絵本作家インタビュー

vol.86 絵本作家 和歌山静子さん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、寺村輝夫さんの「王さま」シリーズの絵のほか、『てんてんてん』『ひまわり』など、赤ちゃんから楽しめる絵本の数々を生み出してこられた絵本作家・和歌山静子さんです。絵本の仕事を手がけて今年で45年となる和歌山さんの絵本にかける思いとは? 人気作の制作エピソードや、アジア絵本ライブラリーについても伺いました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・和歌山静子さん

和歌山 静子(わかやま しずこ)

1940年、京都市生まれ。武蔵野美術大学デザイン科卒業。日本児童出版美術家連盟会員。1980年『あいうえおうさま』(文・寺村輝夫、理論社)で絵本にっぽん賞、1982年『おおきなちいさいぞう』(文研出版)で講談社出版文化賞絵本賞受賞。主な作品に「王さま」シリーズ(文・寺村輝夫、理論社)、『おかあさんどーこ?』『ぼくのはなし』(童心社)、『てんてんてん』『ひまわり』(福音館書店)、『おーいはーい』(ポプラ社)などがある。神奈川県逗子市の自宅で「アジア絵本ライブラリー」を運営している。

私にしか描けない赤ちゃん絵本を

※和歌山静子さんは2024年1月8日にご逝去されました。故人のご功績を偲び、心からご冥福をお祈りいたします。

私の初めての赤ちゃん絵本は、1970年に寺村輝夫さんと一緒につくった「たまごのほん」シリーズの『たたくとぽん』です。当時は、赤ちゃん絵本はまだ少ししかない時代だったんですね。寺村さんが「僕たちのやったことは、ちょっと早すぎたね」とおっしゃっていたのを、今でも覚えています。

当時の私は、自分の絵にあまり自信がなかったんです。「これでいいのかしら」と迷いながら描いていたから、その迷いが絵にも出てしまったようで、「たまごのほん」シリーズはその後、絶版になってしまいました。

たたくとぽん てんてんてん
おかあさんどーこ? おーいはーい

▲和歌山静子さんの手がけた赤ちゃん絵本の数々。『たたくとぽん』(文・寺村輝夫、あかね書房)、『てんてんてん』(福音館書店)、『おかあさんどーこ?』(童心社)、『おーい はーい』(ポプラ社)

でも、「王さま」シリーズなどさまざまな絵本の仕事を続ける中で、徐々に自分らしい絵というものが見えてきたんですね。より太い線で力強く描くようになったんです。そんな私の絵は、シンプルで直球勝負の赤ちゃん絵本と相性がぴったり。『てんてんてん』をつくった1998年頃から、本格的に赤ちゃん絵本の分野で描くようになりました。

絶版になっていた「たまごのほん」シリーズはその後、絵を描き直して、今は改訂新版として出版されています。見比べてみると、線の力強さや勢いが全然違うんですよ。

『おーいはーい』も、そんな風にして描き直した絵本のうちの一冊です。「おーい」と呼ばれたら「はーい」と答える、そんなシンプルなやりとりを、楽しく描くことができました。

編集者とのやりとりの末に生まれた『ひまわり』

ひまわり

▲縦開きで、ひまわりがぐんぐん成長していく様子を表現した『ひまわり』(福音館書店)

絵本をつくる上で、編集者の協力は欠かせません。机の前で一人で考えているよりも、編集者といろいろ話をしていると、いいアイデアが出てくるんです。

『ひまわり』も、編集者とのやりとりがあったからこそできあがった絵本です。この絵本はもともと、もっと長い文章で考えていたんですよ。「おーいおひさま、ぼく、おひさまのような花になるからね」みたいな感じで。でも、なんだかおもしろくないなと思って、編集者と話していたんです。

文字のない絵本にするという案も出たんだけれど、それだときっと、読み聞かせするお母さんたちが「ひまわりの種が出てきたね」「雨も降ってきたわね」なんて、いちいち説明をする絵本になりそうだなと思ったんですね。それで、「何かもっとシンプルに、ひまわりがどんどこどんどこ育つ様子を表す言葉はないかしら」と言ったら、「じゃあその『どんどこ』でいきましょう!」って。それで、「どんどこ どんどこ」という言葉だけで進んでいく絵本ができあがったんです。

当初は最後のページまで「どんどこ」と続く予定だったんですけど、最後のひまわりが咲くページは「どん」にしました。これも、編集者と話すうちに出てきたアイデアなんですよ。

編集者とは毎回じっくり話すので、3時間ぐらいあっという間に過ぎてしまいます。いろんな話をするので遠回りになってしまうこともあるんだけど、それも無駄なことじゃないんですよね。遠回りしているうちに、ひょこっとアイデアが出てくることがあるから。どの絵本もそうやって、編集者と卓球のラリーみたいに何度もやりとりをする中で、研ぎ澄まされてできあがったものなんです。

絵本は心を育てる大切な栄養素

絵本作家・和歌山静子さん

私は年に数回、多いときは年に5回くらい中国に行くんです。中国で絵本の啓蒙活動をしている友人と一緒に、小学校で絵本や紙芝居の読み聞かせをしたりしているんですけど、子どもたちの反応はどこの国でもほとんど変わりませんね。とっても素直に、楽しんでくれるんですよ。

でも残念なことに、中国には、絵本に親しんでいる人がまだまだ少ないんですね。だから中国のお母さん方には、よくこんな話をするんです。

「みなさんは今、お子さんを一生懸命育てていらっしゃると思います。丈夫な体になるようにと、おいしい料理をつくったり、頭がよくなるようにと、勉強の後押しをしたりしていますよね。体と頭はそれでどんどん発達していくけれど、それじゃあ、心はどうしますか?

人間の体の中で、心はとても大事なものです。その心を育てるのが絵本だと、私は思うんです。

絵本の中には、読んでいて涙が流れてくるようなお話もあれば、大笑いしてしまうようなお話もあります。絵本はそうやって、子どもの心に届くもの ―― いわば心を育てる大切な栄養素なんです」

こんな話をすることで、中国の方たちにも、もっと絵本の大切さに気づいてもらえたらいいなぁと思っています。

その点、日本には絵本が好きなお母さん、お父さんがたくさんいらっしゃいますよね。読み聞かせを始めたばかりの頃は、なかなか興味を示してくれないって悩んでしまうこともあるかもしれないけれど、心配することはありません。子どもは、お母さんやお父さんのひざの上に抱っこされているだけで、幸せなんですから。ぬくもりを感じながら、やさしい声を聞く…… それを繰り返すうちに、いつのまにか絵本に興味を持つようになるはずですよ。


……和歌山静子さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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