絵本作家インタビュー

vol.129 絵本作家 きしらまゆこさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、キュートでユニークな動物や乗り物たちが活躍する絵本のほか、ビジネス書のイラストなども手がけられている、きしらまゆこさんにご登場いただきます。周囲には "理系の体育会系"だと思われていたきしらさんが絵本の世界に飛び込み、デビューするまでのエピソードや、さまざまな作品についての制作秘話などをお聞きしました。
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絵本作家・きしら まゆこ

きしら まゆこ

大阪府守口市生まれ、京都市在住。「インターナショナルアカデミーえほん教室」にて、黒井健氏、高畠純氏らに師事。2003年『うさぎくんのぼうし』で絵本作家デビュー。絵本作品『サンタのいちねんトナカイのいちねん』『タイヤがパーン』(ひさかたチャイルド)、『よくばりおおかみ』『しょうぶだ!!』(フレーベル館)などのほか、実用書やビジネス書の挿絵などイラストレーターとしての作品も多数。
きしらまゆこ公式HP http://www.kishira-mayuko.net/

アイデア先行の制作スタイル、未完成な"絵本のタネ"もたくさん!

ラッキー☆ガーコ

▲「毎日、いろんなことが起こるけど、いつもラッキーなことばかりさ! 」『ラッキー☆ガーコ』(ひさかたチャイルド)

ぶたがきにあたる

▲ぶたが木に当たると、木が揺れる。木が揺れると、鳥が池に落ちる。鳥が池に落ちると……。愉快なぐるぐる絵本。『ぶたがきにあたる』(ひさかたチャイルド)

絵本をつくる時は、まずはストーリーありきです。私は、お話がないと絵が描けません。とはいえ、ストーリーを練っている間、頭の中が文字だらけということではなく、ボンヤリと映像を動かしながら……そう、『うさぎくんのぼうし』も、最初は犬が主人公だったんですが、だんだんと、うさぎに変わっていきました。

唯一、『ラッキー☆ガーコ』だけは、キャラクターが先行でした。えほん教室1年目の終わり頃、フレーベル館編集の天野誠さんが講師にきてくださいました。その時、授業の前半で「たとえストーリーには出てこなくても、キャラクター設定はしっかりしなさい。そうすれば、ストーリーが生きてくる。」と教わり、"すごくドジで大変なことばかり起こるけど、自分ではこんなに幸せで最高だ!と思っているキャラクター"を描きたいと思い、その日常を描くことにしました。「おとといだって、昨日だって、今日だって」という3段階のストーリー。そして「明日もきっと、俺ってラッキー」で終わる、そんな構成をパッと思いつき、授業時間内にほとんど完成していました。1年目に4冊つくったと先ほどお話ししましたが、3冊だったのが終わり頃に急にもう1冊増えて4冊になったわけです。これも90点のうちの一つです。

デビューしてから数年後、チャイルド本社の植村さんから「そういえば1年目の修了作品展でたくさん作品を出してたよね、もう一度見せて」と言われたことがきっかけで、この『ラッキー☆ガーコ』、そして『ぶたがきにあたる』も、世に出ることとなりました。

『ぶたがきにあたる』は、高畠先生からえほん教室1年目の時に「"ぶたがきにあたる"で始まって終わる話」という課題が与えられて、描いた作品です。当時は、ストーリーに1か所、つじつまの合わないところがあって、90点と言われた理由はそこなんですが、出版社の方に見せるにあたってもう一度考えたところ、「そうだ! こうすればいいんだ!」と解決案がひらめき、無事完成しました。『ラッキー☆ガーコ』とともにお見せしたら、「両方おもしろいね!」と言っていただき、せっかくなら判型も同じにして一緒に出そう、となり、同時出版されました。

絵本づくりにあたっては、まず「自分がおもしろいと思うもの」が第一。それをみなさんに楽しんでもらえればうれしいです。子どもさんはもちろんですが、年代問わず、みなさんが、絵本とともに楽しい時間を過ごしてくださればと思います。

アイデアは、犬の散歩をしている時、新幹線や飛行機に乗っている時、お風呂に入っている時、寝る前など、リラックスして、ぼーっとしている時などに浮かびます。思いついたら即、ストック。カタチにならないアイデア、最初はよかったのに話が続かない、つまらない、そんなモノも、すべて絵本のタネ。途中までしか話ができていない作品がたくさんあります。寝かせて、また見直すと、『ぶたがきにあたる』のように、後々、解決策が見つかることもあったりします。

全部カワイイ"わが子"だけれど、特に「印象深い作品」をあげるとすれば

おとなりさん

▲となりに誰かが引っ越してきて、にわとりはワクワク! でも、おとなりさんはなかなか姿を現しません。実は、おとなりさんとは……。『おとなりさん』(BL出版)

やはり印象深いのは、デビュー作ですね。全国に配布される月刊誌への掲載だったので、読者の方からお手紙をたくさんいただいて。また市販本第1号も『うさぎくんのぼうし』だったこともあり……本屋さんに並んでいる自分の絵本を見て、感動しました。

学生時代の恩師をはじめ、それまでお世話になった方々に、この『うさぎくんのぼうし』をプレゼントしたら、みなさん、どうも私と絵本が結びつかなかったようで、大学の先生からは「どうしたの!? びっくりしたよ!」、高校の先生からは「理系の体育会系じゃなかったっけ? 絵本の印象なんてまったくないんだけど」と、開口一番が「おめでとう」じゃない、そんな反応が多かったのが、おもしろかったです。絵本の世界は厳しいと聞いていたので、当時はまだ「いい記念になった」という感じでしたが、2作目、3作目と続いていったのは、この『うさぎくんのぼうし』があったからこそです。

『おとなりさん』も印象深いですね。というのも、私がえほん教室に入る前から大ファンだった、高畠純先生が絵を描いてくださった作品だからです。教室に通うようになり、ラフを見ていただく度に「先生、もし私のストーリーで"ぜひ描きたい"というのがあったら、いつでも言ってくださいね」「わかったわかった」……そんなやりとりを続けておりました。もちろん夢物語で、まさか実現するとは思っていませんでしたが……。『おとなりさん』も文章アイデアができあがったので、ご意見を伺おうとお送りしたところ、しばらくして高畠先生から電話がかかってきて、「あれ、ボク描くよ、いい?」「えええっ! もちろんです~」……本当にうれしかったです!

絵本のチョイス、読み聞かせに「正解」なんてない

お子さんに与える絵本については、難しく考えず自分が好きな絵本でいいのではないでしょうか。選べなければ、誰かにオススメを聞くとか。あるいは図書館や本屋さんで、お子さんに自由に選んでもらうのもいいと思います。ただしその場合は、何を選んだとしても「何!? それ?!」はタブーですが(笑)

読み聞かせについても、「子どもには、どう読めばいいんでしょう?」とよく聞かれるのですが、私にも答えはわかりません。ただ、感情は、入れても、入れなくても、読みやすい方でいいと思います。そして、子どもがあんまり熱心に聞いてない様子だったり、ふっと急に積み木で遊びだしたりしたとしても不安になることはありませんよ。案外、耳ではしっかりと聞いていたりします。とにかく堅苦しく考えず、絵本の時間を楽しんでください。


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