絵本作家インタビュー

vol.133 絵本作家 くわざわゆうこさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、温かなタッチでユニークなキャラクターを生み出す、くわざわゆうこさんです。「とにかく本に関わる仕事をしたかった」と、編集やデザインの仕事を経て、あるきっかけでイラストの仕事を始めることになったそう。「絵の仕事をしているなんて、自分でも不思議なんです」とおっしゃるくわざわさんの、絵本への思いをお聞きしました。
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絵本作家・くわざわ ゆうこ

くわざわ ゆうこ

岐阜県生まれ。編集プロダクション、デザイン会社勤務を経てイラストレーターとして独立。おもな絵本の作品に『でちゃったときは』(作・織田道代、フレーベル館)、『に~っこり』(作・いしづちひろ、くもん出版)、iPad電子絵本『みにくいあひるの子』があるほか、『らくがきあそび』(作・川島隆太、成美堂出版)など、子どもの絵本や教材を中心に活動中。OLから子育て中のママにも好評の『4色ボールペンでかわいいイラストを描く!』(主婦の友社)が発売中。
ホームページ:http://www.kuwaco.com/

自然の中で育ち、動物もたくさんまわりにいた子ども時代

子どもの頃は、うちの中にいるよりも、外で遊んでいるような子でした。育ったのが岐阜の山の方で、兄がいたし近所には男の子ばかりいて、女の子の友だちがあまりいなかったというのもあって、木登りしたり、クワガタを捕まえて戦わせたりとか、ヘビを捕まえてふりまわして、誰がいちばん遠くに飛ばせるかとか、そういう遊びをしていました。今はとてもできないですけどね(笑)

クマとかイノシシとか、野ウサギに会っちゃうような自然の多い場所で、最近も実家の近くに養蜂場があるんですけど、兄から、「夜、うちのそばまでクマがハチミツを食べに来て、車のライトにびっくりして逃げた」と聞いて、思わずクマのプーさんみたいで「かわいい!」と言ったら、すっごく怒られました……。出会ったら危険ですからね。

そんな小さい時から動物がまわりにいるような環境だったせいか、動物には縁を感じることが多いし、動物を描くのが楽しいし、描く機会も多いです。

うちでお絵描きをした記憶はほとんどありませんが、絵本は好きでよく読んでいました。小さい頃から大好きで、未だにとってある絵本が、堀内誠一さんの『たろうのおでかけ』と『ぐるんぱのようちえん』です。兄がたつろうという名まえなので、『たろうのおでかけ』のたろうと書かれた全部のページに、"た"と"ろ"の間に"つ"が書き込んであります(笑)

その絵本は、もう汚くなっているんですけど、見るたびに「全部に"つ"が入っている! お兄ちゃんといっしょに読んでいたんだな~」って思いだして、そういう所がまた思い入れがあって、その絵本が大好きな理由のひとつです。

自由な発想や想像力を養ってくれる絵本

に?っこり

▲赤ちゃんがにっこりするのはどんな時? 読み聞かせをしながらたくさんの「にっこり」を探したくなる、幸せいっぱいのファーストブック『に~っこり』(くもん出版)

電子絵本の仕事で、『みにくいあひるの子』を描くことになって、原作を改めて読んでみたら、小さい頃読んだ時とはまったく違う印象を受けました。小さい頃読んだ時は、みんなと見た目が違っていじめられて、かわいそうなあひるの子が、最後に白鳥になってよかったね、というイメージだったんですけど、大人になって読むと逆というか、自分が白鳥の子だと知らなくて、シュンとしていたけれども、本当の自分を最後に気づく。つまり自分のことって、自分がいちばん分かっていないのかもしれないと感じることができて。

絵本のすごい所というのは、同じお話でも、読み手や年齢や状況によって全然違う受け取り方になること。考える余白を残してあるのがいいなと思います。なので、それまではメッセージ性がある絵本がよい絵本なのかな、と思うこともあったけど、考える余白がある絵本が、読み手によってまったく違うものになったりするし、世代を超えてずっと残っているなと感じています。

知り合いのママで、自分は一切絵本を与えられずに育ってきたけど、絵本を子どもの頃読んでいると、何がいいの? と聞かれたことがありました。明確な答えは分からないけど、私は絵本で育ってきて、たとえば自分の作品で、『でちゃったときは』のクマの耳をキノコにしようとか、そういう自由な発想が浮かびます。そういった想像力は、絵本によって養われたのかな? と思っています。

赤ちゃん絵本の『に~っこり』は、ストーリーがすごくシンプルなので、最初どうしようかと思いました。私にはまだ子どもがいないんですけど、もし産んだらこんな小籠包みたいな頭(笑) の子がいいなという願望で描きました。

あと、不思議なんですけど、読んでくださった方からもらう声が全部、「うちの子に似ていないのに、うちの子に見えてくる!」というものなんです。絵本に出てくる子は女の子ですが、実際のお子さんは男の子だというお母さんから、「なんだか見ていくうちにうちの子みたいだと思って買っちゃいました」と言われて、そういう声が不思議だけど嬉しかったですね。うちの子みたいとか、お祖父ちゃんがうちの孫みたい、とか読んでくださった方によって、色んな風に見てもらっているのは嬉しいです。

こんな動物いるんだよ、出会えたらいいよねと伝えたい

くわざわゆうこさん

「ころころえほん」(フレーベル館)の9月号の『ぶたさん たいそう』で、はじめて作と絵を両方手掛けたました。3匹のブタが体操するというお話です。今私はテニススクールに通っているんですけど、最初に体操をするんです。ある日体操をしながら「ああ、ブタが体操したらおもしろいな。ブタってピースしている手だし、手を上げたら空にむかってピースしているみたいでかわいいなあ」という風に、思いついたお話です(笑) リズムのあるブタ語が出てくるので、お母さんとお子さんがいっしょに読んで楽しんでもらえると思います。

色々なイラストの仕事をしていますが、いちばん楽しいのが絵本の仕事です。小さい子に楽しんで読んでもらえるような絵本を、今後もずっと描き続けられたらいいなと思っています。私が小さい頃に見た絵本を、ただ覚えていて今も好きだったりするので、私の絵本も断片的にでも、ずっと覚えていてくれたら嬉しいですね。

今は私も都会に住んでいますが、もともとビルがある風景には馴染みがないので、描く絵が自然の物か山や木が多いです。やっぱり、育った場所が自然の多い場所なので、どうしてもそっち寄りになってしまいます。

でも、自然が少なくなって、最近の子どもは自然の景色を見ることが少なくなっていますよね。だからせめて絵本で見てもらったりとか、動物も偶然出会う機会もないだろうから、絵本で出会ってもらって、本当にこんな動物がいるんだよ、こんな動物がいたらいいよね、ということも伝えていきたいです。


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