絵本作家インタビュー

vol.90 絵本作家 西巻茅子さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、150万部を越えるロングセラー絵本『わたしのワンピース』の作者、西巻茅子さんです。子どものときに読んだ『わたしのワンピース』を今また親子で楽しんでいる、という方も多いはず。これほどまでに多くの読者を魅了する絵本は、どのようにして生まれたのでしょうか。鎌倉のご自宅兼アトリエでお話を伺ってきました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・西巻茅子さん

西巻 茅子(にしまき かやこ)

1939年、東京都生まれ。東京芸術大学美術学部工芸科卒業。『ちいさなきいろいかさ』(文・もりひさし、金の星社)で第18回産経児童出版文化賞、『えのすきなねこさん』(童心社)で第18回講談社出版文化賞など、多くの賞を受賞。主な絵本に『わたしのワンピース』『ふんふんなんだかいいにおい』『だっこして』『あいうえおはよう』(こぐま社)、『かささしてあげるね』(文・はせがわせつこ、福音館書店)、『はけたよ はけたよ』(文・神沢利子、偕成社) などがある。

30年を経て生まれ変わった『もしもぼくのせいがのびたら』

もしもぼくのせいがのびたら

▲1980年の初版から30年を経て生まれ変わった『もしもぼくのせいがのびたら』(こぐま社)。画像・上は、初版の表紙

1980年に出た『もしもぼくのせいがのびたら』は、子育て真っ最中の頃、どんどん成長していく息子をモデルに描いた絵本です。細い線で描いてみたくなってそうしたんだけれど、ちょっとスマートにつくりすぎちゃったんですね。もっと大きくなりたい!って気持ちを描いたお話なのに、絵のエネルギーが足りてなくて、お話と合ってなかったんです。

でも、お話が好きな人が多いと聞いていたから、それなら描き直そうってことになって。それで去年、初版から30年を経て、新たに出版されることになったんです。今度は水彩で、明るく元気いっぱいに描きました。

もう45年近く絵本の仕事をしているけど、今も大切にしているのは“いい絵”を描くということ。“いい絵”ってどんな絵なの?って思うかもしれないけど、歌にたとえるとわかりやすいかもしれませんね。上手いけど心に残らない歌もあれば、上手くないのになぜか心に響く歌もあるじゃないですか。やっぱり心と関係があるんですよ。

それは絵の場合も同じで、どうやって絵の中に心を注ぎ込むか、そしてその心を受け手がどこまで感じとれるか、そこで“いい絵”かそうでないかが決まります。上手い絵=いい絵、ではないんですよね。

だから私は、上手い絵になってしまわないように、画材とか描き方とかをよく変えるんです。毎回同じような方法で描いていると手慣れてしまうけれど、初めてのことに挑戦するとワクワクするでしょう。そんな風に、いつも新鮮な気持ちで絵を描いていきたいなって思っています。

わが子への読み聞かせで気づいた、子どもの“受け取る力”

絵本作家・西巻茅子さん

私は子どもが生まれる前から絵本の仕事をしていたんだけれど、その後、男の子と女の子を年子で産んで、子育てをしながら絵本の仕事を続けました。

読み聞かせは子どもが5、6歳になるまで、毎晩続けてましたね。私が読みたい絵本と、上の子が読みたい絵本、下の子が読みたい絵本の3冊を読むようにしていたんです。そんな習慣を重ねるうちに気づいたのは、子どもの“受け取る力”です。

子どもの発信力については、私は以前から知っていたんです。お絵描き教室で、子どもたちの絵をたくさん見てましたから。でも、子どもってそれだけじゃなかったんですね。表現として外に出たものを受け取る力もあるんだと、うちの子たちを見ていて確信したんです。

子どもたちが気に入るのは、必ずしも大人が評価する絵本ではないんですね。きっと子どもたちは、大人には受け取れない何かを絵本から感じとっているんだと思うんです。これは、子育てを経験したからこそ気づいたことですね。

だからといって、自分の子どもが喜びそうな絵本をつくろうとしても、うまくはいかないんですけどね。それも、子育てをしながら絵本づくりを続けていくうちに経験したことです。やっぱり私は、私自身が描きたいと思うものを描いていくしかないんだ ―― そう気づいてからは、原点に戻って、私なりの絵本を描くようになりました。

子育ては一生のうちで一番楽しい経験

だっこして

▲ミーテでも大人気! 西巻茅子さんの赤ちゃん絵本『だっこして』(こぐま社)

子育てに追われて大変だった頃、近所の奥さんに「あなた今、子育て盛りよ」って言われたことがあるんです。そのときはぴんとこなかったけど、今から思うとまさにそうなのね。睡眠時間も少なかったりして、肉体的には一番大変ではあったけれど、一生のうちで一番楽しかったのは、やっぱり子育てをしていた時期。すごくリアルに生きてたって感じが残ってるんですよ。

子育て中のみなさんには、そんな一生で一番楽しい時期を、焦らず過ごしてほしいなって思います。子育てをしていると、ついつい先ばかり見てしまいがち。まだ赤ちゃんなのに幼稚園の心配をしたり、幼稚園のうちから小学校に上がってからのことを心配したり…… でも、今が充実していれば、そんな心配しなくていいと思うんです。その日その日を生きていけば、それで十分。親世代と離れて暮らしている人が多いから、いろいろと不安になりやすいかもしれないけれど、どこででもお友達をつくって、楽しんで子どもを育てられればいいですよね。

私はこれからも、心を込めて絵本をつくります。私が心を込めてつくった絵本を、お母さんが子どものために選んでくれたとき、そこにお母さんの心が入るのよね。そしてそれを声に出して読んであげたとき、お母さんの心がまたさらに入っていく。子どもはその本に込められた心を、全部ひとつのこととして受け止めるんです。

だから、本を読むとお利口になるとか、そういうやましい心は持たずに、純粋に絵本を楽しんでほしいですね。お母さんが子どものために選んだ絵本なら、何だっていいんです。お母さんが子どものことを大事に思う心が一番大事だと思いますよ。


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