絵本作家インタビュー

vol.99 絵本作家 川浦良枝さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、絵本雑誌「MOE」から生まれた人気シリーズ「しばわんこ」でおなじみの絵本作家・川浦良枝さんです。“和”のこころを持つ柴犬・しばわんこが、日本に古くから伝わる和の作法や暮らしをユーモラスに教えてくれる人気作『しばわんこの和のこころ』は、どのようにして生まれたのでしょうか? 今回は【後編】をお届けします。
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絵本作家・川浦良枝さん

川浦 良枝(かわうら よしえ)

1963年、東京都生まれ。武蔵野美術大学短期学部デザイン科卒業。ファンシーグッズのデザイン会社勤務を経て、フリーのイラストレーターに。『しばわんこの和のこころ』は、絵本雑誌「MOE」2000年8月号より連載をスタート。その後NHKでアニメ放送された。主な作品に『しばわんこの和のこころ1・2・3』『しばわんこの和のおけいこ』『しばわんこの今日は佳き日』『しばわんこ 和のお道具箱』『しばわんこの四季の庭』(いずれも白泉社)などがある。

和の世界を描く上で心がけたこと

『しばわんこの和のこころ2 四季の喜び』では、アンティークの着物屋さんを訪れたり、『しばわんこの和のおけいこ』では茶道に挑戦したりしていますが、着つけも茶道も、自分自身とても興味があったので、実際に習っていたんですよ。茶道は今も続けています。自分の趣味がそのまま絵本につながっているんです。

着物は文様が命なので、かなり凝って描きましたね。茶道については、お茶の先生にご協力いただいて、道具を忠実に描くようにしました。茶道って、細かい規則がたくさんあるんですよね。たとえば、お茶碗を持ったときの手の位置とか、器の向き、炉の炭の入れ方など、細やかなところまで気を遣うのが茶道なので、大変でしたが、間違いのないよう描きました。

しばわんこの和のこころ2 四季の喜び しばわんこの和のこころ3 日々の愉しみ
しばわんこの今日は佳き日 しばわんこの和のおけいこ

『しばわんこの和のこころ2 四季の喜び』『しばわんこの和のこころ3 日々の愉しみ』『しばわんこの今日は佳き日』『しばわんこの和のおけいこ』(いずれも白泉社)。大人も子どもも一緒に和の世界を楽しめます

“和”のイメージって、「渋い色」を思われがちですけど、たとえば平安時代の公家の衣装などはとてもカラフルですよね。日本家屋に住む柴犬と三毛猫がモチーフなわけですが、茶色ばかりの絵にはしたくなかったので、お椀を赤くしたり座布団に文様を描いたりと、小物で華やかさを出すようにしました。日本ならではの季節の移り変わりも大事に描いたので、その季節ごとの色合いも楽しんでいただけたらうれしいですね。

今の世の中、趣味や好みが多様化していて、誰もが知っていることが少なくなっている気がするんです。それがあまりにも進むと、みんな孤独になってしまうんじゃないかと思って。老人ホームなどに行くと、認知症の方でも誰でも童謡を歌い始めると歌詞がすらすら出てきたりするんですが、それはやっぱり、脳内にしっかり刻まれているからなんですよね。そういう、みんなの脳内に共通して残るようなものを、「しばわんこ」でも届けていけたらと思っています。

自宅の庭を見ながら描いた『しばわんこの四季の庭』

しばわんこの四季の庭

▲しばわんことみけにゃんこがお庭づくりに挑戦! 園芸初心者にもおすすめの一冊『しばわんこの四季の庭』(白泉社)

「しばわんこ」を初めて「MOE」に掲載したとき、本当にたくさんの反響をいただきました。日本古来の作法をこんな風に紹介するなんて、その手があったか!と驚きましたとか、見せ方は新鮮だけれど内容は“和”ということで、実用書よりも親しみやすいしわかりやすいとか、さまざまな感想をいただいてすごくうれしかったのを、今でもよく覚えています。

昨年出た『しばわんこの四季の庭』では、しばわんことみけにゃんこがガーデニングに挑戦します。ガーデニングは私自身、もともと好きだったんですね。家族の介護などで忙しくて外出がままならない時期があったんですけど、ガーデニングがテーマなら自宅の庭を描けばいいから、取材に行かなくて済むなぁと思って。ビオラやパンジーといった一年草から、トマトやキュウリなどの夏野菜、花の女王・バラまで、さまざまな植物の育て方を描きましたが、どれも自宅で育てているものばかりなんですよ。

“和”の雰囲気からは離れた一冊になりましたが、しばわんこがガーデニングなんて変だ、なんてご意見は出なかったようです。しばわんこファンにはガーデニングが好きな方が多いんじゃないかなって、私は勝手に考えてるんですよ。私自身、家で過ごすのが好きなタイプなんですが、しばわんこが好きな方にはそういう方が多いような気がしています。

絵本の登場人物は、子どもにとって“大切なお友達”

絵本作家・川浦良枝さん

子どもの頃に読んだ絵本や児童書のことって、大人になっても覚えているんですよね。おさるのジョージがこぐまを助けたシーンの絵は今も記憶に残っています。ジョージがベッドで眠る場面なんかも、私もこういうベッドに寝たいなぁなんて思いながら、何度も真似して描きました。

残念ながら今は絶版になってしまっているのですが、ルーマ・ゴッデンの『ふしぎなお人形』という童話も大好きでしたね。何をやっても失敗ばかりののろまな女の子が、おばあさんからプレゼントされたお人形のお世話をするうちにどんどん成長していく、というお話です。女の子がお人形の家を手づくりするところとか、すごく好きで…… なんとなく自分と重ねて見ていたりもしたんでしょうね。

絵本の魅力は、絵本の中の登場人物とお友達になれることだと思うんです。おさるのジョージも『ふしぎなお人形』の女の子も、私にとっては大人になっても忘れない、大切なお友達でした。絵本を読む子どもたちが、そんな素敵なお友達とたくさん出会えるといいですよね。そういうお友達の存在は、子どもにとってとても心強い味方になると思います。

子どもって、すごく敏感で感受性が強いじゃないですか。うれしいこともつらいことも、大人が考える以上に強く感じていると思うんです。ものすごい回復力を持っているので、大人が気づかないうちに立ち直っていることもあるかと思いますけど、つらいときはやっぱりつらいはず…… 絵本には、そういうときの子どもの回復をサポートしてくれる力があるんじゃないかと思います。

絵本を読み聞かせするときは、読み手であるお父さんお母さんご自身も、ぜひ楽しんでいただきたいですね。お父さんお母さんが楽しんでいれば、子どもも自然と楽しめるはずですよ。


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