絵本作家インタビュー

vol.105 絵本作家 きたやまようこさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『ゆうたはともだち』をはじめとする「ゆうたくんちのいばりいぬ」シリーズで人気の絵本作家・きたやまようこさんです。昨年新装版として出版されたデビュー作の制作エピソードや、愛犬のためにとった一年間の育児休暇、絵本に込めた思いなどを伺いました。子育てのヒントも満載のインタビューですよ!
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・きたやまようこさん

きたやま ようこ(北山 葉子)

1949年、東京都生まれ。文化学院芸術科卒業。絵本作家、翻訳家。「ゆうたくんちのいばりいぬ」第1集(あかね書房)で第20回講談社出版文化賞絵本賞、『じんぺいの絵日記』(あかね書房)と『りっぱな犬になる方法』(理論社)で第16回路傍の石幼少年文学賞など、受賞多数。そのほか、主な作品に「おにのこあかたろうのほん」「こぶたのあかちゃん」シリーズ(偕成社)、『りっぱなうんち』(あすなろ書房)などがある。
きたやまようこオフィシャルサイト「うわさのホームページ」 http://kitayama-yoko.com/

愛犬チェスのための一年間の育児休暇

私の小さい頃からの夢は、大きな犬と暮らすこと。あるときハスキー犬を扱っているブリーダーがいると聞いて見に行ったら、一目惚れしてしまって、家族に何の相談もせずにそのまま連れてきちゃったんです。その子が我が家の初代ハスキー犬の“チェス”です。

子犬の頃のチェスは、ものすごくやんちゃで……プラスチック製品をどんどん噛み砕いたり、革張りのソファを壊してしまったり、食事中に飛びついてきたりと、それはもう大変だったんですね。私が仕事で出かけようとしたら、母から置いていかないでくれって泣いて頼まれたりして。それで、どうしようかと悩んで出した結論が、一年間チェスのために育児休暇を取ること。犬は一年で大人になるでしょう。だから一年間だけ仕事を休んで、立派な犬に育て上げようと決心したんです。

ゆうたはともだち ゆうたとかぞく
ゆうたのおかあさん ゆうたのおとうさん

『ゆうたはともだち』『ゆうたとかぞく』『ゆうたのおかあさん』『ゆうたのおとうさん』(いずれもあかね書房)。「ゆうたくんちのいばりいぬ」は、別巻2冊も合わせて全11冊の人気シリーズです

その一年間は、本当に大変でした。毎日話しかけて、いろんなことを教えて、散歩は朝晩1時間半ずつ、長いときは8時間以上も犬と外にいるような生活。連れてこなきゃよかったと思ったことは一度もないけど、自分の時間を全部チェスのために使ってあげてるんだと思うと、なんだか複雑な気持ちになって……。だけど、一年間の育休が終わって仕事に復帰したら、あぁ、私はチェスからなんてたくさんのものをもらったんだろうって、気づいたんです。

子育ても同じだと思うんですよ。子育て真っ最中は本当に大変で、自分が一方的にやってあげてる、みたいな気持ちになってしまうでしょう。でもそれはとんでもないことで、実際は子どもから本当に大事なものをたくさんもらってるんですよね。

当時の自分を振り返って感じるのは、目の前にあることをとにかく誠実に一生懸命やったのがよかったんだろうな、ということ。あのとき休まずに仕事をしながら育てていたら、「ゆうたくんちのいばりいぬ」シリーズはできなかっただろうし、全部中途半端になっちゃってたと思うんですよね。一生懸命やったから、あとからいろんなものがついてきたんです。本当に貴重な一年間でしたね。

絵本を通して自分や他人を知る

りっぱな犬になる方法

▲これを読めばあなたも犬になれる!?『りっぱな犬になる方法』(理論社)

言葉って不思議ですよね。同じ言葉でも、とらえ方によって意味が変わってきたりするでしょう。そこが絵本のおもしろいところでもあるんですよ。同じ絵本でも、読む人によって感じ方は違うし、同じ人でもいつ読むかによって感じ方が変わってくる。どの人もそれぞれの人生を重ね合わせながら読むから、赤ちゃん絵本のような言葉の短いシンプルな絵本でも、奥行きが生まれるんです。

だから、子どもが少し大きくなってくると「もっと字がたくさんある本を読みなさい」なんて言う人もいるけれど、字がたくさんあれば大事なことを伝えられるかというと、必ずしもそうではないんですよね。短い言葉でも大切なことは伝えられると思うし、むしろ短い言葉の中からこそ、いろんなことを感じとれるような読書をしてほしいなと思います。

「ゆうたくんちのいばりいぬ」シリーズでは、犬の目線から家族を描きました。『りっぱな犬になる方法』も、犬のことを書いているようで、実は人のことを書いています。犬を通して人を見るっていうのかな。自分以外のものを観察することで、自分や他人のことをより深く知ることができると思うんです。

だからみなさんには、絵本を通じていろんな視点から見る楽しさを味わってほしいなと思いますね。視点を変えたり、発想をちょっと変えるだけで、同じことでも違う感じ方ができるでしょう。感じ方、考え方ひとつで、つらいときもつらくなくなってくることもあります。それができれば、だいぶ楽になると思いますよ。

日々の暮らしこそ、一生懸命楽しもう!

うわさのようちえん かくれんぼのうわさ

▲幼児雑誌「たのしい幼稚園」に連載中の「うわさのようちえん」シリーズ第1作『うわさのようちえん かくれんぼのうわさ』(講談社)

私の毎日は、いつもオン。オフはないんです。私の絵本はどれも、日々の生活の中から生まれたものばかり。そもそも私、日々の生活がすごく好きなんですよね。だから絵本も、生活の中から自然に生まれてくるのが一番気持ちがいいんです。無理矢理ひねり出すんじゃなくて、自然に出てくるまで待つ。出てこないときは、もういいやって(笑)

ときどき絵本を描きたいという人から、どういう勉強をすればいいかと聞かれることがあるんだけれど、とりあえず一生懸命に生活しなさいって言うんです。一生懸命に生活していれば、その中で絶対におもしろいことがあるはず。それを見つけられないようなら、作家になんてなれないんじゃないかな。わざわざ材料を探して歩くんじゃなくて、どんなものでもおもしろく感じてみる。それが大事なことだと思います。

そしてそれは絵本作家に限ったことではなくて、誰にとっても同じだと思うんですよね。何でもない日常を楽しむことができるってことが一番。だって、毎日が日常なんだから。特別なことなんて、特別なときにしかないんだから。何でもないと思っている日々の暮らしこそ、一番大事にしてほしいですね。

もし何かつらいことがあったら、それをどうやって楽しめるか考えてみるといいですよ。苦労は買ってでもせよ、なんて言われるけれど、苦労はできたらしない方がいい。苦労ばかりだと、ひねくれちゃいますから(笑) 子育てで疲れてしまったときは、絵本を読んだり散歩したりして、うまく発想を変えながら毎日を楽しんでくださいね。


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