絵本作家インタビュー

vol.120 絵本作家 小林ゆき子さん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、ちょっと怖くて幻想的な『ハロウィンのランプ』『ぴーかーぶー!』が人気の絵本作家・小林ゆき子さんです。はじめて子どもたちの前で読み聞かせをしたことによって新たに得たこと、そして絵本を通して子どもたちに伝えたい思いなどを伺いました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・小林ゆき子さん

小林 ゆき子(こばやし ゆきこ)

デザイン学校を卒業後、会社員を経て絵本作家・イラストレーターに。主な作品に『ブラザーサンタ』『ハロウィンのランプ』(岩崎書店)『ポーリーちゃんのポケット』『おしゃれなねこさん』(教育画劇)『ぴーかーぶー!』(作・新井洋行、くもん出版)『しろくまくんのパンケーキ』『はるですよ』(フレーベル館)、『まいてきっておいしい!ひなまつり』『おってきってたのしい!たなばたまつり』(福音館書店)などがある。
Yukiko Kobayashi's Diary http://yukikokobayashi.blog.fc2.com/

活発だけど、ひとりの時間も好きだった子ども時代

ブラザーサンタ

▲ちょっととぼけたサンタ兄弟の絵本『ブラザーサンタ』(岩崎書店)

子どもの頃は、友だちと色鬼をしたり缶蹴りなどをして外で活発に遊ぶのも好きだけど、ひとりで遊ぶのも好きというタイプでした。原っぱで草花や小さな虫をじっとひとりで見るのも好きだし、家で本を読んだり絵を描いたりするのも好き。これは今でも変わらないけど、ひとりでいろんなことを考えたりとか、何かをつくったりする時間が好きでしたね。

親はアートや本をすごく読むというタイプではなかったけど、私が欲しいと言った本は買い与えてくれました。幼稚園の頃は、『しずくのぼうけん』や、「ノンタン」シリーズ、あとは村上豊さんの絵本が好きだった記憶があります。まだ文字が読めない頃から本屋さんで絵本を選んでいたので、表紙を見て好きな絵の絵本を選んでいたのだろうなと思います。

小学生になると、『すてきなさんにんぐみ』が好きでしたね。だけどだんだん絵本から児童文学を読むようになっていきました。お絵描きも好きだったので、友だちに頼まれてよく似顔絵を描きましたし、美術の授業も大好きでした。

その後はデザインの学校に2年間通いデザインの勉強をして、絵の勉強を本格的にはじめたのは20歳を過ぎてからになります。

学校を卒業後、勤めていた会社を退社して独立しました。そして子どもの本に関する絵の仕事をしたいと思い、売り込みを続けていました。そんななか、月刊「こどもの本」の表紙を描かせていただくなどしていました。

売り込みをしていた頃は洋書の絵本がとても好きで、内容というよりも絵に惹かれていました。だから絵本作家になりたいというよりは挿絵を描きたいと思っていて、お話をつくってはいませんでした。

そんな時、私の個展を見に来てくださったデザイナーさんが、"サンタクロースの1年"をテーマにしたカレンダーの絵を描かないかと声を掛けてくださったんです。そしてそのカレンダー用に6枚の絵を描くことになり、その時に自分で考えたサンタクロースの兄弟の話を添えて出してみました。

結局それがカレンダーとなり、グッズにもなった時に、そのデザイナーさんが絵と話を売り物ではないけど、本仕立てにしてくださったんです。それを見た出版社の方が、「これを32ページの絵本にしてみない?」と言ってくださってできたのが、私の絵本デビュー作となる『ブラザーサンタ』です。

読者の子どもたちが楽しんでくれるように思いを込めて

小林ゆき子

絵本制作ははじめてだったので、編集者の方に「作は別の方にお願いしますか?」とも言われたのですけど、絵・作両方できる絵本作家としてやっていきたいと思って、挑戦させてもらいました。

だけど6ページのお話を32ページに広げる作業はとても大変で、起承転結もよくわからず、教わりながら必死に制作しました。読んでくださった方の感想を聞くと、「本当に読んでくれているんだー」と不思議な気持ちになったのを覚えています。

とにかく最初の何冊かはつくるのに必死で、自分のこういうテーマを絵本に込めたいという思いよりは、読んでくれる子どもさんが楽しんでくれるようにという思いでつくっていました。

最近になって気づいたことは、特に意識はしていなかったけれども、自分の絵本にはどのお話にも、最終的には安心感があるというか、どこかあたたかさとか、人とのつながり・関わりが全体的にあるなということです。最後は仲直りしたり、お母さんの元に戻ってきたり……。まわりからもそう言ってもらうことが多いです。

お子さんが落ち込んでいたり、不安な気持ちになったりしている時に、お母さんがその子に与える愛情を重ねながら読んでくれるとうれしいですね。

かわいい男の子とモンスターのギャップ!『ぴーかーぶー!』

『ハロウィンのランプ』も、最後はほっとする、あたたかい内容だねとよく言われます。だけど、出てくるおばけは、子どもにはかなり怖いともよく言われます(笑) 私が絵に目覚めた頃、アメリカの絵本作家レイン・スミスさんの絵本がすごく好きで、この作家さんはデフォルメがすごい、ダークで怖い絵を描かれる方なんです。絵本作家になる前、かなり影響されて、ちょっとモンスターっぽい絵を好んで描いていた時期がありました。

だけど『ハロウィンのランプ』まで、あまりおばけが出てくる絵本を描く機会がなかったけど、おばけを描いている途中で、そういえばこういう怖いダークな絵を描いていた時期があったなと思い出して、その頃の気持ちですごく楽しく描きました。

絵を担当した『ぴーかーぶー!』も、おばけが出てくる絵本です。作の新井洋行さんが『ハロウィンのランプ』のことをすごく好きでいてくださったということで、同じ系統というか、モンスター的な絵本を描く機会が得られました。

主人公は、最初かわいいふつうの男の子だけど、途中で狼に変身してしまいます。ダミー(下絵)で私はかわいい狼に変身するように描いたら、新井さんから「違う、もっと怖く!」と言われて、怖い狼になりました。

自分だったら、かわいい男の子はかわいい狼に変身させると思うんですけど、あえてそこのギャップを出してと言われまして。その発想が、私にはない男の作者さんが考えるおもしろさだなと思いましたね。

ハロウィンのランプ

▲かぼちゃのランプでおばけをおどかそうとする『ハロウィンのランプ』(岩崎書店)

ぴーかーぶー!

▲次々と現れるおばけにドキドキする展開!『ぴーかーぶー!』(くもん出版)


……小林ゆき子さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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