絵本作家インタビュー

vol.74 絵本作家 さこももみさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、人気シリーズ「こんなときってなんていう?」の絵や、『まんま』『ねんね』などの幼児絵本でおなじみの、さこももみさんです。さこさんの描く子どもたちは、洋服はもちろん表情やしぐさまでとってもキュート! 新作『さよなら ようちえん』の制作秘話やご自身の子育てなど、たっぷりと伺いました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・さこももみさん

さこ ももみ(佐古 百美)

1961年、東京都生まれ。東京学芸大学美術教育学科卒業。2年間の私立小学校教員を経て、イラストレーター、絵本作家に。主な作品に「こんなときってなんていう?」シリーズ(文・たかてらかよ、ひかりのくに)、「イーノとダイジョブのおはなし」シリーズ、『ねんね』『まんま』『さよなら ようちえん』(講談社)、『へんしん! ぱんやさん』『とりのうた』(教育画劇)、「ペコルちゃん」シリーズ(くもん出版)などがある。

卒園を迎える子どもたちへ『さよなら ようちえん』

『さよなら ようちえん』は、幼稚園を巣立つ子どもたちを描いた絵本です。

卒園の様子だけではなくて、年長さんの1年間をぎゅっと凝縮して描きました。でも、ただの行事の羅列にはしたくなかったので、行事そのものよりも、子どもたちにスポットを当てるようにしたんです。幼稚園にはいろんな子がいて、それぞれのいいところがあるっていうのが伝わる内容になったかと思います。

最初に出てくる、「お弁当がそばにあるとお母さんが一緒にいるみたいで、ちっともさびしくありません」というエピソードは、私の娘が幼稚園に入りたてのときに実際に言ったことなんですよ。そんな懐かしい思い出も織り交ぜながらお話をつくっていきました。

さよなら ようちえん

▲卒園までの日々と卒園式の様子を描く『さよなら ようちえん』(講談社)。卒園の記念に贈りたい絵本です

最後に出てくる卒園式のシーンでは、ハンカチで涙をぬぐうお母さんたちも描いたんですけど、卒園のときって本当に、ほとんどのお母さんが泣いちゃうんですよね。私もそうでした。この絵本をつくるにあたって、私の子どもたちが通った幼稚園の卒園式を見学させていただいたんですけど、そのときも編集者さんと2人で、ぐしゅぐしゅと泣いてしまって……(笑)

よその子の卒園式なのにそれほど泣いてしまったのは、やっぱり何よりも、子どもたちがかわいいから。卒園のときを迎える子どもたちを見ていて、思わずわが子を見守る母親の気分になってしまったんでしょうね。

それから、先生のお話もとってもよかったんです。「小学校に行ってもあなたたちなら大丈夫!」と言って送り出すのではなくて、「あなたたちは弱虫で泣き虫で、おこりんぼ。だけど先生は、そんなあなたたちのすべてが大好きです。だから、小学校でつらいことがあったら、いつでも帰っておいでね」というようなお話をされたんですね。

小学校という新しい場所に行くのは、子どもにとって不安なことでもあると思うんです。そんなときに「しっかりしなさい!」「名前ぐらい書けるようになってなくちゃだめよ!」なんてプレッシャーを与えるのではなくて、あたたかく後押しをしてあげられたらいいですよね。

大切にしよう ぼろぼろになるまで読んだ絵本

絵本作家・さこももみさん

子どもたちが小さい頃は、毎晩絵本の読み聞かせをしていました。『じごくのそうべえ』(童心社)をエセ関西弁で読んだりとか、『うんちしたのはだれよ!』(偕成社)の「らったったったった」を何度も繰り返して大笑いしたりとか。いろんな思い出があります。

私自身も、子どもの頃はよく父に本を読んでもらったんですよ。岩波書店の絵本シリーズぐらいしかなかったんですけど、読んでとせがむと繰り返し読んでくれて。ときには父がつくったお話を聞かせてくれることもありました。

そのときの絵本はずっと捨てずにとっておいてくれていたので、お嫁に行くときに三姉妹で分けたんです。テープで補強してあったり、いたずら書きしてたりするんですけど、そんなぼろぼろのところがまたいいんです。柱の傷じゃないですけど、見ていてとても懐かしく思えて。ぼろぼろになった分だけ、絵本を読んだときの思い出がプラスされて、かけがえのないものになっていくんですよね。

私が子どもたちのために買った本も、今も大切にとってあります。結婚するときに持っていくんじゃないかな。みなさんも、たとえぼろぼろになってしまっても、絵本は捨てずにとっておくといいですよ。いつかまた、子どもの頃に何度も読んだ絵本を手にとって、懐かしむ日が来ますから。私の描いた絵本も、そんな風にぼろぼろになるまで読んでもらえたらうれしいですね。

大変な時期も、笑っていれば乗り切れる!

たかちゃんの ぼく、かぜひきたいな

▲さこももみさんの新作絵本『たかちゃんの ぼく、かぜひきたいな』(佼成出版社)。好奇心いっぱいのたかちゃんが起こす、ほほえましい騒動とは…!?

ときどき講演会などの依頼をいただいて、親御さん向けに話すことがあるんですね。たいてい、うしろの方では小さな子どもたちがわいわい遊んでたりするんですけど、大きなスクリーンに絵を映しながら絵本の読み聞かせを始めると、とたんにみんながこっちを真剣に見て、しーんとなるんです。で、読み聞かせが終わると、またざわざわざわ……(笑) 子どもたちのこんな様子を見ていると、絵本の力を感じますね。

絵本って、内容も大事かもしれないですけど、それ以前に、お母さんやお父さんが子どものために時間を割いて読む、そのこと自体が子どもにとってすごくうれしいことだと思うんですよ。だから、どんな内容のものでもいいからとりあえず絵本を手にとって、おひざの上で読んであげるといいんじゃないかなと思います。

子育ては思うようにいかないことが多くて本当に大変!と感じている方、たくさんいらっしゃると思います。でも、とにかく笑ってたらいいと思うんですよ。笑っていれば、イライラもモヤモヤも吹っ飛んでいくはずですから。乗り越えられない試練はこないので、これをクリアすればもっとたくましくなれる!って信じて、子どもとの時間を楽しんでほしいですね。


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