藤さん。クレヨンへのこだわりから、イキのよい魚がたっぷりと描かれた最新作『おさかないちば』などの制作エピソード、力を入れているワークショップの活動まで、たっぷり伺ってきました。
←【前編】はこちら

絵本作家・加藤休ミさん

加藤 休ミ(かとう やすみ)

1976年、北海道生まれ。クレヨン画家、絵本作家。書籍や雑誌の挿画を手がける傍ら、展覧会で作品を発表。2010年、ピンポイント絵本コンペ優秀賞。初の自作絵本『ともだちやま』(ビリケン出版)を刊行。絵本作品に、『キムチの絵本』(編・チョン・デソン、農山漁村文化協会)、『ももたろう』(作・山下明生、あかね書房 )、『きょうのごはん』(偕成社)、『りきしのほし』(イースト・プレス)。最新刊は、『おさかないちば』(講談社)。
加藤休ミブログ http://katoyasumi.exblog.jp/

食べ物はおいしく描けます

きょうのごはん

▲夕方になると、あちこちの家からおいしいにおい。猫の夕飯パトロールの始まりだ。今晩の夕ご飯は、サンマ、カレー、オムライス……『きょうのごはん』(偕成社)

少し話が前に戻りますが、イラストレーターとして雑誌に連載をしていた頃、各駅でおいしい定食屋を見つけて巡るという企画を出したんです。それでサンマの開き定食の写真を撮ってクレヨンで描いたら、「うまそうじゃない」っていい反応をしてもらったんです。

写真から絵にうつしただけだから、そんなに「おいしそう」って言われるとは思ってなくて、うれしくてどんどん描いたんです。何を描いても「おいしそう」って言われるから調子に乗って、お寿司にラーメン、サンドイッチなどの食べ物の絵を、いろんな仕事で描きました。おいしそうな描き方が分かってきた頃に、魚を100匹描くというムックの仕事が来たんですね。時間がないけれど、とにかく描きたいから描かせてくれって言ったんです。

全部描いたところで、雑誌の人が「もったいないから築地で展示しよう」って言ってくれて、築地市場のすぐそばで「魚展」という魚ばかりの展覧会を開くことになりました。

会場が広いので、大きいのも泳がせておかないと格好がつかず、1メートル弱のマダイを描いてみたんです。それまでは、雑誌用の小さいものしか描いていなかったので、描けるかどうかすら分からなかった。けど、描けたんです。それで大きい魚を次々描いて、最後は築地と言えばマグロ。まさかマグロがマダイと同じ大きさでは面白くないので、できる限り大きな頭を描いて、そこから後ろをつなげていったら、2メートル40センチになってしまったんです(笑) でも皆さんには喜んでいただけて、最終的に開催が2ヶ月延びました。

『きょうのごはん』は、展覧会で料理の絵を見た編集の人が声をかけてくださったんです。この時はまだ、どの食べ物をどうやったらうまく描けるか分からなかったので、チャレンジしたい料理を描きました。料理はほとんど自分でつくりました。コロッケは編集の人と一緒につくったんですが、見た目はこんがりおいしそうなのに、食べたら中がベチャベチャ(笑) オムライスは、弟がヘタウマなオムライスをつくれるので、ケチャップまで。おすしは、友だちの実家の寿司屋に頼みました。特にコロッケは好評で、「家でつくると、この辺焦げますよね」って主婦の人が言ってくれて。これはみんなでやってよかったです。

猫のモデルは、実際にうちの近所をパトロールしている猫です。商店街は「あるといいなぁ」と私がいつも考えているものです。こんな店があって、喫茶店のベランダやレンガの組み合わせとか、魚屋の看板とか、こういう懐かしい街並みが好きですね。

『りきしのほし』『おさかないちば』

3年前に相撲を見に行って以来の相撲好きです。初場所を見て好きになって、4月には好きな力士の浴衣のデザインが決まりました。そんな私の相撲好きを見て、ある編集の人が声をかけてくださって、『りきしのほし』が生まれました。描きたいことがありすぎて、いっぱい「ダメ」「ダメ」って言われた絵本です。

『りきしのほし』は、結構ネタを仕込んでいます。まず「太貫部屋(たぬきべや)」という間抜けな部屋です。バス停は「横綱一丁目」で、次のバス停は「(相撲)協会通り」。双葉山の名前から「双葉歯科」、バスの行き先の「駒形」は、歌舞伎の「一本刀土俵入り」の、相撲をやめてやくざになってしまう主人公の出身地からとりました。『りきしのほし』の次に出た『おさかないちば』では、バトンの意味でかちかち山の手形色紙を載せています。

