絵本作家インタビュー

vol.11 絵本作家 黒井健さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェ インタビュー」。今回は、『ごんぎつね』『手ぶくろを買いに』などでおなじみの絵本作家・黒井健さんです。優しく柔らかなタッチの絵で“色鉛筆の魔術師”とも呼ばれる黒井さんは、NPOブックスタートの理事としても活動されています。そんな黒井さんに、絵本作家になったきっかけや絵本制作におけるこだわり、読み聞かせの心得などを伺いました。
今回は【後編】をお届けします。 (←【前編】はこちら

絵本作家・黒井健さん

黒井健(くろい・けん)

1947年、新潟県生まれ。新潟大学教育学部中等美術科卒業。学習研究社幼児絵本編集部を経て、フリーのイラストレーターとなり、絵本・童話のイラストの仕事を中心に活躍。1983年、サンリオ美術賞受賞。主な絵本作品に『ごんぎつね』『手ぶくろを買いに』『猫の事務所』(いずれも偕成社)、「ころわん」シリーズ(ひさかたチャイルド)など。画集に『ミシシッピ』(偕成社)、『ハートランド』(サンリオ)などがある。2003年、山梨県清里に「黒井健絵本ハウス」を開設。NPOブックスタートの理事も務める。http://www.kenoffice.jp/

一番大事にしているのは、テキストとの対話

私は作・絵をやることはほとんどなくて、挿絵をやることのが多いんです。だからその中で一番大事だと思っているのは、テキストを読み込むこと。物語を読み込んでみて、それが自分とどう接点を持っているのか、「そうだね」と共感できる場所を探すんです。

絵本の絵は、物語の説明ではないんですよ。だったら、物語だけで十分なんです。たとえば、「ひろーい海が見えました」という文があるとするでしょう。その文章だけならすごく広い海なんだろうけど、絵描きが描いたら、やたら狭い海になるかもしれないですからね。物語を映画やテレビなどで実写版にしたときに違和感を覚えるのと同じです。だから、単なる物語の説明に終わらない絵を描くためには、その物語を自分の体の中に入れていく時間というのがとても大切。全部が全部すーっと入ってくるわけではないので、とにかくわからなければ読み込みます。

ときどき読み疲れてしまうこともあるんですけどね。たとえばアンデルセンの『親指姫』。カエルもいや、モグラもいやと言って、最後は結局、王子様と結婚しました……という物語を読み込んでいたら、次第にその主人公の親指姫が愛せなくなっちゃって。そのとき描いた親指姫は、実にクールな、今風な顔の女の子になっちゃいました(笑)

そう考えてみると、私が絵を描いた絵本というのは、私がこう読みましたという、絵で描く感想文みたいなものですよね。

わが子と重ね合わせて描いた「ころわん」

▲シリーズ最新作『ころわんがよういどん!』(間所ひさこ・作、ひさかたチャイルド)

ころわんとは、もう20年以上ものつきあいです。描き始めた頃、ちょうどうちの子が小さかったんですね。それで、自分の子と重ね合わせて、「あ、この子かわいい」と思ったんです。

子どもの中でも、好奇心に満ちた元気な子もいれば、好奇心はあるんだけど人見知りする子もいますよね。うちの子は人見知りするタイプで、ありをつぶすこともできないし、寄ってくると「こわーい」って言う。でも興味はあって、じーっと見てる。そういう子だったんです。そのあたりの、子どもが初めて物事に出会った新鮮さが、ころわんにも感じられたんですね。だからころわんのことは、犬ではなくて子どもだと思って描いてるんですよ。犬っぽいお話がくると、間所さんに「やめましょう」って言うんです。いやな絵描きでしょう(笑)

間所さんとは、何年かに1回「ころわん会議」をしているんです。今後のころわんをどうしていこうか、と話し合うんです。「もう全部やっちゃったわよね」とおっしゃることもありますが、「じゃあもう尽きましたか」と聞くと、「そうでもないの」とおっしゃる。だから、前までは毎年出していましたが、今は、2年に1回とか、思いついたときとか、続けられるペースでライフワークとして続けていくのがベストなんじゃないかと思っています。

実はシリーズ化はあまり好きではないんです。いつも新しい絵を描いていきたいと思うと、常に同じ主人公ではつらいものがある。どうしてもパターン化してしまいますからね。ただ、間所さんの場合は幸い、背景や素材を含めて初めてのことが多いんです。1冊1冊、いろんな素材が出てくるから、同じころわんでも毎回新鮮な気持ちで描くことができるんです。新しく出る『ころわんがよういどん!』では、ころわんたちが運動会をやるんですよ。

読み聞かせの心得は“ただ楽しむこと”

読み聞かせの心得は、まず第一に、読み聞かせするとき、文字や数字を教えないこと。読み聞かせっていうのは、教えちゃだめなんです。教えるのは別の機会にして、読み聞かせのときは“ただ楽しむ”ことをおすすめします。

第二に、読み終わったときに感想を聞かないこと。読み終わったときに、お母さんは「どうだった?」と聞いてしまいがちだと思いますが、毎回感想を求められると、それは子どもにとって苦痛になるんですよ。だって、読書感想文を書くために本を読むみたいなものでしょう。感動してもいないのに感動したと書かなきゃいけないような気持ちになる。だから無理強いをしないこと。ただ楽しむ、ということが大切です。

それから、文字が読めるようになっても読んであげてほしいですね。文字が読めるようになっても、最初のうちは一字一字読むことだけに一生懸命になってしまって、読んだ内容を理解するところまでたどりつかないんです。読めた読めたと喜んだりして、全然目的が違くなってしまう。絵本は、お母さんやお父さんの声で読んでもらうことで、数倍楽しめるだろうと思うんです。

読み終わっても、解説したり、「理解した?」って聞いたりしないでくださいね。理解しなくたっていいんです。親子が共に過ごす、その心地いい時間で十分なんですから。勉強より前に、読み聞かせで親子が共に過ごして絆を深めていれば、親子が会話できるようになります。そうすることで、人と話す習慣がつきますし、人を信頼できるようになるんです。子育ては大変ですが、そういった子どもの基礎のところを養うためにも、身を削ってあげてください。身を削るからこそ、信頼感が生まれるんだと思います。このことは、私の子どもたちが大きくなってしまった今ごろ気が付いたんですけどね(笑)


ページトップへ