絵本作家インタビュー

vol.12 絵本作家 山田詩子さん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェ インタビュー」。今回は、二人の男の子のお母さんでもある絵本作家・山田詩子さんにご登場いただきます。カレルチャペック紅茶店のオーナーとしても活躍される山田さんは、ご自宅に3000冊もの絵本をコレクションしているという大の絵本好き。そんな山田さんが描く、楽しくおいしい絵本の数々は、どのようにして生まれるのでしょうか?
今回は【前編】をお届けします。 (【後編】はこちら→

絵本作家・山田詩子さん

山田詩子(やまだ・うたこ)

1963年、愛知県生まれ。立命館大学卒業。東京・吉祥寺の紅茶店「カレルチャペック紅茶店」代表で、雑貨デザイナー、イラストレーター、絵本作家としても活躍中。絵本に『ぶたのチェリーのおはなし』(偕成社)、『トルテのピンクケーキ』(学習研究社)、『さあ おでかけ』『おいしいよ』をはじめとしたファーストブックシリーズ(ブロンズ新社)など。『紅茶好きのメニューブック』(文化出版局)など、紅茶やお菓子にまつわる著書も多数。夫、息子2人の4人家族。
カレルチャペック紅茶店 http://www.karelcapek.co.jp/

自宅に絵本が3000冊! 絵本に囲まれた暮らし

父も母も本が好きで、小さい頃から本に囲まれて暮らしてました。福音館書店の『こどものとも』とか、英語の先生をしていた母がアメリカから取り寄せた洋書の絵本とか、ブルーナさんの初版本もあったんですよ。母は自分の子どもに最高のものを与えたいという意識が高かったので、週に1~2回の頻度で美術館に連れて行かれたりもして、抽象画とか風刺画とか、いろいろ見ました。いいもののシャワーを浴びた時期だったと思います。

小学3年生の頃は、やけに大人ぶって遠藤周作の小説なんかを読んだりしていました。10分の休み時間も図書館に行くくらい本ばかり読んでましたから、友達もいないし、いないことを気にもしてなかったんです。そうしたら夏休みに入る前、担任の先生が私に、メッセージをくれたんです。「うたこさんへ 本の世界もおもしろいけれど、閉じこもってしまうのではなく、そこから何かをつかんで大きく成長するように」……そんなメッセージと一緒にもらった本が、カレル・チャペックの『長い長いお医者さんの話』(岩波書店)だったんです。

読み始めたら、ものすごく惹きこまれていって……文章は平易なんですけど、私がその当時感じていた絵本や童話の甘っちょろい印象とはまったく違う温度感があって。私にはまだまだ知らないことがいっぱいあるなと思って、そこからまた絵本や童話の世界に戻っていきました。

その後も絵本を卒業することはなく、今では3000冊くらいの絵本をコレクションしています。大学時代から友達に、私の引っ越しは地獄って言われたくらい(笑) 絵本の読み手としては、ある意味トップクラスなんじゃないかと思いますね。

作家として絵本と向き合って気づいたこと

▲山田さんの絵本作家デビュー作『ぶたのチェリーのおはなし』(偕成社)

大学を卒業して紅茶店を始めて、パッケージに絵を描いて商品化したりしていたら、編集者の方が絵本を描いてみないかと声をかけてくれたんです。最初は、いい絵本をたくさん知っているだけに、「私が描けるわけないじゃない」と思って断ってました。

でも、いつか自分の描いた絵本を出版してみたいという気持ちはあったんですね。それで初めてつくった絵本が、2002年に出た『ぶたのチェリーのおはなし』(偕成社)。最初の1作しかデビュー作と言えないんだからとすごく気負ってしまって、できあがるまでに随分と苦労しました。

初めて作家として絵本と向き合って、気づいたことがたくさんあったんですよ。それまで商品につける絵ばかり描いていたので、正面切った決めポーズばかりになってしまったり、外出をあまりしないせいか、外の絵を描くのがすごく苦痛で、在宅率の高い絵本になってしまったり……事件や冒険といったものにあまり興味がなくて、淡々としたのが好きなので、ストーリーをつくるのも苦労しました。

読み手としていくら絵本に造詣が深くても、つくり手としてはまだまだだな……とへこんだりもしたんですが、最近は、絵本の世界にはいろんなつくり手がいるんだから、私は私らしく描いていけばいいんだと思えるようになりました。

デビュー作のときからいつもこだわっているのは、色です。私の小さいときの絵本の記憶は、赤の絵本とか黄色の絵本といった感じで、色で残っているんですよ。だから私の絵本も色で覚えてもらえたらいいなと思って。1960年代前半くらいまでの古い絵本を収集してるんですが、私の絵本も、あえて製版技術があまり発達していなかった当時の手法に習って印刷してるんです。印刷所の人をかなり悩ませていると思いますし、色別にパーツを分けて描いていくので私自身もとても大変なんですけど、やはり色についてはこだわっていきたいですね。

手を差し伸べてくるテレビ、自ら探っていく絵本

母は教育ママだったので、子どもの頃は「テレビはひとり1週間に30分だけ」と決められていました。仕方がないからドリフなんかを姉と前半後半を分けて見て、物まねで伝え合ったりして(笑) でもそれじゃおもしろくないので、ムーミンなんかを見ることが多かったですね。私は4人姉妹の2番目なんですけど、一人目、二人目くらいは母も特に気合いが入っていたんでしょう。仕事をしながら4人の子育てですから、大変だったと思います。一番下の妹は祖母が面倒を見てたので、祖母と一緒に水戸黄門とかを普通に見ていて、本をあまり読んでいなかったようでした。

やっぱりテレビってメディアは強力ですから、どうしたって引き寄せられますよね。文字と絵だけの絵本の場合、作家の体温とか色の感じとか、お国柄とか、全然知らないところに自分で分け入って、探っていく必要があるんですよ。それがテレビの場合は、向こうから手を差し伸べてくるんです。だからいくら本が家にあっても、テレビの方に行っちゃうのも無理はないかもしれません。

でも私は子どもたちに、本からいろんな情報や思いを受け取れるような人間に育ってほしいんですよね。テレビや雑誌だけだと、時代はほとんど「今」、国も今いる自分の国だけという限定された情報ばかりになりがちですけど、本を読めばもっともっといろんな考え方に出会えるでしょう。自分のテンポで読め進められますしね。

本には勉強だけでは教えられないことが、たくさんつまってます。絵本の読み聞かせは、本に親しむためのいわば前哨戦。だから真剣にやった方がいいと思いますね。子どもが将来どれほどの引き出しを持つかということにかかわってきますから。


……山田詩子さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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