絵本作家インタビュー

vol.101 絵本作家 みやこしあきこさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、第17回日本絵本賞で大賞を受賞した話題作『もりのおくのおちゃかいへ』でおなじみの絵本作家・みやこしあきこさんにご登場いただきます。木炭と鉛筆を使ったぬくもりのあるタッチで、さまざまな世界を臨場感たっぷりに描くみやこしさん。絵本づくりで大切にしていることや、新作『ピアノはっぴょうかい』などについて伺いました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・みやこしあきこさん

みやこし あきこ

1982年、埼玉県生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。大学在学中から絵本を描き始め、2009年「ニッサン童話と絵本のグランプリ」で大賞を受賞、『たいふうがくる』(BL出版)で絵本作家デビュー。『もりのおくのおちゃかいへ』(偕成社)で第17回日本絵本賞大賞を受賞。そのほかの作品に『のはらのおへや』(ポプラ社)、『ピアノはっぴょうかい』(ブロンズ新社)がある。
MIYAKOSHI AKIKO WEB http://miyakoshiakiko.com/

きっかけは一冊の絵本との出会い

たいふうがくる

▲「ニッサン童話と絵本のグランプリ」大賞受賞作『たいふうがくる』(BL出版)。台風が過ぎ去ったあとの青空がすがすがしい一冊

絵を描くのは子どもの頃からずっと好きで、小学4年生の文集には「夢は漫画家」と書いていました。高校の頃、親の勧めで美術予備校の講習を試しに受講するうちに、自然と美大に行きたいと思うようになって……ゆくゆくは絵にまつわる仕事ができたらと、美大のデザイン学科に進学しました。

絵本の魅力に気づいたのは、美大予備校に通っていた頃。本屋さんで偶然見かけたユリ・シュルヴィッツの『よあけ』(福音館書店)を見て、びっくりしたんです。絵本といえば、かわいらしい主人公が出てくる子どものための本だと思っていたんですが、『よあけ』はそんなイメージからかけ離れた本でした。詩のような、短編映画のような、だけどやっぱり絵本でしか表現できない美しさがあって…… 私もこんな絵本をつくってみたい、と思うようになったんです。

せっかく絵本をつくるならと、「ニッサン童話と絵本のグランプリ」に応募してみたら、1回目で賞をいただいて。でも、大賞を受賞しないと出版はしてもらえないので、そこまでがんばろうと毎年応募し続けたんです。大学卒業後は印刷会社に勤めながら、イラストの仕事をしたり、絵本をつくったりしていました。

その後、2009年に『たいふうがくる』で念願の大賞をいただいて、絵本として出版されることになったんです。それまでは色紙をコラージュして描いていたんですけど、『たいふうがくる』のときは、台風のあとの晴れ晴れとした空が描きたくて、木炭や鉛筆を使って、空の青以外はすべてモノクロで描きました。木炭は、濃淡でさまざまな表現ができるので、好きな画材ですね。こすったときのグレーの風合いが特に好きです。

モノクロで描いた雪の世界『もりのおくのおちゃかいへ』

もりのおくのおちゃかいへ

▲第17回日本絵本賞で大賞を受賞した話題作『もりのおくのおちゃかいへ』(偕成社)。おつかいの途中でキッコちゃんが迷い込んだのは……?

『もりのおくのおちゃかいへ』は、子どもの頃の体験をもとにつくった絵本です。

絵本の中で、主人公の女の子がお父さんの後ろ姿を追いかけていったら、お父さんじゃなかった……というシーンがあるんですが、私も小さいとき、同じような経験をしたことがあって。家族でスーパーに買い物に行ったとき、父の後ろ姿についていったつもりが、振り向くと違う人だったんです。そのとき感じた怖さは、今もとてもよく覚えています。絵本の中にも、そんな怖さや緊張感を描き込みました。動物たちが一斉にこちらを見るシーンは、自分でも一番気に入っています。

お話をつくる中で最初に浮かんできたのは、ケーキを持った女の子が雪の中を歩いていくシーンと、窓から不思議な館の中を覗き込むシーン。その前後を考えて、お話をふくらませていきました。途中で1年間、夫婦でドイツに遊学したりしていたので、完成まで4年くらいかかったんですけど、南ドイツの森で見た風景は、この絵本に生かされていると思っています。

毎回絵本をつくるときは、縮小版のダミー本をつくるんですが、途中で何度も絵や話の流れを変えたので、このときはダミーが15冊になりました。何度も描き直しながら、自分が納得できる最終形を探っていく感じで進めています。

『もりのおくのおちゃかいへ』は雪の森のイメージがあったので、色はモノクロにして、女の子の帽子と手袋とスカートの赤、髪の毛の黄色だけ色を入れました。髪が黄色なので、いかにも日本人って感じの名前は合わないかなと思って、北欧っぽい響きのある「キッコ」にしました。といっても、特に北欧が舞台と決めたわけではないので、どこか遠いところの不思議なお話として楽しんでもらえたらうれしいですね。

子どもたちとの触れ合いを経て生まれた『のはらのおへや』

のはらのおへや

▲引っ越してきたばかりのさっこちゃんが新しいお友達と出会うまでを描いた『のはらのおへや』(ポプラ社)

『のはらのおへや』は、茂みの中の小さなお部屋のような空間で、女の子たちが出会うお話です。子どもの頃って、そういう秘密の場所にワクワクしたりしますよね。私自身も小学生の頃、そんな風にして遊んでいました。ちょっとした茂みに入って、シートを敷いておままごとをしたり、お菓子を食べたり…… そんな記憶を思い返しながらお話をつくったんです。

ただ、記憶だけを頼りに描こうとすると、細かなことまでは思い出せないので、絵を描く前に知人の保育士さんに頼んで、保育所の子どもたちと一日一緒に過ごさせてもらいました。

一緒に手をつないで公園に行って遊んで、保育所に戻ったら一緒にご飯を食べて……子どもの話し方やしぐさ、視点、体温など、子どもたちと触れ合うことでわかることがたくさんあって、すごく新鮮でした。こういうことは想像だけでは得られないので、とてもいい体験をさせてもらったと思っています。

ピアノはっぴょうかい

▲初めての発表会。舞台袖で緊張するももちゃんが出会ったのは……?『ピアノはっぴょうかい』(ブロンズ新社)

新作の『ピアノはっぴょうかい』では、主人公の女の子を描くにあたって、友達の子どもにモデルになってもらいました。発表会用のドレスやエナメルの靴を買ってきて、その子に着てもらったんです。

スカートのひだの感じや質感までちゃんと描きたかったので、いろんなポーズをとってもらって、たくさん写真を撮りました。ドレスと靴は、できあがった絵本と一緒にその子にプレゼントするつもりです。


……みやこしあきこさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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