絵本作家インタビュー

vol.74 絵本作家 さこももみさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、人気シリーズ「こんなときってなんていう?」の絵や、『まんま』『ねんね』などの幼児絵本でおなじみの、さこももみさんです。さこさんの描く子どもたちは、洋服はもちろん表情やしぐさまでとってもキュート! 新作『さよなら ようちえん』の制作秘話やご自身の子育てなど、たっぷりと伺いました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・さこももみさん

さこ ももみ(佐古 百美)

1961年、東京都生まれ。東京学芸大学美術教育学科卒業。2年間の私立小学校教員を経て、イラストレーター、絵本作家に。主な作品に「こんなときってなんていう?」シリーズ(文・たかてらかよ、ひかりのくに)、「イーノとダイジョブのおはなし」シリーズ、『ねんね』『まんま』『さよなら ようちえん』(講談社)、『へんしん! ぱんやさん』『とりのうた』(教育画劇)、「ペコルちゃん」シリーズ(くもん出版)などがある。

専業主婦からイラストレーター、絵本作家に

こんなときってなんていう? おそとであそぼう こんなときってなんていう? おうちのなかで

▲たかてらかよさんとの人気シリーズ「こんなときってなんていう?」。『おそとであそぼう』『おうちのなかで』(ひかりのくに)

大学卒業後2年間、東京の私立小学校で図工の先生をしていたんですが、結婚を機に広島に引っ越して、専業主婦になりました。絵を描いたり工作したりというのが昔から好きだったので、子どもが生まれてからは、子どものためにパズルなどの手づくりおもちゃをよくつくっていたんです。

上の子が2歳になるちょっと前のことなんですが、大学時代の友達が広島に来て、私のつくったパズルを写真に撮って帰ったんですね。彼女は出版社の編集部に勤めていたので、それを機にイラストの仕事を頼まれるようになったんです。

最初は3カ月に一度、10カットか20カット描くくらいのペースだったんですが、続けているうちにいろいろと依頼を受けるようになりました。それがあるとき、ドリルの表紙のイラストを見たという編集者さんから突然、「絵本を描きませんか?」という電話をいただいたんです。文章はすでにできていて、絵はまだ絵本を描いていない人に頼みたいと考えていたらしくて。それでできあがったのが、たかてらかよさんとの「こんなときってなんていう?」のシリーズです。

絵本の絵を描くのは初めてのことでしたし、子どもはもう高校生になっていて、しばらく絵本から離れてしまっていたので、作者のたかてらさんや編集者さんからもいろいろと意見をいただきました。あまりキャラクター化しすぎないようにと心がけながら、幼児期の子どものかわいらしさを強調して、2.5頭身ぐらいの感じで描きました。読者の方からはよく「うちの子にそっくりです」ってお声をいただくんですよ。

絵本についてはキャリアが短いので、まだ勉強の途中なんですけど、あまり若いうちだったら描けなかったとも思うんです。だから、いいタイミングで絵本の仕事を始められたなと思っています。

絵本の中に描く、おおらかな子育て

小さな子向けの絵本を描くことが多いのは、低年齢のお子さんをお持ちの編集者さんが多いから。おむつがとれるようにとか、食べ物の好き嫌いがなくなるようにとか、夜になったらちゃんと寝るようにとか、ご自身の生活と密着したリクエストをいただくことが多いんですよ。

ねんね ゆっくとすっく トイレでちっち
ペコルちゃんのたべものでんしゃ ペコルちゃんのおでかけスイッチ

▲寝かしつけの絵本『ねんね』(講談社)、楽しいトイレがいろいろ登場する『ゆっくとすっく トイレでちっち』(文・たかてらかよ、ひかりのくに)、2歳前後の子どもたちの世界を優しい視線で描いた『ペコルちゃんのたべものでんしゃ』『ペコルちゃんのおでかけスイッチ』(くもん出版)

子育て中のお母さんも、そんな期待を抱きながら絵本を選ばれたりすると思うんです。でも、ときにはそれが子どもにとってプレッシャーになることもあるんですよね。「ママがまたあの絵本を持ってきた。僕がまだトイレができないからだ」なんて、絵本を見て子どもがつらい気持ちになってしまったり……。そういうのはちょっと悲しいので、私はなるべくしつけのためだけではなく、純粋に楽しんでもらえる絵本をつくりたいと思っているんです。なので、『ゆっくとすっく トイレでちっち』では、ちょっと現実離れしたトイレを描くことで、子どもも楽しく読めるように工夫しました。

私が子育て中に心がけていたのは、おおらかな気持ちで楽しもう、ということ。子どもって、親の意に沿わないことを結構するじゃないですか。でも、それにいちいち目くじらを立てていたら、どんどん苦しくなってしまう。親の思った通りにさせることの方が大変ですからね。だったら一緒に楽しんだ方がいいや!って思って。

うちの子はよく、空っぽの大きな段ボールがあると中に入って遊んでいたんですね。なので、大きな段ボールはできるだけつぶさずにとっておいてました。出られなくなってあたふたしているのを、あははと笑って見ていたりして(笑) あと、子どもと一緒に料理やお菓子づくりをしたのも、楽しい思い出です。子どもと一緒にやると予想外のことが起きるので、とってもおもしろいんですよ。

「ペコルちゃん」のシリーズは、そんな風におおらかな気持ちで子育てを楽しんでほしいなという思いから生まれた絵本です。子どもが子どもらしいいたずらをするのは、本当に一時期のこと。怒らずに、おおらかな気持ちで一緒に楽しめたらいいですよね。

詩的な表現に合う絵を描いた『とりのうた』

とりのうた

▲春を迎える喜びを、すえのぶひろこさんの詩的な文章と、さこももみさんのあたたかい絵で表現した『とりのうた』(教育画劇)

『とりのうた』は、すえのぶひろこさんとの出会いから生まれました。すえのぶさんはフィンランド語翻訳家として活躍されている方なんですが、文章がとても素敵なんですよ。普段やりとりするメールの文面からして、詩のような、やさしくあたたかい雰囲気があるんです。

こういう日本語がなくなってしまうのはさびしいなっていうのと、そもそも、子どもにわかる言葉ばかり選んで絵本をつくっていると語彙が増えていかないよな、と感じていたこともあって、すえのぶさんの文章で絵本をつくりたいと思うようになりました。

最初は、編集者さんからのリクエストで、クリスマスのお話をすえのぶさんにお願いしていたんですが、できあがってきたのがこの『とりのうた』だったんです。クリスマスとは関係なかったんですけど、とてもきれいな文章だったので、これで進めましょうということになりました。

この絵本には、「かぜの くるまが はしっていて」とか「ゆきは おひさまと てをつなぐ」とか「ゆきがわらった」とか、とても詩的な表現がたくさん出てきます。言葉の美しさを生かす絵にしたかったので、絵を描くときは、文字の配置から考えていきました。ひらがなの縦書きで、どこにどう配置していくか―― そんな風に文字もデザインのひとつとして捉えたら、絵のイメージがふわっと浮かんできたんです。

今までの作風とはかなり違うんですが、読み聞かせをするお母さんお父さんにも楽しんでもらえたらうれしいですね。


……さこももみさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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