絵本作家インタビュー

vol.70 絵本作家 あべ弘士さん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、動物を描かせたら右に出る者なし!『あらしのよるに』の絵や『どうぶつえんガイド』などでおなじみの絵本作家・あべ弘士さんです。旭山動物園の飼育係として25年間働いた経験を持つあべさんに、飼育係時代のことや絵本の制作エピソード、地元・旭川の魅力など、たっぷりと伺いました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・あべ弘士さん

あべ 弘士(あべ ひろし)

1948年、北海道旭川市生まれ。1972年から25年間、旭川市旭山動物園に飼育係として勤務。退職後、絵本作家として独立。1995年、『あらしのよるに』(文・きむらゆういち、講談社)で講談社出版文化賞絵本賞、産経児童出版文化賞JR賞を受賞。『雪の上のなぞのあしあと』『どうぶつえんガイド』(以上、福音館書店)、『どうぶつえん物語』(絵本館)、『くものきれまに』『エゾオオカミ物語』(講談社)、『ライオンのよいいちにち』(佼成出版社)、「かわうそ3きょうだい」シリーズ(小峰書店)など、130冊以上の絵本を手がける。

“動物命”で25年間続けた旭山動物園の飼育係

どうぶつえんガイド

▲動物園で出会える41種の動物たちを紹介する絵本『どうぶつえんガイド』(福音館書店)

飼育係になる前は、独学で絵描きを目指していたんだよね。絵描きになるために東京に行こうかと考えたこともあったんだけど、とあることからフラフラしてられなくなった。何の仕事をしようかと考えて思いついたのが、自然とかかわりのある仕事。子どもの頃から、自然の中に自分の身を置いておくことが好きだったからね。それで、動物園で働くことにしたんだ。

旭山動物園に採用されたのは、23歳のとき。飼育係になったとたん、絵なんかもうどうでもよくなってしまった。それまでの自分の興味とかいろんなものが全部ふっとんでしまうぐらい、ものすごくおもしろい仕事だったんだ。それから25年間、背中に“動物命”って書いてあるかのように、脇目も振らず飼育係の仕事に没頭したよ。

ウサギ、サル、カワウソ、ペンギン、クマ、オオカミ、ゾウ、キリンなど、いろんな動物を担当したけれど、自分の担当動物だけ世話していればいいというわけではないんだ。当時は飼育係の数がすごく少なかったし、交代で休みもとるから、どんな動物でも世話ができないといけない。掃除にエサやり、それ以外にもやることがたくさんあって、毎日朝早くから夜遅くまで本当に忙しかったね。

スケッチしなくても動物を描けるのは、それだけ動物たちと長い時間、濃いつきあいをしてきたから。キリンを頭の上から見た絵だって、ゾウをおなかの下から見た絵だって描けるよ。骨格や筋肉のつき方、毛の流れなんかも、自然と正しく描いてる。たとえばオオカミは、肩のあたりは毛が下に流れているんだけど、背中からお尻にかけては毛が横に向かって流れているんだ。嫌というほど触ってきたから、体で覚えてるんだよね。

この地球には、人間以外にもたくさんの生き物たちがいる

旭山動物園

絵の仕事を始めたきっかけは、動物園の機関誌や旭川のタウン誌。それらに載せた動物の絵が人気出てきてね、絵本を描くようになったんだ。しばらくは飼育係と絵描きという二足のわらじを履いてたんだけれど、どうにも大変になって、25年間勤めた動物園を辞めることにした。飼育係の仕事も大好きだったけれど、絵描きになるのは子どもの頃からの夢だったからね。でも、後ろ髪をひかれたな。

これまでに130冊ぐらい絵本を出したけど、そのほとんどが動物の絵。数えきれないほどたくさんの種類の動物を描いてきた。見てもらえばわかる通り、俺の描く動物はキャラクター化してないんだよね。でも、博物画ほどリアルでもない。親しみを持ちつつ、きちんと動物のことを理解できる絵を目指しているんだ。

俺の絵本を見た子どもたちが、動物を好きになってくれたらいいよね。そして、この地球には人間以外にもいろんな種類の生き物たちがたくさんたくさんいるんだってことを、わかってくれたらうれしいなぁ。

動物園ではたくさんの動物の命と向き合ってきたけれど、生死というテーマを絵本にするのは非常に難しい。それをストレートに出してしまうと、重たすぎるからね。だからそういうのはあまり直接的には描かずに、知らず知らずの間に少しずつ感じとってもらえるようなやり方がいいなと思ってるんだ。その中で、生きるって楽しいよということを子どもたちにも伝えていけたらいいよね。

北海道・旭川の旭山動物園では、園内のあちこちであべ弘士さんの絵が見られます。入り口すぐには、あべさんの絵のモニュメント、ほかにもあちこちに壁画があって、まるでギャラリー! 動物図書館では、飼育係時代のあべさんの絵が掲載された機関誌「モユク・カムイ」も見ることができます。

▼旭山動物園公式ホームページ
http://www5.city.asahikawa.hokkaido.jp/asahiyamazoo/

10年以上描き続けた「あらしのよるに」シリーズ

きむらゆういちさんの『あらしのよるに』の絵を描かないかという話がきたのは、飼育係を辞める2年ぐらい前。飼育係の仕事も絵本の仕事もどちらもやっていた、一番忙しい時期だったね。

送られてきた原稿を読んでみたら、すごくおもしろい。2枚目、3枚目と読み進めながら、頭の中でどんどん描き始めていたんだ。最後の一字を読み終えたときには、作品とまったく同じものが思い浮かんでた。最初から最後まで絵がそのまま思い浮かぶのはちょっとめずらしい。それぐらいおもしろかったんだよね。

すぐにラフを描いて編集者に送ったんだけど、さて今度は、頭の中に完全にできあがった絵をどうやって具現化させるか。絵の描き方について考え込んだ。

第1巻は、小屋の中に入ってきたガブとメイが、相手をヤギとも知らずオオカミとも知らず、真っ暗闇の中で友だちになるという話なんだけど、これは完全に演劇なんだよね。上手(かみて)からヤギ、下手(しもて)からオオカミがやってくる。しかも舞台は真っ暗闇。それをどうやって表現しようか。

そこで思いついたのが、普通に線描きしたものを、コピー機で白黒反転させて、それにマーカーで色をつけるという技法。描きあがった絵の真ん中をカッターで切って、間に文章を入れたんだ。こういう技法は、ずっと独学で自由にやってきたから考えついたんじゃないかな。

あらしのよるに

▲オオカミとヤギの不思議な友情物語『あらしのよるに』(大型版、講談社)。見開きは、あべさんが考案した技法で描かれた真っ暗闇の小屋のシーン。文はきむらゆういちさん。シリーズ全7巻

「あらしのよるに」は最終的に第7巻まで続いたんだけど、第1巻から第7巻まで見ると、ずいぶんと絵が変わっているんだ。話がどんどん重くなってくるから、絵にも自然と力が入ってきたんだよね。我ながら、同じ人が描いたとは思えないってくらい。10年以上描いてたんだから、そりゃあ絵も変わるよ。第3巻のあたりで描いた軽いタッチのあのいい絵は、今ではもう描けないんじゃないかな。


……あべ弘士さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


ページトップへ