絵本作家インタビュー

vol.73 絵本作家 高畠那生さん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『でっこりぼっこり』や『だるまだ!』などの作品でおなじみの絵本作家・高畠那生さんです。絵本作家の高畠純さんをお父様に持つ高畠那生さん。お父様とはまったく異なる作風のクールでシュールな絵本の数々は、どのようにして生まれたのでしょうか? 新作『せきとりしりとり』のエピソードも伺いました!
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・高畠那生さん

高畠 那生(たかばたけ なお)

1978年、岐阜県生まれ。東京造形大学美術学科絵画専攻卒業。2003年、『ぼく・わたし』(絵本館)で絵本作家デビュー。主な作品に『チーター大セール』『でっこりぼっこり』(いずれも絵本館)、『だるまだ!』『カッパのあいさつ』(いずれも長崎出版)、『クリスマスのきせき』(岩崎書店)、『はたらくんジャー』(文・木坂涼、フレーベル館)、『せきとりしりとり』(文・サトシン、文溪堂)などがある。
http://www.nao-takabatake.com

この仕事をやってきてよかった

ぼく・わたし

▲苦手なこともあれば、得意なこともある。いろんな“ぼく”と“わたし”を描く『ぼく・わたし』(絵本館)

父が絵本作家ということもあって、子どもの頃から絵本はわりと身近にたくさんあったように思います。でもだからといって、いっぱい絵本を読んだり、読み聞かせしてもらったりっていう記憶はあまりないんですよね。絵を描くのも、それほど好きだったわけでも、得意だったわけでもなくて。嫌いなわけではないってくらい。成績も3とか4とかで、普通だったんですよ。

中学3年になって、どの高校を目指そうかなと考えていたら、美術科のある高校を父に紹介してもらったんですね。そういう高校があるってことをそれまで知らなかったんですけど、勉強だけじゃなく絵も含めての受験なら、その方が簡単かも?(笑)なんて感じで、その高校を受けて、合格したんです。

高校では、1週間のうち3分の1は美術の授業。そのままの流れで美大に進みました。大学では油絵のコースを専攻してたんですが、卒業後に就職する人はあまりいなくて、とりあえずそのまま卒業する人がほとんどだったんですね。でも、売れるかどうかもわからない絵を描いて暮らしていくのもどうかなと思って、絵本作家を目指すことにしたんです。身近に父というモデルとなる人がいましたからね。その後は、イラストや絵本のスクールに通ったり、コンペに応募したりして、2003年に『ぼく・わたし』でデビューしました。

絵本をつくるにあたって決めたのは、父と似たような絵はやめようということ。僕は僕なりの表現でやっていきたいと思ったんですよね。影響を受けたのは、ニューヨークのイラストレーター、マイラ・カルマン。その方の絵本を見てすごくいいなぁと思ったので、まずはその真似から入ったんです。そこからだんだん自分のスタイルが決まっていけばいいかなあと思っていました。

自分の中から生まれてきた何かを形にして残せるので、この仕事をやってきてよかったなと思っています。

もとはニワトリの話だった!?『チーター大セール』

チーター大セール

▲「あなたの模様をくださいな」と言われて、チーターは自分の模様をはがして売ることに……『チーター大セール』(絵本館)

『チーター大セール』は、最初からチーターの話をつくろうと思ってできたものではないんですよ。もともとは、丸裸のニワトリを描きたいと思ってたんです。つまり、鳥肌、鳥の皮ですね。それを描くためにはどんな展開にしていったらいいのかと考えて、どんどん毛をむしられて丸裸になってしまうニワトリの話を思いついたんです。

でも、裸になったニワトリを描いてみたら、あまりにもかわいそうな絵になってしまったんですね。それを見た出版社の方から、ニワトリではなくほかの動物で、と言われたんです。それならどの動物がいいか。動物って茶色いのが多いんですけど、ただ茶色ではなくて、何か模様がある動物の方がいいなと考えました。見た目にもにぎやかになりますし、多少雑に描いてもしっかり描いたように見えるというのもあって(笑)

最初はヒョウを思いついたんですけど、調べてみたらヒョウの斑点ってちょっと複雑なんですよね。もっとシンプルな黒丸の斑点がいいなと思って調べていたら、チーターに行きついて。それで、ヒョウではなくチーターを主人公にすることにしたんです。そこからまたストーリーを再構成して、今の形になりました。

『チーター大セール』もそうですけど、タイトルはなんとなくひっかかるような感じにつくってますね。すんなり発音できないようなひっかかり具合をねらっているんです。タイトルだけだと全貌がわからないっていうのも、何これ、どういうこと?って興味をひくんじゃないかな。

描きたい絵のイメージからストーリーをつくる

『でっこりぼっこり』のときは確か、グランドキャニオンみたいな何か巨大なものが描きたかったんですよ。そこから広げていって、巨大な人のあしあとの話をつくったんです。この絵本の最後は二段オチになっているんですが、もともとはひとつめのオチで終わりだったんですね。でも描いていくうちに、ふとその先の展開が思い浮かんで、描き足しました。このときは、あぁ降りてきた!って思いましたね。

でっこりぼっこり

▲一方がへこめば、反対側はでっぱる。そのことを地球規模でダイナミックに描いたナンセンス絵本『でっこりぼっこり』(絵本館)

僕の絵本づくりは、描きたい絵を数パターン、イメージすることから始まります。それを配置換えしながら言葉をつなげていって、そこからストーリーをつくっていくんです。つまり、ストーリーはあとから都合のいいようにつくっていくので、どうしても奇想天外なドタバタ劇になっちゃうんですよ。あと、めくるたびに全然違う絵を描きたいというのもあって。微妙な違いだけの絵を何枚も描くのは、描いている僕自身がすぐ飽きちゃうから無理なんです(笑)

できるなら、大人が読んでしんみりくるような絵本も一冊つくってみたいんですけど、絵先行でつくるこのやり方だと、難しいでしょうね(笑) なのでこれからも、自分で作・絵を手がける絵本については、ナンセンスなものばかりになるんじゃないかなと思ってます。

絵本をつくる上でいつも考えるのは、おもしろいかどうかってこと。それだけです。読む人をどうやったら裏切れるかとか、そういうことばっかり考えてるんですよ。絵本で「どう? すごいでしょ?」って言いたいだけなのかもしれませんね(笑)


……高畠那生さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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