絵本作家インタビュー

vol.132 紙切り似顔絵師・チャンキー松本さん 挿絵師・いぬんこさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、紙切り似顔絵師・チャンキー松本さん、挿絵師・いぬんこさんご夫妻です。Eテレ「シャキーン!」や『おかめ列車』の、昭和の雰囲気漂う絵でおなじみのいぬんこさん。チャンキーさんとは、青空亭という屋号で、イラストやアートイベント等様々な活動をしてきました。お二人の息の合ったやり取りが生んだ最新作や人気作の制作秘話を伺いました。
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紙切り似顔絵師・チャンキー松本

チャンキー 松本(ちゃんきー まつもと)

香川県生まれ。紙切り似顔絵師。イラストや音楽、パフォーマンスなどの活動をする。紙切り似顔絵とは、客の顔や写真を見ながら、紙切りで似顔絵をつくるもの。絵本は、『ちんどんやちんたろう』(絵・いぬんこ、長崎出版)が1作目。
切り絵師チャンキー松本の日々の切り取り http://kamikirichanky.blogspot.jp/

挿絵師・いぬんこ

いぬんこ

大阪府生まれ。挿絵師。Eテレの子ども番組「シャキーン!」のメインイラストを手がける。絵本は、『おかめ列車』、『おかめ列車 嫁にいく』(長崎出版)、『ここにいるよざしきわらし』(文・荻原浩、朝日新聞出版)、『うれないやきそばパン』(文・富永まい、作・中尾昌稔、金の星社)。
いぬんこのえ http://inunco.blogspot.jp/

イベントのイメージから生まれた『おかめ列車 嫁にいく』

おかめ列車 嫁にいく

▲おばあちゃんの家でお手伝いをしていたこももちゃんは、結婚式の写真を見つけました。ちょっと変わった写真を指差すと、体が写真の中に引き込まれて……!?『おかめ列車 嫁にいく』(長崎出版)

C:イベントがすごくハッピーでお祭り感満載だったから、『おかめ列車』の次回作を考えた時、さらにお祭り感をいっぱいにしようと思ったんですよ。この本からは、僕も話をつくるのに参加しているんです。

I:宴会シーンは、イベントのイメージで描きました。自分が絵本を出すことによって、現実世界に広がって、それがまた自分にフィードバックしていくみたいなのが、本当にあるんだなと思って。

C:『おかめ列車』は、いぬんこがそれまで培った中からつくったけどね。『おかめ列車 嫁にいく』はお客さんを見た時に感じたことから、生まれましたからね。

I:出逢いケ浜のシーンはまさに、イベントのためにチャンキーさんが描いた大壁画から生まれたんですよ。絵本の絵は、パソコンで描いているので、原画がなくてパネル展示だったんで、せっかく来られた方に何だか申し訳ないな、と思ってたんです。それで、原画的なものを描いてもらおうと思って、せっかくだからその前で記念写真を撮ってもらえるように、大きいのを。

C:で、俺に「描け」と(笑) いぬんこは、銭湯の富士山が好きなんですよ。それで僕が絵に「出逢いケ浜」と名づけて看板も立てて、観光名所みたいにね。それが次の『嫁にいく』の1シーンになってるというわけです。

I:もともと『おかめ列車』の次を出すという話になった時、宇宙に行くとか、海底に行くとか、地中に行くとか、いろいろ考えていたんですけれど、考えた末にチャンキーさんが「嫁は?」って言って。それは一番意外だなと(笑)

C:一発芸みたいなもんでしょう? それで話は終わっちゃうじゃないですか。「嫁に行くねんや」、ってそこからが大変(笑)

I:普通1作目と同じ流れのものを出すと思うんですけれど、どうしてもこう、振り切りたいなと思ったんです。自分で次ないくらいまでやらないと、自分が楽しめないというか。

C:いぬんこは、だいたい絵本一冊終わったら廃人みたいになってますよ。1、2週間は。

I:絵本に限らず展覧会でも、振り切らないとなんか気持ち悪いというか。その代わり廃人みたくなるんですけれど、その期間を終えたあとに、全然自分が予想しなかった場所に行けるから、出し切りたいというのが常にあります。

すき間を埋めたいというか、熱を上げたいみたいな気がするんです。センスとかジャンルとか言語もすべて超えて、わけ分からないけれど熱がある、エネルギーを感じるようなものを、自分が見るのも好きだし、そういう作品が、見る人に伝わるんじゃないかなって。

思いもかけないことの先に奇跡が起こる『ちんどんやちんたろう』

ちんどんやちんたろう

▲お風呂屋さんの息子は、ちんどん屋の娘にほのかな恋心。思わず「ちんどん屋になりたい」と言ってしまったから大変! その日から修行が始まります。そんな時、お風呂屋さんが閉店の危機を迎え……『ちんどんやちんたろう』(長崎出版)

