絵本作家インタビュー

vol.121 イラストレーター 市原淳さん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、『トンネルねるくん くるまなにかな?』のシリーズや『すごいくるま』などの絵本でおなじみのイラストレーター・市原淳さんにご登場いただきます。人気の絵本から、世界的な展開をしている『ポペッツタウン』の制作エピソード、毎晩子どもに読み聞かせをしたというパパとしての顔までを、たっぷりと伺いました。 今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・市原 淳

市原 淳(いちはら じゅん)

愛知県生まれ。イラストレーター。大阪芸術大学デザイン学科卒業。キャラクター制作を手がけた『ポペッツタウン』がカナダでテレビアニメ化され、世界約100ケ国で放送。主な絵本作品に、『トンネルねるくん くるまなにかな?』のシリーズ、「はたらくくるま」シリーズ(文・山本省三、くもん出版)、『にっこり にこにこ』『わーらった』(文・風木一人、講談社)、『すごいくるま』(教育画劇)など。
市原淳のイラストレーション http://ichiharajun.com/

毎日曜日、父親と図書館へ

市原淳

サッカーに野球、プールなど外遊びが大好きな子どもでした。ただ父親が図書館が好きで、公園や旅行ではなく、日曜日になると図書館に連れて行ってくれました。そこで絵本にふれあっていましたね。小学校低学年くらいまでだったと思います。『ちいさいおうち』(バージニア・リー・バートン、岩波書店)とかエッツの『もりのなかへ』(福音館書店)とか、『ひとまねこざる』(H.A.レイ、岩波書店)とか、海外の本の記憶が多いですね。

小学校の中学年の頃に、安野光雅さんの『旅の絵本』(福音館書店)が好きになって、それを何回も繰り返し読んでいました。すごく細かい絵の中に物語の主人公が隠れ絵的に入っていて、それを探すのが好きでした。自分でも『旅の絵本』風なものを描いてみましたね。子どもっぽい絵でしたけれど。

出身の愛知県常滑市は陶芸が盛んで、小学校で焼き物の授業があって、一人一台ろくろがあったんですよ。7歳の時には、僕の叔母が陶芸家と結婚して、急にアーティストのおじさんができたんです。おじさんの仕事に興味があって工房に遊びに行ったり、横で粘土遊びをさせてもらったりしましたね。昼間もゆっくりお茶を飲んでいて、遊んでいるみたいで楽しそうな仕事だなと(笑) そんなことなどがあって、次第に画家や陶芸家のような仕事が向いているんじゃないかと思うようになり、高校の頃に日比野克彦さんたちがメディアで活躍されているのを見て、イラストレーターを志すようになったんです。

大学は、大阪芸術大学でイラストレーターを目指すコースに入りました。そこで、絵本の授業があったんです。実際に、発明家や泥棒などの部屋を順番にのぞいていくという絵本をつくりました。いろんなものを緻密に描き込んだんですが、描き込みすぎて完成できなかったんですよ。先生は良い評価をしてくださったのでうれしかったです。

イラストレーターとして、子ども向けの仕事などを手がける

わくわくABCブック

▲楽しくかわいい動物たちとABCを学べる『わくわくABCブック』(ピエ・ブックス)

卒業後イラストレーションの制作会社に就職したんですが、そこでの仕事は自分のタッチとは関係なく、絵を作業的にこなしていかなくてはいけないところでした。すごくストレスが溜まりました。スーパーリアルとか、○○さん風に描いてくださいとか。すごく勉強にはなったんですが、なんか違うなというのがあって、1年でやめてしまいました。

ある時、南アフリカ航空に勤めていた知り合いの方から、大阪就航記念のチラシをつくりたいと相談を受けたんです。「ギャラの代わりにチケットなんですが、いいですか?」って。それで南アフリカに動物を見に行きました。国立公園は街から車で8時間くらい走ったところにありました。その道が、舗装はしてあるんですが、地平線までずーっとまっすぐなんですよ!

動物は、ライオンもキリンもゾウもカバも見ました。すごくきれいでした。動物園とは違ってツヤツヤしていて。ライオンがすぐ横を歩いていくんですが、全く囲いがない車なのでちょっと怖かったです。銃を持った人が一台に一人はついたんですけどね。本当に面白い体験でした。

仕事は、次第に子ども向けのものが増えていったんですよね。キンダーブックや「ひかりのくに」などの月刊誌の仕事をよくしていました。次第に、絵本っぽい仕事も入ってくるようになって。企画はほかの方なんですが、『わくわくABCブック』など本の形になっているものもあります。

イラストレーターの仕事って使い捨てみたいなところがあって、一時期にわっとたくさん出て、キャンペーンが終わったらすぐになくなっていくんですけれど、絵本はいいものをつくればずっと残っていくので、それがすごくうれしいですね。

世界的な展開をした『ポペッツタウン』

ポペッツタウン

▲ダックスフンドのブルーターやネコのパティなど10匹のキャラクター紹介に、楽しい探し遊びなどがついている『ポペッツタウン』(小学館)

オリエンタルランドの子会社から、オリジナルキャラクターをつくって育てていきたいという話があったんです。最初はコンペだったので、どれか当たればいいかなと10点くらい出したところ、「全部まとめてひとつの世界にしませんか?」と応募したすべてが採用されて、ポペッツタウンが生まれました。そこから世界観をつくって、ちょっといじわるな子におしゃべりな子……と、キャラクターづけをしていきました。絵本の『ポペッツタウン』は、小学館の雑誌『おひさま』の連載をとじたものですが、これは「ポペッツタウン」で最初にいただいた仕事でした。

そのうちにカナダのアニメーション会社の方に気に入っていただいて、「これをアニメにしませんか?」という話になったんです。脚本はカナダの方で、10分くらいの短編のものが、52話できました。キャラクターが生まれて1年くらいでこういう話になり、自分でもすごく驚きました。

海外ならではの変更もありました。名前を呼びやすいように「ブルータ」が「ブルーター」、「ウキウキブラザーズ」が「ナカナカブラザーズ」になったり、ブタをキャラクターにしていると放送できない国があると代わりに羊を描いたり。出来上がってみたら、屋根の上にソーラーパネルがついていたり、ニワトリのキャラクターはヘルメットでトサカが隠れて、なんの動物だかわからなくなっちゃったり(笑)

せっかくなんで、制作現場を見たいと話したんです。カナダかと思っていたら、スペインの会社に下請けに出していたので、スペインまで行ってきました。10人ほどアニメーターがいて、みんなのパソコンの画面に僕の描いた絵が映っているのは、不思議な感じでした。こんな離れた遠くの国で、僕の絵がって。

そこでは、アニメーターの方が市原風のサブキャラクターを新たに生み出しているんです。「これは大丈夫か?」って聞かれたりして。僕がつくったのは11人なんですが、ほかにカエルとかペンギンとかいっぱい出てくるんですよ。

特定のキャラクターを生み出すために取材に行く、といったことはしないですね。頭に浮かんだものを描いているだけなんです。いろいろ描いてみて、その中からいいものを選ぶ。アイデアって、いろんなことの積み重ねで出てくると思うんです。うまく言えないんですが、日常の出来事を楽しむことや、人と会って話をすることなどが大事なんじゃないかなと思うんです。



……市原淳さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→

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