『おさかないちば』は、描くのも楽しかったですが、取材も楽しかったですね。取材で2回築地市場に行きました。昔は一般の人は入っちゃいけなかったそうで、取材で写真を撮るのもダメと言われました。一番魚が動く忙しい時間帯に行ったんで、どこにいても邪魔で(笑) でも、本当にすごかったですよ。

おばさんが小さいスペースでお茶しているとか、ホースの水でお茶を入れていたとか、腰の曲がったおばあさんが働いているとか、小さなエピソードはその時見たものです。ヒラメの締め方は、卸の人が本当にヒラメを売ったり買ったりしている時に教えてもらったんです。

タイラギの大きさは、市場に行って知ったんです。「魚展」でも描いたんですが、それは雑誌用で手のひらサイズ。実物見て「あれ!?」って(笑) 私も知らなかったし、みんなも知らないよなと思って、そこからスタートすることにしました。朝早くて寒かったんですが、本当に面白かったです。

りきしのほし

▲おいら、力士のかちかちやま。毎日厳しい稽古をしています。なかなか強くなれなくて、やめたくなることも……。横綱・白鵬の帯は「かちかちやま、土俵で会う日を楽しみにしてるぞ!」『りきしのほし』(イースト・プレス)

おさかないちば

▲お寿司屋さんでお父さんが頼んだタイラギって、何? 気になった僕は、お店の大将と一緒に魚市場に行くことに。マグロ、ブリ、ヒラメ、オコゼ……。イキのいい魚が絵本から飛び出してきそうな一冊『おさかないちば』(講談社)

「子どもが面白い」純粋にそう思い、続けてるワークショップ

加藤休ミさん

『りきしのほし』では、絵本のカバーにトントン相撲の人形をつけました。原画展のワークショップで、実際にトントン相撲大会をやったんです。付録の5倍くらいの大きさの人形をつくって、子どもたちに色を塗ってもらい、四股名もつけてもらって。「東~、ハナノヤマ~、西~、何とかの山~」とやったら、すごい盛り上がりました。

学校でワークショップもしています。展覧会を見た鎌倉の学校の先生が、声をかけてくださったのが始まりです。その時は「わたしははげやま わたしにきをうえて」という企画で、木を描いてもらいました。初めてでどうやったらいいか分からず、机の間を回ってクレヨンの使い方をアドバイスしただけでした。それでも、子どもたちがワーッと盛り上がって。みんなが描いた絵を集めて貼ったらいい作品になって、ギャラリーで展示されて、それを見た教育センターの人に講演に呼ばれて……。学校でやるのは面白いなって思ったんですよね。

柏の小学校の2年生全員、全部で140人でやったこともあります。「にっぽんいちのおさかなをつくろう!」ということで、私が魚の頭としっぽだけ描いて、子どもには魚のうろこに絵を描いてもらったんです。模造紙をつなげて伸びるだけ伸ばしていったら、最終的には7メートルくらいの魚になっちゃって! ほかにも母島の小学校でやらせてもらうなど、とにかくやらせてくれるところにどんどん行ってやっているという感じです。

何より、子どものむちゃくちゃな発想と、子どもをリズムに乗せられた時が楽しいですね。子どもがやりたくてやりたくて、「もうやめて!」というところまで乗せられた時が一番! お母さんが「来る時は描きたくないって言ってた子どもが、最後はいっぱい描いてくれた」と喜んでくれたのも、よかったですね。ワークショップはずっとやりたいです。何か子どもの発想から得ようという感じではないです。子どもが面白いことやっているのが好き。子どもといるのが大好きですね。

ワークショップでは、自分の絵本も読みます。『りきしのほし』は、こういう風に読みたいというのがあるんです。相撲部屋で親方が「そうじゃない」「もっと○○しろっ」って低い声でボソボソ言うのを聞いたからです。強く大きな声じゃなかったんです。ただ、その時によってうまく読めたり読めなかったりします。だから、こう読んでほしいというのはないですね。でも私の本に関しては、かわいく読まない方がいいと思います。お父さんが読むのが一番いいんじゃないかな?

絵本って、『ともだちやま』で思いましたけれど、自由ですよね。山とぐちゃぐちゃになってもいいし、ありえないことが絵に表現できるのが面白いですね。文章で「山がぐちゃぐちゃしています」では伝わらないけれど、絵を一目見ただけで伝えられるのが、絵本のいいところだと思います。

一番大事にしているのは、「これを描きたかったんだよ!」というものを描くようにしていることです。早く描きたいな、早く仕上がり見たいな、と自分でも思えたものがいいと思います。今は、白いご飯をおいしく描いてみたいんですよね。新米の粘りまで出したい。なかなか魚みたいに到達しないですね。もっともっとおいしく描きたいですね。来年には、お化けの本を出す企画も進んでいます。またいろいろしかけを考えているので、楽しみにしていてください!


ページトップへ