絵本作家インタビュー

vol.77 絵本作家 武内祐人さん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『おでこ ぴたっ』などの作品でおなじみの絵本作家・武内祐人さんです。絵本以外にも、イラスト、壁画、雑貨など、さまざまな形で活躍されている武内さん。こちらも思わずにっこりしてしまう、笑顔あふれる作品の数々は、どのようにして生まれたのでしょうか。現役子育てパパならではのお話も伺いましたよ。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・武内祐人さん

武内 祐人(たけうち よしひと)

1969年、大阪府生まれ。京都市立芸術大学プロダクトデザイン専攻卒業。イラストレーター、絵本作家。オリジナルのイラスト雑貨の企画、幼稚園や病院の壁画イラストなども手がける。“笑顔”をテーマに描いた動物や子どもたちのイラストで人気を集める。主な絵本に『おでこ ぴたっ』『おはな つんつん』『おててたっち』(くもん出版)、『まってまって』『プララのとんねるぶっぶー』(大日本図書)などがある。
武内祐人公式サイト「アイボリー」 http://www.ivory1.com/

“笑顔”をテーマに描き続ける

武内祐人さんのイラスト

▲人気のポストカード。“I wish you are always smiling.”というメッセージが描かれている

絵を描くのは、子どもの頃から好きでした。工作も好きで、いろんなものをつくってましたね。学校の図工や美術も得意で、かなり早いうちから自分はそういう方面に進むんだという気がしていました。

学生時代はプロダクトデザインを専攻していたので、ときどき趣味でイラストを描く程度だったんですけど、その頃からなんとなく、イラストレーターになりたいという気持ちがあったんでしょうね。大学卒業後は会社勤めをしていたんですけど、あるときふと「やっぱりイラストレーターになろう」と思い立ったんです。それで会社を辞めて、絵を描き始めました。

“I wish you are always smiling.(いつも笑顔でいてくれるように)”をテーマに描き始めたのは、7、8年ほど前から。初めの頃は特にテーマもなく、かわいいイラストが描けたらという思いで取り組んでいたんですけど、長い目で考えてみたとき、かわいい絵だけではそのうち飽きられるだろうなと思ったんですね。何か自分の中に大きなテーマを持って、それを伝えるために描くべきだと思うようになったんです。

何をテーマに描こうかと考えたとき、思い浮かんだのが“笑顔”でした。“笑顔”ってものすごくわかりやすいじゃないですか。でも、簡単に描けるかというと、実はすごく難しい。そこがいいかなと。それ以降は、展覧会や壁画制作、ライブペインティング、グッズ制作、絵本など、すべて“笑顔”をテーマに描き続けています。

親子の触れ合いのための絵本『おでこ ぴたっ』『おはな つんつん』『おててたっち』

世界で一番美しい笑顔は、子どもの笑顔。子どもの笑顔ほどきれいなものはないと、僕は思っているんです。そんな世界一の笑顔のためにつくった絵本が、『おでこ ぴたっ』『おはな つんつん』『おててたっち』のシリーズです。

この絵本をつくるにあたって最初に考えたのは、子どもはどんなときに一番笑顔になるのかということ。それはやっぱり、親と楽しく触れ合っているときだと思ったんです。だから、親子のコミュニケーションツールとして使ってもらえるような絵本を描きたいなと考えていました。

おでこ ぴたっ
おはな つんつん
おててたっち

▲赤ちゃんから楽しめる、親子の触れ合いのための絵本『おでこ ぴたっ』『おはな つんつん』『おててたっち』(いずれもくもん出版)

僕には子どもが2人いるんですけど、この絵本をつくっていたとき、下の子がちょうどこの絵本に出てくる子と同じくらいの年齢だったんですね。それで、子どもとの触れ合いのためにどんなことをしているかって、うちの奥さんに聞いてみたんですよ。そうしたら、“おでこ ぴたっ”“おはな つんつん”みたいなことをすると喜ぶよ、とのことだったので、絵本にそういったアクションを取り入れました。僕自身は、それをやっているところを実際見たこともなければ、やったこともなかったんですけどね(苦笑)

このシリーズには、お父さんも登場させました。僕と同じく、こういう親子の触れ合いを経験していないお父さんもいると思うんですけど、この絵本がきっかけになって、もっと子どもと触れ合うようになってくれたらいいなと思っています。

どう感じるかは、見てくださる方の自由

まってまって

▲好奇心旺盛なひよこちゃんの姿が愛らしい絵本『まってまって』(大日本図書)

僕はいつも、展覧会などに出す作品には、タイトルをつけないんです。なぜかというと、タイトルがあると僕自身の思いが伝わりすぎてしまうような気がするから。できるだけ、見てくださる方それぞれに自由に想像してもらいたいっていうのが、もともとコンセプトとしてあるんです。絵本の場合、さすがにタイトルはつけますけど、何をどう感じとるかは、見る人の自由。それぞれにいろんなことを感じとってもらえればいいなと思って描いています。

もちろん僕自身、絵の中にいろいろと思いは込めているんです。でもその思いというのは僕だけのものであって、僕は別に、作品を通じてその思いを伝えたいというわけではないんです。だから、ときどき展覧会などで「これはどういう思いで描かれましたか?」「この2人はどんなお話をしているんですか?」と聞かれることがあるんですけど、「僕にもわかりません」と答えています。

同じ人でも、日によって感じ方が変わることもあるんですよね。僕自身、自分が描いた絵なのに、あれ? 今日はちょっと違って見えるな、なんてことがあるんですよ。感じ方は本当に人それぞれで、同じ絵を見て、楽しそうに笑ってらっしゃる方もいれば、涙を流されている方もいる。そういうのを見ると、僕の作品が、みなさんの普段の生活や人生とちょっとリンクして、それぞれ何かを感じてくださったんだなと感じられて、すごくうれしいです。

絵本についても、好きなように読んでいただければいいなと思っています。それぞれの親子の中でのイメージがあると思うので、それを大切にしてほしいですね。


……武内祐人さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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