I:ちんどん屋さんって私らは知り合いも多くて、身近な存在なんです。それが、お母さん世代でも見たことがないという方もいらっしゃると聞きまして、知ってもらうきっかけになれば、というのがありました。

C:僕は、イベントでちんどん屋さんをやったことがあります。健常者と障害を持った人との混成で、「ちんどんチャンス」という20人くらいのちんどんグループをつくって、イベントしたりパレードしたり。

I:ちんどんチャンスは、ちんどん通信社の方も教えに来てくださったよね。

C:『ちんたろう』の取材をさせてもらったところです。ちんどん通信社さんは、日本でも有名なちんどん屋さんなんです。以前ちんどん博覧会っていうちんどん屋さんを集めたイベントに参加したんですが、これがすごく面白くて。ちんどん通信社さんの事務所がある大阪の谷町6丁目に、僕が住んでいたこともあって、前を通ったら挨拶するくらいの顔見知りだったんです。

『ちんたろう』の話は、いぬんこと一緒に考えてますね。

I:チャンキーさんは絵が描けるんで、絵も構図から一緒にやってる感じはあります。

C:まず僕が話をダーッと書いて、いぬんこがチェックを入れるんですけれど、それを聞くのがウンザリ(笑) ただ、くやしいけど当たってるからブラッシュアップをする。で、またケンカ、ブラッシュアップ、ケンカ、ブラッシュアップ……ですね。最後の、親方が女性だったというの、あれはいぬんこのアイデアなんですが、もう出来上がるっていう時に(笑)

I:絵も、いろいろ盛り込みがちなんですけれど、チャンキーさんが、いろいろ省いてとか、整理してとか、お話側からの目線で指示してきよったり(笑)

C:犬に吠えられるという偶然から、この話は転がっていくわけですけれど、思いもかけない方向に物事が進んでいく経験を、僕はすごいいっぱいしている。それがつながって今に至っているという感覚があるんです。自分が考えている範囲だと、結果も想像つくじゃないですか。思いもかけない方向に進むから奇跡が起こる。それを僕は、経験的に知っているから、今は意識してその方向に、乗っていこう!みたいなね(笑)

ちんたろうも意識が変わる瞬間があります。人がスイッチ入る瞬間というか、新しい表情になるのって好きなんですよ。僕は「似顔絵切り絵」をしていて、5分くらいで人の顔を切るんですけれど、最初は緊張してはるのが、だんだん顔が開いて温和になる瞬間というのを常に見ている。絵本でもその辺りを楽しんでほしいです。

I:チャンキーさんは、人の心を開く、ということを常に意識してしてますね。

C:開いてもらったら、あとは何してもOKじゃないですか(笑) そこが一番難しい。ライブでもステージでも絵本でも。それさえできたらいいんじゃないかな。

突き抜けた笑い、届けたい

紙切り似顔絵師・チャンキー松本さん、挿絵師・いぬんこさん

C:読み聞かせをされるお父さんお母さんには、『ちんたろう』は関西弁が満載なんで、それを面白く読んでほしいです。例えば、東京の人が無理やり関西弁をしゃべる感じって面白いじゃないですか。関西の人は思いっきり関西弁を楽しんでほしい。読む人のリズム感で、読んでいただいて。それを横で聞いてみたいですね。

I:絵は結構細かいところ描いているんで、いろいろ探してもらって、何度も見ていただければと思います。チョコチョコ描いてますから。

C:いぬんこの描く子どもはかわいいな。

I:自分自身が、一番子どもをかわいいと思うのは、子ども自身が何かに夢中になっている姿なんで、そういうのを描こうと思っていますね。

自分の子ども時代のことを思っても、よく分からんけど面白い、すき間的な場所があったり、人がいたりしたんですよね。私たちの作品が、そういうものの一つになったらいいなと思うんです。小さい時にいた、昼間からウロウロしている変なおっちゃんとかゴミのようなものを売っている店とか。そういうわけ分からないけれど面白いという存在に惹かれますね。

C:僕らの絵本の中で、「笑い」って大事かもしれないですね。いぬんこは笑い泣きってのが好きなんですけれど、笑わしたいって気持ちは二人ともすごくある。僕らのやっていることは、全部そうなんじゃないですかね、笑わしちょるなっていう。

I:笑いでも冷たい笑いは好きじゃない。あたたかい笑いが好き。

C:クレイジーキャッツとか、植木等とかが好きなんですよ。富士山もそうですけれど、スコーンと抜けているようなのがね。

I:そういう世界にあこがれますね。青空に富士山があって、みたいな。突き抜けた感じ。

C:人を茶化したり、落としたりするよりも、一人で青空に向かって笑ってる。いぬんこの絵は「天晴れ」かな!


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