絵本作家インタビュー

vol.139 絵本作家 池田あきこさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、今年で誕生30周年を迎える猫の「ダヤン」シリーズが大人気の絵本作家・池田あきこさんです。ショップのキャラクターとして生まれたというダヤンの誕生秘話、本好きの子どもだった頃の話、子育て&誕生したばかりのお孫さんとのエピソードなどを伺いました。
←【前編】はこちら

絵本作家・池田あきこさん

池田 あきこ(いけだ あきこ)

1950年、東京・吉祥寺生まれ。1983年革小物専門店「わちふぃーるど」をオープン。猫のダヤンが人気キャラクターになる。1988年『ダヤンのおいしいゆめ』(ほるぷ出版)で絵本作家デビュー。著書に『ダヤンのコレクションブック』シリーズ、長編物語『ダヤンの長編ファンタジー』(以上、ほるぷ出版)ほか、画集、スケッチ紀行シリーズなど多数。作品の原画は、河口湖木ノ花美術館(http://www.konohana-muse.com/)で常設展示されている。
わちふぃーるどオフィシャル・ウェブサイト http://www.wachi.co.jp/

子どもの頃よく読んだ本で外国にあこがれて

子どもの頃、父が国鉄職員(現JR)だったこともあり、転勤が多かったので、引っ越しを頻繁にしていました。小学校は3回変わったのかな。でもわりと、私は新しいところに行くのが好きで、今までの友だちと別れるのは寂しかったけど、新しい場所へ行くんだという、期待やわくわく感を強く持っていました。

兄と妹がいて仲が良かったので、引っ越すと兄妹3人で探検に行って、必ずどこに本屋があるかを確認していました。本が好きで、学校の図書館も好きでしたね。子どもの頃はすごく痩せていて体が弱かったので、体育の時間は見学ばかりで、本を読んで感想文を書くことが多かった。でもその感想文をよくほめられていましたね。

子どもの頃好きだったのは、「キンダーブック」や「こどものとも」のような、数編のお話が入っている絵本雑誌。小学生になると、グリム童話、トペリウスの『星のひとみ』とか、『若草物語』『ドリトル先生』、そしてなんと言っても山川惣治の『少年ケニヤ』がお気に入り! 表紙がとれちゃうぐらい読んでいました。『少年ケニヤ』がすばらしいと思ったのは、日本にいながらにして、アフリカの自然や動物を実に躍動感あふれるタッチで描いているところ。

それ以外にもわが家には、外国の翻訳童話がたくさんありました。よくダヤンは、外国の絵本みたいだとか、ドイツのおじいさんが描いているのかと思った!と言われるのも無理ないと思います(笑) 何しろ私がグリム童話や北欧の神話とか、西洋のお話が大好きで、ずっと西洋にあこがれていたからでしょうね。

子どもをおんぶしながら、仕事をしたことも

なまずの駄菓子屋

▲ダヤンは見慣れない、なまずのおばさんの駄菓子屋を見つけます。おばさんははじめてのお客さんに目を光らせて……。『なまずの駄菓子屋』(ほるぷ出版)

そもそも私は短大を卒業後、まずはOLになったんですけど、仕事がいかに人にとって時間のほとんどを占めるのかを思い知ってしまって、結果的に勤めていることがつまらなくなって、つらくて仕方がなったんですよ。

今思えばわがままなんですけど、自分が好きなことをしなければ!と強く思ったの。それで、私は物をつくることが好きなんだと分かって、革のアクセサリーをつくって吉祥寺や渋谷の路上で売ったりもしていました。

それを革製品メーカーに持っていったら、すごくおもしろいから量産ができないかと言われ、徐々にお客さんをつけて、母と革製品のメーカーをつくりました。私は結婚が早かったので、子どもをおぶって契約に行ったりしていましたよ(笑)

娘は今、いっしょに仕事をしているんです。バッグなどの革製品の制作をしています。今年孫が生まれてからは、連れて来て仕事をしています。私と同じ道ですね。

でも孫が生まれて、娘に対する見方が変わったかな。娘は自分の子だって思っていたけど、彼女が子どもを持ったことで、この子はお母さんになったんだって。違う人間になったなって感じます。

私はみんなの力を借りて、自分の暮らしを変えずに子育てしてきたけど、娘は一身に子どもを見ているという感じで子育てしています。母親のあり方が私と違うかもしれませんね。なるほど、人っていうのは親子でも違っておもしろいなって思います。

孫に会うと、スケッチしたくなります。絵に描くと成長もよく分かるの。娘の時も、保育園の連絡ノートに絵を描いていたんだけど、今でもそれを見ると当時のことが思い浮かぶんですよ。

育児日記を書く時、下手でもいいから、絵を描き加えるといいと思います。写真はその一瞬を切り取るだけだけど、絵はその時の時間を閉じ込めることができるんです。だから、子育て中のお母さんにも、もっと絵を楽しんでもらいたいと思っています。とくに子どもは描きがいがあるので、おすすめですよ。

私は朗読会も実施していますが、『なまずの駄菓子屋』を読む機会が多いですね。この前は、音楽といっしょにピアノやバイオリンをBGMにしました。このお話は、味と音と空気、そして雨や水の音の悲しみを出したいなと思ったのと、駄菓子屋を描きたいと思ってできたお話です。

駄菓子屋さんで売っている「なくなくせんべい」の味が子どもは気になるのかな。最後もこれで良かったのかな、と思わせるようなお話になっています。小さなお子さんでも、楽しめる内容だと思います。

自分とは違う物が生きているのが、世の中だから

池田あきこさん

子育て中のお母さん・お父さんにぜひ伝えたいのは、人はみんな違うんだから、人と違うということを認めて、違っていいんだと思いながら、子育てしてもらいたいということ。実際の暮らしの中でも大勢の人たちと交わって、いろんな人がいるということを子どもにも親にも分かって欲しいし、子どもをそういう環境に置いて欲しい。

私がつくっている架空の国も、いろんな生き物がいて、全部違っていて、それぞれ尊重しあって生活している。それは本を読むことでも、その一助になると思う。ダヤンもだけど、『ピーターラビット』とか『ムーミン』とか、人間じゃない物が出てくる本を読むことでも、自分とは違う物が生きているのが世の中だ、ということを知ってもらえると思います。

あと今の時代、子どもたちになくなってしまったかな?と感じるのは「あこがれ」。外国に対するあこがれもそうだし、大人になってからこういう人になりたい、という「あこがれ」の感情が少なくなったんじゃないかな。

これをしたい!あれをするためにがんばる!とか、そういう物に出会うチャンスを、私は自分の作品を通して子どもたちに与えてあげたいし、お母さん・お父さんたちも本を通じて与えてあげて欲しいですね。


ページトップへ