絵本作家インタビュー

vol.79 絵本作家 なばたとしたかさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『こびとづかん』で人気の絵本作家・なばたとしたかさんです。独特の“コビト”ワールドで、子どもから大人まで幅広い層を魅了するなばたさんに、少年時代の思い出からコビト誕生の経緯、コビトにかける思いまで、じっくりと伺いました。コビトの魅力満載のインタビュー、キーワードは「想像力」です!
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・なばた としたかさん

なばた としたか

1977年、石川県生まれ。イラストレーター、絵本作家。主な作品に『こびとづかん』『みんなこびと』『こびと大百科』『いーとんの大冒険』(いずれも長崎出版)などがある。独特のコビトの世界は、子どもから大人まで幅広い層に反響を呼び、グッズやDVDにもなって人気を集めている。
こびとづかんホームページ http://kobito-dukan.com/

図鑑が大好きだった少年時代

『こびとづかん』小冊子

▲イベントで500部が完売したという手づくりの小冊子。これをもとに絵本『こびとづかん』がつくられました

僕は石川県の出身なんですが、地元は自然に恵まれたところだったので、子どもの頃は毎日、外で遊んでいました。虫捕りとか、大好きでしたね。

絵本を読んだ記憶はあまりないんですけど、図鑑には夢中になりました。昆虫図鑑や動物図鑑、恐竜図鑑など、シリーズで買ってもらった図鑑が家にあったんです。それをじっくり眺めるのが大好きで。実はその図鑑、いまだに手もとにあるんですよ。小学生の頃の落書きとかもそのまま残ってて、さすがにもうぼろぼろなんですけど、今もその図鑑を見て参考にしています。

絵を描くのも子どもの頃から好きで、家でも学校でもよく描いてました。ただ中学・高校時代は、暗いやつだと思われるのがいやで、ぱたっと描かなくなってしまって。でも、高校3年のときに似顔絵を描く機会があって、久しぶりに描いたら、そういえば俺、絵を描くの好きだったなって思い出したんです。まわりのみんなも喜んでくれたので、これはいいなと思って、また絵を描くようになりました。

その後は地元のデザイン専門学校に進んで、卒業後は絵を描きながら、額縁や画材を扱う店で働くようになりました。それから6年、特にこれといったチャンスが訪れることもなく日常が過ぎていって…… 待ってたらだめだ、自分で動かないとって思うようになったのが、26歳の頃でした。

それで、『こびとづかん』のもととなる小冊子を500部、手づくりして、東京のアートイベントに出品したんです。全部売れたら出版社に持っていこうと思っていたら、割とすんなり完売して。いくつかの出版社に持ち込んだ結果、長崎出版の編集者の目に留まって、絵本にすることができました。

コビトは、子どもの頃からの思いを具現化させたもの

こびとづかん

▲“コビト”シリーズ第一弾『こびとづかん』(長崎出版)

僕は子どもの頃から、すごい怖がりだったんです。誰もいない2階に一人で上がるのが怖かったり、ちょっとした物音に敏感に反応してしまったり…… その怖さを紛らわすために、いろいろと想像するようになったんです。きっと小人みたいなかわいいやつらが、上で何かやってるんだ ―― そんな風に思い込むと、安心できたんですよね。

そういう思いを、大人になってから具現化させたのがコビトです。コビトというと、一般的に最初にイメージされるのは“七人のこびと”ですよね。でも、ああいう炭坑のおじさんみたいなのは違うよなと感じていて。もっと、昆虫や動物と同じような感じで、ひとつの生き物としてつくれたらおもしろいんじゃないかなと思ったんです。それで、いろいろと形を想像しながら、まずは粘土でつくってみました。そうしたら、こんな形になったんです。

最初は粘土でつくったコビトで標本をつくろうと思っていたんですけど、いざ額に入れてみたら、なんだかすごくかわいそうになっちゃって。それで、標本にするのはやめて、立体のコビトを見ながら絵を描いていくことにしました。

コビトの見た目や特徴には、子どもの頃から「あれって何なんだ?」と不思議に思っていたことを、いろいろと盛り込みました。たとえば、赤い羽根募金の赤い羽根って何の羽根なんだろうとか、トイレットペーパーを三角折りしてるのは誰なんだろうとか、そういうのをコビトのしわざにすることで、いろんな種類のコビトがばーっと一気にできあがっていったんです。

老若男女に人気に! キモカワイイ“コビト”の世界

最初につくった『こびとづかん』のもととなる小冊子の内容は、コビトの紹介だけだったんですが、絵本にするにあたって、全体をまとめるストーリーをつけました。ストーリーづくりにはかなり苦労しましたね。抜け殻を見つけるってところを考えついたら、どどどっと流れが決まったんですけど、それまでに結局1年半ぐらいかかりました。

クサマダラオオコビト、カクレモモジリ、リトルハナガシラ、ホトケアカバネ

▲左からクサマダラオオコビト、カクレモモジリ、リトルハナガシラ、ホトケアカバネ。現在、全部で31種類のコビトが発見されているそうです。詳しくは こびとづかんホームページをチェック!

僕自身がもともとつくりたかったのは、『こびと大百科』のような図鑑タイプの本。でも、一番最初に出したのが『こびとづかん』のようなストーリーのある絵本だったのは、よかったと思います。物語があると、その世界に入っていきやすいですからね。『こびと大百科』を最初に出していたら、ここまで売れることはなかったんじゃないかなと思っています。

とはいえ、発売当初は書店に置いてもらうことすら難しかったみたいで…… こういう絵なので、気持ち悪がられちゃったんでしょうね(笑) でもおもしろがってくれる書店員さんがばーんと平積みしてくれて、20代の女性あたりを中心に徐々に口コミで広まっていったんです。

『こびと大百科』を出した頃には、子どもからもたくさんお便りをもらうようになりました。サイン会では、おばあちゃんが一人で並んでくれていることもあって…… 年齢層が幅広くて、自分でもびっくりしています。

コビトは、今のところ31種類。個人的に思い入れの強いのは、クサマダラオオコビトですね。やっぱり一番最初に見つけて、名前をつけたコビトなので。みんなに人気があるのは、圧倒的にカクレモモジリ。それに続いて人気があるのが、リトルハナガシラ、ホトケアカバネあたりです。

おもしろいのは、地域によって人気のコビトにバラつきがあること。名古屋ではカワコビトが人気だったり、沖縄ではツチノコビトが人気だったりして、え? これが人気なの!?って驚きました。不思議ですよね。


……なばたとしたかさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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